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09

 アネッサさんが案内してくれた武器庫には驚くほどたくさんの武器が並べられていた。


「わぁ〜、すごい。お店では見たことないのもありますね」

「ああ。ここは主に買い替えで下取りした武器を置いてるんだ。だからすでに強化されてるものも結構あるんだよ」

「つまりすでに強い武器もあるってことですね」


 なるほど。

 これなら選び甲斐がありそうね。


 そんな話をしながらいくつかの気になる武器を手に持った。


「この短剣はなんでこんなに刺々しいんですか?」

「ああそれな。いらんな毒を混ぜるためにいろんな毒針を着けたそうだ。そんで最後は手持ち部分にも着けて、武器主も毒にやられたらしい」

「……馬鹿ですね」

「まあな」


 どうやら実用性が欠けた武器もあるようね。

 他にも刀身が飛んでいく剣や、叩くと不快な音が鳴るハンマーなど用途がわらかない物がたくさんあった。


「……ハンターってよくわからない物を求めるんですね」

「そして最終的にはシンプルな物に落ち着くのさ」


 なるほど。

 こんな訳のわからない物を使ったあとなら純粋な武器が欲しくなるかもしれないわね。


「でもシンプルな武器で強いってことは、結局は本人が強いってことだからな」

「む〜、そうなると私はまだ……ん?」

「どうした?」

「くん、くんくん。なんか匂う」

「そりゃあんたの糞の」

「違います!」


 確かに今朝の枕の匂いはショックだった。

 でもこの匂いは違う。

 私が間違うはずがない。


「やっぱり……火薬の匂いがする」

「……わかるのかい?」

「はい。こっちの棚の方から」


 そして私はまだ案内されていない奥の棚に向かった。そこにはさっきまでの物よりももっと古い武器達が乱雑に置かれている。


「ここはもう役目を終えた武器達さ」

「役目を?」

「ああ。もう20年以上前の武器だと思ってくれていい。だから造りも古くてね。なんとなく捨てられずに奥に追いやられてるのさ」


 確かにここにある武器はどれも埃を被っていて、なかには錆だらけの物もある。ただ、何故かその武器達から目が離せない。この武器達が死線を潜り抜けてきた猛者のように感じてしまう。


「……ヒメリアはなかなか見る目があるね」

「いや、わかんないですけど……この武器達がこの街のために戦ってくれたような気がして」

「間違ってはないさ。ここの武器はこの街を開拓する頃に使われた武器だからね」


 もしかしたら昔私を助けてくれてハンターが使っていた武器もここに眠っているのかもしれない。そう思うと急に胸が熱くなった。


「アネッサさん。私、ここから武器を選んでもいいですか?」

「ふふ。好きにしな。ただし、念入りに手入れをしないといけないよ」

「はい!」


 そう言って私は棚の中を見つめながらゆっくりと歩いた。傷だらけの武器だけど、どれも私には輝いて見える。


(この武器なんて継ぎ接ぎだらけで見てくれなんて最悪ね。でも、とっても頼り甲斐があるわ)


 この街は先代のハンター達が土地を切り開いて作った街。だから今よりも苛烈な戦いがモンスターとの間に合ったはず。

 そこにはきっと人に見せる華やかさなんてまだ必要なかったのかもしれない。


(ハンターは人気商売だから見た目もステータスになるし…………?)


 そして棚の一番奥で布をかけられた何かを見つけた。気のせいでなければそこから火薬の匂いが漂っている。


 後ろを振り返るとアネッサさんが何か言いたげに笑っていた。


「あんたはそれを見つけるんだね」

「これは?」

「まぁ、手に持ってみな」


 アネッサさんに促されて布をめくる。するとそこには私でもなんとか扱える大きさの片手斧があった。


 ただ、これは普通の斧じゃない。

 柄の手元には銃の引き金のようなものもあるし、刃が取り付けられている先端側には噴射口がついている。


「なんですかこの……カラクリ斧は?」

「はは! カラクリ斧か。まぁ間違っちゃいないね。それは斧銃アクスガンと言ってね、斧でありながら銃のように弾を撃ち出せる特殊な武器さ」


 アクスガンというのは初めて聞く。試しに手に持ってみると私が片手で持てるほど軽い。柄の中が空洞になっているおかげかしら?


 銃としての役割は未知数だけど、斧としては軽量で私にも使いやすい。だんだんと私はこの武器が気に入りだした。


「でもこれ、斧というよりも剣みたいな刃先ですね?」

「よくわからんが斬るタイプの斧らしい」

「? 叩き切るじゃなくて?」

「ああ。私も試したことはあるが全然使えなかった」


 アネッサさんで駄目なら私にも無理じゃないかしら。でも気になるのよね。


「じゃあ、銃としてはどうだったんですかね?」

「聞いた話だけど、弾が飛び出るよりも暴発してることの方が多かったらしいよ」

「暴……発」

「なんでも銃口から火を吹いてたらしい。だから量産されなかったし、その試作品限りの不遇武器さ」

「火を……吹く」

「わかったかい? だからその武器はやめ」

「何を言ってるんですか!」


 私の大声にアネッサさんの肩が大きく揺れたが、私はそれを無視してこの胸に溢れる感動を口にした。


「アネッサさん! この武器の最大の特徴は弾が飛び出ることじゃないんです!」

「え? いや、銃なんだからそこが特徴だろ」

「いえいえ! 確かに銃は素晴らしいですよ。 それは認めましょう。でもアネッサさんが言ってたように弾代って馬鹿にできないし、品質を保てないんですよ」


 当然アネッサさんは私よりも武器に詳しいから頷くだけ。でも私が何を言いたいのかわからずに首を傾げている。


「でもね! でもね! このアクスガンは火を吹く事ができるんですよ! つまり弾代がかからないんですよ!」

「……いや、火を吹くのは失敗だろ」

「つまり火薬代だけでいい! しかも私はその火薬に当てがある!」

「!? まさか! コウモリの糞を使うつもりか!」


 これはきっと神が与えてくれた施しね。

 私はそれをちゃんと理解しているわ。


「ありがとう、神様」

「やめな! あんた戦いの最中にあんな臭いを撒き散らすつもりかい!」

「接近戦ができる上に火まで吹く……まさにロマン武器……」

「……まじか」


 アネッサさんが絶望とも言える表情を浮かべていたけど、私は気にすることなくアクスガンを胸に抱いた。


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