07
それから私はお姉さんに促されてギルドの裏庭で水浴びをした。
うん。
普通に臭い。
馬車を乗る時にみんな優しくしてくれたのは勘違いだったとようやく気がついた。
「あとは火傷の治療だね。ついてきな」
「あ、ありがとうございます」
お姉さんは我が家のようにギルドの中を自由に歩いている。今歩いているのも受付の内側なのでギルド関係者かもしれない。
そして案内された部屋には薬品がたくさん用意されていて、私はそこにある椅子に座らさせられた。
「なにからなにまですみません」
「はは、いいのよ。ハンターやってればいろいろあるからね」
確かにこのお姉さんはいろいろやっていそうだ。それだけの迫力を持っていた。
「名前は?」
「え?」
「あんたの名前だよ。爆砕姫ってあだ名は知ってるけど、名前までは知らなくてね」
私のあだ名はどこまで広がってるのかしら?
少しだけ自重が必要かもしれない。
「私の名前はヒメリアです」
「ヒメリアか。それであだ名にもヒメが入ってたのか」
「はは……」
まったくもって不名誉なあだ名だけど、昼のの戦いといいそれを否定できないほどに私は悪目立ちし過ぎていた。
「あたしの名はアネッサ。元ハンターで、今は裏方をしてんのさ」
「元ですか? まだお若そうなのに」
「まあ、足を怪我してね。昔みたいに走り回れなくなったのさ」
アネッサさんは短パンを履いているけど、右の太ももには包帯が巻かれていた。
年は30歳くらいかな?
怪我をしていなければ現役のハンターだったのかもしれないわね。
「それでも今の仕事も気に入ってるからいいのさ。それで、今日はどんな冒険をしたのか聞かせてくれよ」
アネッサさんが努めて明るく話しかけてきたから、私もそれに応えようと明るく返事をした。
「はい! コウモリのウンチから爆弾を作ってたんです!」
「……マジで?」
アネッサさんはさっきまで火傷の治療をしてくれたけど、ピタリと動きを止めた。
「アネッサさん?」
「あ、ああ。その、続けてくれ」
それから私は今日の出来事をたくさん話したけど、元気なアネッサさんはどこに行ったのか、最後まで静かに頷くだけだった。
「すみません、治療までして頂いて」
「ああ。その、頑張れよ。はぁ〜」
そしてアネッサさんは静かに部屋を出ていった。それはそれは寂しそうな背中で。
(ん〜、なんだろ? ま、いいや! 帰ろ!)
気を取り直して私はスキップしながら家に帰った。すれ違う何人かが急に振り返った気がするけど気のせいのはず。
はずったらはず。
もう臭くないはず!
◇◇◇◇
「……臭い。乙女の枕の匂いじゃないわ」
朝からテンションだだ下がりだ。
ハンター試験に受かった事を忘れてしまうくらいにショックだ。
それでも気を取り直して服を着替える。
なんせ今日からハンターだ。
これから毎日冒険の日々だ!
(……で、なにすればいいのかしら?)
いきなり森に行っていいのかしら?
いやいや武器も持ってないし。
あれ?
私全然ハンターのルール知らないや。
(ハンターになるまでの事は考えてたけど、なってからについては知らないわね)
うっかりしていたわ。
でも大丈夫!
きっとギルドがなんとかしてくれるはず!
そして朝からスキップしてギルドに向かった。
◇◇◇◇
「お、ヒメリア! こっちだこっち」
「あ、アネッサさん! おはようございます!」
ギルドに入るなりアネッサさんが私を見つけて声をかけてくれた。
「もう少ししたら新米ハンターへの説明会がはじまるから訓練所に行きな。あんたが最後だ」
「よかった! 私それを知らなくて」
「だろうな。とりあえず説明してなかった奴はボコったから許してやってくれ」
ボコった?
そして私がそれを許さなかったらどうなるのかしら?
あとがこわいから黙って頷いておいた。
そして訓練所に入って驚いたのが、人数が少なかった事だ。
昨日は30人くらいいたはずなのに、10人くらいまで減っている。
(そっか。試験でこんなに減るのね。しかもこの新米ハンターから抜け出せるのは半分って聞いた事がある)
ようやくハンターになれた。
でも、ここはまだスタート地点なんだ。
(やるわ。負けないわ)
ここに女は私しかいない。
だからといってあきらめたりしない。
夢を追いかける為、私は一歩踏み出した。




