06
ホーンシープ亜種の角を握って私は川を降った。
すでに鞄も応急セットもない。
なんなら服もボロボロで火傷だらけ。
でも気持ちは晴れやかだった。
まさかはじめての冒険であんな戦いになるとは思ってなかった。昨日の自分に教えても信じないと思う。
「ふふ、きっと私はとんでもないハンターになるわね」
そして数時間歩いて日が暮れた頃、私はようやく森を抜けて馬車を見つけた。
(疲れた〜、馬車まであと少し〜)
流石に体力の限界だった。
もう帰ってすぐに寝たい。
そんな心身共に疲れた私に不快な声が聞こえてきた。
「お! 爆発姫が帰ってきたぞ! ようやくあきらめたか」
「てか服がボロボロじゃね? ほんとに爆発したんじゃね?」
「「「ぎゃはははは!」」」
なにがおかしいのか下品な笑い声が聴こえる。もう爆発姫にツッコむ元気もない。
そしてとぼとぼと歩く私の前に1人の男が立った。ギルドで説明してたジム男ね。
「お疲れ様で……!?」
「? どうしました?」
「い、いえ、その、大変でしたね」
なにを慌ててるのかしら?
あ、この角に気がついたのね!
なんたってこれは亜種の角で黒いんだもん!
そりゃびっくりするわよね!
「はい! 大変だったんですよ! でもすごく頑張ったんです!」
「そ、そうでしょうね。その、話はあとで聞きますのでとりあえず馬車に……」
疲れた私を気遣ってくれたのかしら?
意外と気の利く男ね。
ジム男と呼ぶのは失礼かしら?
そして促されるまま馬車に進んだけど、そこには不快な男達が先に乗っていた。
「どうせ駄目ならこんな遅くまで粘らなくても……」
「どんだけドジったらそんなにボロボロに……」
「おいおい、髪が焦げてほんものの天パに……」
失礼な事を言ってきた男達だったけど、私を見て全員言葉を止めてしまった。
当たり前ね。
あんた達が持ってるのは普通のホーンシープでしょ?
私は亜種よ亜種!
「すごいでしょ。これに懲りたらしょうもない事言うんじゃないわよ」
男達はびびったのか両手で口を塞いで目を見開いてる。
ふふ。
これで馬鹿にされる日々もお終いね。
そして颯爽と馬車に乗り込むと、7人の男達は入れ替えるように外に飛び出した。
ふむふむ。
勝者に席を譲るルールでもあるのかしら?
でも他の馬車は出発しはじめたからもう乗る馬車はないわよ?
「仕方ないわね。隣に座る事を許可してあげるわ」
「「「……(フルフル)」」」
7人全員が口を抑えたまま首を横に振った。
いいのかしら?
別に元気なら歩いて帰ってくればいいんでしょうけど。
「……じゃあ御者さん、出発お願いします」
「へ、うぇぷ」
「?」
御者さんは変な返事をしながら馬を走らせた。それもかなりの速度で。
(やっぱり疲れた私を早く休ませようとしてるのね。ハンターになるとみんな気を利かせてくれるから優しく感じるわ)
そして私はすぐに眠りについた。
遠くから「くせ〜」というハモリ声を聴きながら、心地良く眠りについた。
◇◇◇◇
「……お……、おき……、おきろ!」
「ひゃい!」
なに!
なに!?
私はびっくりして飛び起きた。
そしてそんな私にさらなる悲劇が襲う。
バシャーン
「ぎゃあ! 冷たい! しかも臭い! なに!」
意味わかんない!
なんでいきなり水ぶっかけられてんの!?
「臭いのはこっちよ! なにやらかしたらそんな匂いになんの!?」
怒鳴り声に顔を向けると男前なお姉さんがバケツを持ってこっちを睨んでた。
う〜、色んな意味で震える。
「私、なにかしました?」
「なにかしましたじゃないよ。あんたのせいでこの馬車は何日か使い物になんないよ」
確かにお姉さんのせいでこの馬車は水浸しだ。
「乾くまで時間かかりそうですもんね」
「なんでよ。あんたのその匂いのせい……ん?」
そこまで言ってお姉さんは私の体を上から下までジロジロと見た。
私もそれにつられて自分の体を見て気がついた。服が燃えてボロボロなのにさらに水をかけられたからなかなか恥ずかしい事になっている。
「その、ちょっとサービスし過ぎましたかね?」
お姉さんの後ろには遠巻きに何人かのハンターらしき男達もこっちを見ている。もしかしたら刺激的過ぎたかもしれない。
「あんた、早く馬車から出ておいで」
「え? いや、ちょっと恥ずかしいので」
「いいから早く!」
「あ、はい」
こわっ。
なんか急にこわっ。
これは逆らってはいけないと感じて私はそそくさと馬車から降りた。その時にお姉さんはなんと手を差し伸べてくれた。男前過ぎて普通に惚れる。
「……痛かったね」
「え? あ、でも自分でやったことなので」
「そうかい。よく頑張ったね」
そしてお姉さんは私の頭にポンっと手を置いて笑いかけてくれた。
(誰か知らないけど……めっちゃかっこいいんですけど)
私は必死に照れを隠して固まった。
お姉さんはそんな私から視線を外すと、振り向いて後ろにいるハンター達にドスの効いた声で話しかけた。
「おい、なんでこんな事になってんだ?」
「「「ひっ」」」
急な展開でついていけない。
ただわかる事は、私は空気になるべきだという事だけだ。
「なにが女の子がへまをしただ?」
「い、いや、だって」
「お前等はこんなにも傷ついた子を放置してなんとも思わなかったのか?」
「そ、その、近づけなかったので」
お姉さんの殺気で肌がひりつく。
ひびってる男の中にはジム男もいて、すでに顔面蒼白だ。
「それで? お前の評価ではこの子は不合格と言ったな?」
「は、はい。陽も落ちていましたし、目標も達成できていませんので」
それを聞いて私はショックを受けた。
(あんなに頑張ったのに……しかも亜種は認められないなんて……)
それが対象違いと時間切れで不合格だなんて考えてもみなかった。
悔しくて手に持っていたホーンシープ亜種の角を握りしめる。はじめての冒険ではじめての成果だと思ったのに。
するとお姉さんは私が握っていた角を手にとり、優しく笑いかけてくれた。
「ちょっとこれ借りるよ?」
「……(コクコク)」
言われるままに角を渡すと、お姉さんはそれを持ってゆっくりと男達に歩み寄った。
対して男達は少しずつ後退りをしている。
同情はしないがその気持ちはなんとなくわかった。
「ひと〜つ、お前は陽が落ちるまでと明言したのか?」
「え?」
ジム男は隣の男達に目を合わせようとしたけど、誰も目を合わせてくれない。
「ふた〜つ、ホーンシープの亜種は含まれないと説明したのか?」
「いや、でも普通の依頼では、それは常識ですの……で」
ジム男は最後に目を伏せて小さく呟いた。
そんなジム男の肩にお姉さんはグリグリと黒い角を突き立てた。
「もう一度聞くぞ。この子の失格理由はなんだった? 私はへまをしたとしか聞いてないが?」
「……僕の、勘違いでした」
「あ? 勘違い?」
「ひっ、間違いです! 僕の説明不足と間違いのせいです!」
「じゃあ合否は?」
「合格です! すぐに対応します!」
そしてジム男は逃げるように走り去ってしまった。
なんだか見てるこっちがかわいそうに感じて、爆砕姫のあだ名を広げられたことに対する恨みもなくなってしまったわ。
そんな光景をボーっと眺めているとお姉さんは笑顔で振り返った。
「これであんたも晴れてハンターだ。おめでとう」
最後はゴリ押しのような気がしたけど、私のハンター試験はようやく終わった。




