表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

102/109

102.運命は巡る

 私たちは廊下を歩く。スッキリした顔で。


「ありがとね、二人とも」

「気にしなくていい」

「ああ、その様子なら、上手く話せたんだな」

「うん、おかげさまで」


 思えば初めてだった。リベラの本心を聞いて、彼女の心と向き合いながら話をしたのは。初めて姉らしいことができた気がする。

 二人に機会を貰ったおかげで、私はリベラと向き合うことができた。スッキリした気持ちの中で引き締まる思いもある。

 そう、私にはもう一人、向き合うべき人がいる。


「――失礼します」

「どうぞ」


 扉を変えて私たちは対面する。今度はトーマ君とシズクも一緒に。


「お久しぶりです。室長」

「……ええ」


 彼女もリベラと同じように、その顔には疲れが見受けられる。道中でシズクに聞いた話によれば、カイウス様の一件で、宮廷錬金術師たちには監視が付くようになったそうだ。

 中でも特に室長とリベラは疑いの目を向けられていた。事件前からカイウス様と親しく距離も近い二人だったから、最近まで行動の自由もなかったらしい。

 今は監視の姿はない。皮肉なことに、病が広まったことで彼女たちへの締め付けは緩くなった。

 その代わり、終わらない量の仕事を押し付けられているようだ。


「……本当に、来てくれたのね」


 室長はぼそりと口にする。消え入りそうな声で。


「来てくれないと……思っていたわ」

「それは……」

「私とリベラなの。貴女に助力をお願いする提案をしたのは」

「え、そうだったんですか?」


 命令書には特に書かれていない情報だった。私もシズクたちも、てっきり陛下のお考えで私が呼ばれたのだとばかり……。

 二人の推薦だと知っていれば、私はここへ戻ってこなかっただろうか?

 ううん、そんなことない。誰の名が書かれていたとしても、私は必ずここへ来ていた。


「室長、病に関する詳しい情報を頂けませんか? それから、どこか開いている研究室を貸していただけると嬉しいです」

「え、ええ、すぐに手配するわ」

「お願いします」


 勘違いさせてはいけない。私は別に室長たちを助けるために戻ってきたわけじゃない。私はただ、病で苦しんでいる人たちを助けたいだけだ。

 室長もリベラのように苦しい日々を送っているのだろう。でもそれは、彼女が果たすべき責任で、当然のことをしてきた。

 私と室長はただの他人だ。リベラのように妹でも、ましてや友人ですらない。だったらこれ以上、語り合うことはない。

 私たちは資料を受け取り、部屋の場所を聞いて出て行こうとする。


「アメリアさん」


 背を向けた私を室長さんの声が呼び止めた。私はピタリと立ち止まる。振り返らず、背を向けたままで尋ねる。


「なんですか?」

「……来てくれてありがとう。それから……今までごめんなさい」


 リベラ以上に意外だった。私は、室長が誰かに謝罪する姿を見たことがなかったから。私たちは他人だ。もう上司と部下でもない。友人ではないし、これから仲良くなることもない。

 この一件が終われば私は王都を出て行く。だから今、私が彼女に言えることがあるとすれば……。


「室長さん。リベラのこと、お願いします。私みたいには、ならないようにしてくださいね?」

「……ええ。約束するわ」


 姉として、おせっかいな一言を残すことくらいだ。


  ◇◇◇


 病の原因は魔物の攻撃を受けて負傷した騎士たち。彼らが発症した症状は、熱、悪寒、倦怠感、筋肉の痛み、頭痛……。

 どれも風邪のよくある症状ではある。特筆すべきはその感染力だった。騎士たちが帰還して一週間も経たずして王宮中に広まり、十日目には王都にも災禍は広まったそうだ。


「魔物が原因の病気はいくつもあるけど、ポーションが効かないのは珍しいね」

「いや、厳密には効かないってわけじゃないそうだぞ。ここに書いてある通りだと、一時的な症状の緩和はできるらしい」

「すぐにまた熱が出る。その繰り返しみたい」


 私はトーマ君とシズクと一緒に、受け取った情報を整理しながらポーション作りの素材が届くのを待っていた。

 通常、魔物の毒はポーションによって体内の毒素が中和されることで治癒する。今回量産されているポーションも同じタイプだった。

 選択としては間違っていないけど、それで一向に治らないのならポーション効果の見直しが必要になる。


「毒素……じゃないのかもしれないね」

「他に原因があるってことか」

「うん。取り除くべきものが他にも……」


 負傷が最初の原因なら、血や唾液といった体液が考えられる。だけどここから他人へ感染するとは考えにくい。

 他に何か……魔物から人に入りこむことで悪影響のある物質。通常のポーションでは効果が薄く、感染力も強い。まるで見えない……。


「魔力?」


 一つ思い当たる節があった。魔力には個人差があり、同じ種族や家族であっても同じ性質のものは存在しない。異なる魔力を摂取することは、予期せぬ体調不良に繋がる。

 エルメトスさんのお願いの一件で、私は散々魔力やその性質について学んだ。その経験と知識がこれだと言っている。


「魔物の魔力が騎士の身体に入り込んで変異したんだ!」

「なっ、これも魔力が原因なのか?」

「これも?」

「あ、ああ、そういえばシズクはいなかったから知らないか。最近俺たちの領地でもあったんだよ。魔力絡みの事件が。アメリアのおかげでみんな助かったんだ」


 トーマ君がシズクに説明している傍らで、私は情報を整理する。人間と魔物なら確実に魔力の性質は異なる。その差はかなり大きい。

 人間が魔物の魔力を摂取すれば、様々な症状となって表れても不思議じゃない。

 魔力は通常、そのままでは放出されることはない。ただし例外があることを私はすでに経験して知っている。

 人間の身体に入ることで変質した魔力が体外に放出され、他の人たちにも伝播する可能性は大いにあるだろう。

 とはいえ、あくまで仮定の話でしかない。

 この仮定を立証するためには、実際にポーションを作り出して試す他ないだろう。そこへちょうどノックの音が聞こえる。

 素材を運んできてくれた人だった。


「お待たせしました。素材はここに置いておきます」

「ありがとうございます。すみません。追加でお願いしてもいいですか?」

「はい。もちろん」

「じゃあ、この紙に書いてあるものをよろしくお願いいします」


 何の因果だろうか。

 奇しくも私は、あの領地を救った方法と同じことをしようとしている。私が生まれ育った場所を、この地に暮らす人々のために。


「俺の領地を救ったものが、今度は王都を救うのか。なんだか不思議な感じだな」

「そうだね」


 私も同じ気持ちだった。

 とても不思議な気分だ。まるでこうなる未来が最初から待っていたような気さえする。これも運命だとするなら……。

 私がここへ戻ってきたことも、追い出され彼と出会ったことも、やっぱり運命だったに違いない。

【作者からのお願い】

これにて第四章は完結です!

ぜひともページ下部の評価欄☆☆☆☆☆から、お好きな★を頂ければ非常に励みになります!

ブックマークもお願いします。


次回をお楽しみに!


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新作投稿しました! URLをクリックすると見られます!

『残虐非道な女王の中身はモノグサ少女でした ~魔女の呪いで少女にされて姉に国を乗っ取られた惨めな私、復讐とか面倒なのでこれを機会にセカンドライフを謳歌する~』

https://ncode.syosetu.com/n2188iz/

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

第一巻1/10発売!!
https://d2l33iqw5tfm1m.cloudfront.net/book_image/97845752462850000000/ISBN978-4-575-24628-5-main02.jpg?w=1000

【㊗】大物YouTuber二名とコラボした新作ラブコメ12/1発売!

詳細は画像をクリック!
https://d2l33iqw5tfm1m.cloudfront.net/book_image/97845752462850000000/ISBN978-4-575-24628-5-main02.jpg?w=1000
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ