04
ガウガウウサギを倒したあともしばらく歩いてみたけど、景色は全然変わってくれなかった。
つまり現在進行系で迷子だ。
(みんな何を目印に活動してるのよ。道らしい道なんてないし)
愚痴ってみてもなにも変わらないけど不思議だ。思いついて木に印をつけてたけど、今更なことに気がついてそれもすぐにやめた。
「あとはどうやって遭難から脱出するのかしら? 太陽の他に目印となると……ん?」
思い悩む私の耳はかすかに流れる水の音を捉えた。
なんて幸運!
きっと日頃の行いがいいおかげね!
「やったわ! これで飲水を確保できる!」
そして私はスキップしながら水の流れる方に歩いていった。
「わぁ〜、滝だったのね〜」
音が聴こえてから随分と歩かされると思ったら、急に森が開けて滝が現れた。
しかもそこは空が見渡せておまけに川が出来上がっている。
「これで方角がわかるわ。それにこの川を降れば森も出られそうね」
ようやく休憩らしい休憩ができる。
太陽はまだ真上だから森に入って3時間くらいしか経ってないはず。それなのに随分と疲れてしまった。
「ゴクゴク……ぷは〜、生き返った〜」
数時間ぶりに水を飲めた事でほっとひと息つけた。はじめての森と戦いで思った以上に疲れていたのかもしれない。
(さて、さっきまで帰りたいと思ってたけど、今の私はどうかしら?)
弱腰だった自分はガウガウを倒した事で乗り越えられたはず。それに帰り道がわかった今、そこまで焦る必要もない。
(あきらめるのはまだ早いわね。必ずホーンシープを見つけて討伐してやるんだから)
よし!
気合を入れ直した。
もう大丈夫!
もう逃げない!
今日何度目かわからないけど再び胸を張って立ち上がる。
「見てなさい! 必ずホーンシーぶぅあー!!」
バザバサバサ
『キキキキキ』
「ぎぃやあ~~!」
出たー!
コウモリ〜〜!
無理無理!
だって気持ち悪い!
叫ぶなって言うほうが無理!
コウモリの群れが滝の後ろからどんどん飛び出してくる。
私に攻撃してはこないけど、それでも精神がガリガリに削られる。これならまだ迷子だったほうがよかった。
それからしばらく座り込んでコウモリの群れが去るまで耐えた。
ひどい体験だった。
通り過ぎるだけでこれほどの精神的ダメージを受けるとは思わなかった。
「なんなのよ。なんで急に飛び出してくるのよ」
思い出しただけでもげんなりする。
そんな事を考えていると背後の茂みから音が聴こえた。
ガサガサ
「なにかしら? あ、もしかしてまたガウガウウサギかも。ふふ、ここなら捌いてご飯に丁度いいわ」
またコウモリが飛んでくるかもと一瞬だけ思ったけど、あえてそれを無視して都合のいい事を考えた。
だからだろう。
この時の私は危険を察知するという行動をまったくとっていなかった。
ガサガサ
『ベフゥ―』
「……え?」
なにこいつ?
見た目は羊だよね?
でも体は黒くて大きくて、とんでもなくでかい角が二本あって。
「……二本?」
急に寒気を感じた。
こいつは間違いなくホーンシープ。
でもこいつはホーンシープの上位的存在のホーンシープ亜種かもしれない。
「な、なんでこんな所にいるのよ。森にホーンシープ亜種がいるなんて……」
そこで私はようやく気がついた。
(森? なんで森に滝があるの?)
そして振り返って滝を見つめてようやく事態を把握できた。
「うそ……ここはもう、山の麓なの?」
さっきまでは浮かれていて気にかけていなかったけど、滝は岩肌の崖から流れ落ちている。
しかもその崖は横にも上にも遠くまで続き、森から山に変わることを無言で告げていた。
つまりここは、もうハンター希望者がうろついていいエリアではないということになる。
ガッガッ
ホーンシープ亜種は前脚で地面を弾きながら威嚇をしてくる。
それに対して私はなにもできない。
ナイフを握る事もできず、立ち尽くすしかできなかった。
『フヴ!』
ダッ
そしてついにホーンシープ亜種は私を目がけて駆け出した。
頭を下げて2本の角を突き立てている。
「ひっ」
そこでようやく私も走り出したけどどうしていいかわからない。
速さは間違いなく向こうの方が上で、逃げられるはずがない。しかもなにも考えずに走り出してしまったからなぜか私は崖の方を向いて走っている。
(どうしてこうなる事を考えなかったのよ!)
自分に悪態をつくけどどうしようもない。
ホーンシープ亜種の角はもうすぐ後ろ。
せめてそれに貫かれるのだけは避けないといけないと思って身を捻った。
『ヴ!』
ガスン
「っかぁ」
なんとか角は躱したけど、それでもホーンシープ亜種の体当たりをまともに受けて私は吹き飛ばされた。
そのまま転がって崖の下でようやく止まる。
ただし、これ以上走って逃げられる場所はなさそう。
(なんでこんな目に……ハンターになろうと思っただけでなんでこんな目に合わないといけないのよ)
痛みと悔しさで涙が出てくる。
でもその悔しさが後悔に変わる事はない。
なぜなら私は幼い時にハンターに命を救われたから。だから、私がハンターを目指した事を後悔するはずがない。
(あの時助けてくれたハンターもあきらめるなって言ってた。なにか、なんでもいいからチャンスを)
ホーンシープ亜種は走り抜けたあと、また前脚で地面を弾いている。その隙に周囲を見渡して使えるものを探した。
その時、私の目は滝の後ろにある小さな洞穴を見つけた。
(あれはコウモリの巣? もしあの中に他のモンスターがいれば今度こそ死ぬかもしれない。でも、それでも)
覚悟を決めて洞穴に向かって走り出した。それに合わせてホーンシープ亜種も追いかけてくる。
さっきの体当たりで打たれ部分が痛む。
それでも歯を食いしばって真っ直ぐに走る。
(あと少し! もう少し!)
洞穴の入口は私の胴体部分くらいの大きさで少し高い場所にある。
ジャンプすれば手をかけてなんとか入れるはず。そしてあの位置と大きさならホーンシープ亜種は入ってこれない。
背中に迫る蹄の音を感じながらも最後の一歩を踏みつけ、大きく上に飛んだ。
「届けー!」
ガシ
(よし!)
穴に手をかけると、そのまま上半身を素早く洞穴の中に突っ込んだ。それと同時に後ろからホーンシープ亜種の鳴き声が聴こえてくる。
『ブルア〜〜』
バッシャーン
ホーンシープ亜種はそのまま川に落ちたみたい。ふふ、作戦成功ね。
「でも暗……う、くさ! コウモリの糞くさ!」
私は違う意味で死にそうになった。




