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 武器庫でギルドマスターと盛り上がってたけど、ギルドマスターに用事ができたので話は終わってしまった。


 本当は使い勝手とか威力とかも聞きたかったけど、それをこれから見つけるのもロマン武器の楽しみね。


「ふふふ〜〜ん」

「嬉しそうだね」

「そりゃそうですよ。最初はいい武器が見つかるか不安だったのにこんな素敵な武器が手に入るなんて」


 アクスガンをうっとりと抱きしめる私を見て、アネッサさんは相変わらず目を細めていた。


「それよりもまずは手入れだね。そんな埃被ったまま火薬を入れたらとんでもない事故が起きるよ」

「……つまり、最高火力を更新するかも」

「馬鹿!」

「ひっ!」

「ハンター稼業を舐めるんじゃないわよ」

「す、すみません。調子にのりました」


 さっきはノリでなんとかなったけど、やっぱりアネッサさんは怖い。ここは下手な事を言わずにしたがっていた方がいいわね。



 それからアネッサさんは私からアクスガンを取り上げたあと、武器の状態を細かく見てくれた。


「とりあえず歪みもないし問題なく動きそうね」

「よかった〜」

「ただ、錆が酷いしこのままじゃ性能を活かしきれないわよ」

「はぁ〜」


 よく考えると私は爆薬の事には自信があるけど、純粋な武器についての知識は少ない。あんな複雑な造りの武器をメンテナンスできるかしら?


「それができてこそ一人前のハンターだ。それが嫌なら」

「いえ! やります! やらせてください!」

「まぁ、使ってればそのうち馴染んでくるだろ。それまでは勉強だと思って無茶な使い方はするんじゃないよ」

「はい。でも、早く爆発させたいですよね〜」

「ふっ。じゃあ私は他の仕事があるからあとは一人で頑張りな」

「あ、ありがとうございました!」


 アネッサさんは最後に手をひらひらと振るとそのまま違う部屋に入っていった。

 その姿を見送ったあと、私は足早にギルドのクエストボードに向かった。


(もうお昼になるしいい依頼はないんだろうな〜)


 もっとも新米の私に大した依頼は受けられない。薬草の採取や小型モンスターの討伐からはじめて実績を積まなくてはいけない。

 いきなり凶暴なモンスターと戦えるわけじゃない。


(ま、ホーンシープ亜種を倒した私なら余裕でしょうけどね)



 しばらくクエストボードを眺めていると、後ろから柔らかい口調で話しかけられた。


「あなたがアネッサさんが言ってた新人の子ね?」

「ん?」


 振り返るとそこには優しそうに微笑んでいる女性がいた。視線をそのまま落とすとハンターギルドのひとが着る服を着てるし、ここの職員かしら。


「はじめまして。私は受付を担当しているメリーよ。アネッサさんから面倒を見てあげるように頼まれててね」

「あ、ありがとうございます!」


 メリーさんはぽわぽわした雰囲気を漂わせながら「うふふ」と笑った。


(い、癒やされる)


 特に荒んでたわけじゃないけど、メリーさんが笑うだけでその場が和む。今は昼間でハンターも少ないせいか、とても穏やかな時間が流れている。


「アネッサさんにも良くしてもらったのになんだかすみません」

「いいのよ。それにかわいい新人さんを守るのも私たちギルド職員の仕事だから」


 ジム男みたいな嫌味なひともいたけど、アネッサさんやギルドマスターといいここで働くひとはいいひとが多いわね。

 これなら確かにギルドに属さずに活動するのが損なのも納得だわ。


 それにメリーさんはなんでも答えてくれそうだし、遠慮なく質問させて貰おう。


「どんな依頼を受けようか迷ってるんですが」

「依頼ね〜。残念だけどヒメリアちゃんのランクじゃたいした依頼は受けられないし、新米の間はフリーで活動した方がいいわよ?」

「え? そうなんですか?」


 それからメリーさんはハンターのランクについて詳しく教えてくれた。


「まずハンター試験に合格した子たちは新米ハンターって呼ばれるけど、実績がない間は依頼に制限がかかるの。だから貴重な素材の採取やモンスターの討伐で実績をあげることで、新米ハンターを卒業できるの」

「へ〜。卒業できたらどうなるんですか?」

「卒業したら下位のランクを与えられるし、実績を積めば中位上位と上がっていくのよ」

「ほほ〜。下位とか上位でなにか違うんですか?」

「ええ。受けられる依頼の難易度も違うし、基本的に下位はハンターとして登録された拠点でしか活動できないわ。でも中位になれば私たちが認めたハンターということで他の街でも活動できるようになるの」


 つまり中位までいけば街を代表するハンターになれるかもしれないわね。

 なるほどなるほど。

 なんとなく目指す場所がわかったわ。


「他にもなにかある?」

「その、ハンターを続けるうえでなにか注意しないといけない事とかありますか?」

「注意? そうね〜。うざったい男共はプチッとすることかしら?」

「え?」


 うざったい男共?

 プチッと?


「はは、え〜と……どういう意味でしょうか?」


 聞き間違えかもしれないけど、私はなんとか笑いながら聞き直した。

 でも、私も新米とはいえハンターの端くれ。

 ギルド内の温度が一気に冷えたのを感じていた。だからたぶん聞き間違えじゃないんだろう。


「そうね〜……実演してみる?」

「「「ひっ」」」


 そしてやはりと言うべきか、受付付近で私たちの会話を聞いていた何人かの男たちが股関をキュッと守っていた。

 もしかしたら被害者なのかもしれない。


(私が穏やかだと思ってたけど、みんな怖くて黙ってただけなのかしら)


 華やかな受付嬢の裏側を見てしまって乾いた笑いしか出てこなかった。


「まぁ冗談はさておき、今日はもうお昼になるし近場での採取くらいにしておきなさい。北の森ならまだ馬車が行き来してるし」

「やっぱりそうですよね」

「それにヒメリアちゃんの場合はまずはその武器に慣れた方がいいでしょ? 持ち運ぶだけでも大変でしょうし、最初っからモンスターを相手にしない方がいいわよ」


 確かにこれはギルドマスターから見れば片手斧だけど、私にとっては両手でしか振り回せない大型の斧になってしまう。

 最初は狙いをつけるどころかきちっと斧を振れるかすら怪しい。


「わかりました。もしいい素材が採れれば買い取りして貰えばいいんですね?」

「そうよ。貴重な素材の採取やモンスターの討伐でない限りはクエストを事前に受ける必要はないわ。だからここのクエストボードで受注するのは新米を卒業する頃ね」


 なるほど。

 つまりこのクエストボードの前に立つ時が一人前の証というわけね。


「それじゃあ行ってきます!」

「無理しちゃ駄目よ〜」


 こうして私はハンターとしてはじめて森に足を踏み入れた。


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