表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

31/37

31

「……私たち、やっちゃった?」

「……はい。やっちゃいましたね」

「ほんとにほんとに?」

「はい。ほんと〜に、やっちゃいました……たぶん」


 動かくなったフルバレットを眺めても実感はわかない。隣に立つステラさんの顔を見るけど、ステラさんも実感が湧いてなさそうな顔をしている。


 どうしていいかわからないからとりあえずアクスガンに特殊弾を込めてみた。でも指が震えて上手く充填できない。


(本当に私たちが倒したの? これで誰もが認めるハンターになったの?)


 意味のない自問自答を繰り返すけどやっぱりわからない。森に隠れているハンター達に視線を向けるけど、なんの返事もない。



「…………カチッと」

 バス――ン!


 あまりにも実感がわかないから、私は銃口をフルバレットに向けてトリガーを引いた。ただ、半ば呆けていた私は踏みとどまれなくてそのままゴロゴロと転げてしまった。


「ぎゃああああ!」

「え!? なにしてるのヒメリアさん!?」


 黙って私の様子を見ていたステラさんが慌てて私に走り寄ってくる。


「「「大事な素材になにしてんだよー!?」」」


 森の中からは血相を変えてゴメスさん達が飛び出してくる。


 そして私はいつもの爆風にやられてボロボロだ。


「……ふふ、ふふふふふ。痛い」

「ヒメリアさん?」

「なんだ? 頭おかしくなったのか?」


 痛みと一緒に私の中でなにかが込み上げてきた。


「痛いわ! つまり、これは夢じゃない!?」

「そ、そうですわね」

「だから、やったのよ」

「?」

「私とステラさんで、ちゃんとフルバレットを倒したのよ!」

「……本当に?」

「本当よ! ステラさんが考えた作戦は完璧だった! あんなに上手くいくなんてステラさんはすごいわ!」


 嬉しくなって私は飛ぶように起きた。

 するとステラさんも実感したのか、少しずつ目に涙をためはじめている。


「……やったのね?」

「やったのよ! 私たちは、強いモンスターを倒したのよ!」

「……う〜、これで、やっと報告できる〜」


 我慢できなくなったのかステラさんは鼻水を流しながら膝から崩れ落ちた。


 ステラさんはずっと我慢してきたんだ。なぜモンスターを討伐していたことを黙っていたかはわからないけど、フルバレットなら胸を張って報告できるはず。


 ステラさんは、ようやく前に進めるんだ。


(そして、私も目標に近づいたわ!)


 ギルドマスターは明言しなかったけど、この試験をクリアすれば私は中位のハンターになれるはず。それはつまりより強いモンスターと戦える資格であり、私たちの住む街を守ることに繋がる。



 そんな感動に身を震わせていたけど、ダラダラと森の中から出てきた下位ハンターの反応は薄かった。


「なんかあっけなかったな〜。フルバレットって実は弱いんじゃねえ?」

「はあ!?」


 戦いは確かに短期決戦だったけど、私たちは知略を尽くして命懸けで戦った。それをあっけなかったなんて許せるわけがない。


「だってそうだろ。お前等の攻撃なんて一発ずつしか当たってねえんだし」

「確かに。速いだけで打たれ弱かったんじゃね?」

「それにあんな盾で簡単に受け止められてたしな」

「あとその斧。そんなナマクラで切られるんだから紙装甲だったんだろ」

「これなら俺たちの昇格も余裕だな!」

「いや、こいつ等のせいで流石に試験内容見直されるだろ」

「「「がはははは!」」」


 戦ってもないそいつ等は好き勝手に言って笑った。


 だけどフルバレットは決して弱いモンスターじゃない。私たちだって、弱くはない。

 悔しくて思わずトリガーにかけた指に力が入った。


(でも、喧嘩はできない。だってハンターは対人戦闘は禁止だから)


 この大人数に私が手を出したと報告されたらせっかく勝ち取った試験が台無しになってしまう。そうすればステラさんだって悲しむ。


 だから、私は俯いて我慢した。


「……おい」

「ああ」


 ガチャガチャ


 その時、黙って見守っていた中位ハンターの人達がみんな武器をその場に置いた。

 それを不思議に思って見ていると、引率のゴメスさんが顔を真っ赤にして下位ハンター達を睨んだ。


「ステラとヒメリアはな、お前等が馬鹿にしていいハンターじゃねえんだよ!」


 バキッ!


 ゴメスさんは大声で叫ぶと、さっきまで笑っていたハンターを思いっきり殴り飛ばした。


「なっ!? 喧嘩はご法度だって」

「ああ!? 先に喧嘩を売ったのはお前等だろ!」

「いや、俺等はあんた達に言ったわけじゃ」


 狼狽えた下位ハンター達だったけど、中位のハンターに囲まれて少しずつ小さくなっていく。


「お前等はこの試験を乗り越えたすべてのハンターを馬鹿にしたんだ」

「そ、そんなつもりじゃ」

「それならお前がフルバレットを倒してみせろ。そうすれば俺が中位昇格への推薦をしてやる」

「……本当か?」

「ああ。だが一度限りだ。失敗すれば二度と昇格試験を受けられないと思え」

「うっ」


 答えが出せずに下位のハンター達は下を向いてしまった。もしかしたらそれが答えだったのかもしれないけど。


「挑戦する根性もねえ奴がステラとヒメリアを馬鹿にするな」

「……」

「謝る根性もないのかよ」

「……」


 最後にはゴメスさん達が溜め息をついて下位のハンターを取り囲むのをやめた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ