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 アクスガンを抱いてうっとりしている私にしばらくアネッサさんは他の武器を勧めてきた。


「なあ? これなんかどうだ? これは爆薬を詰めて投げるからヒメリア好みだろ?」

「確かにサブ武器としてはいいですね」

「うっ。それならこれはどうだ? これは刺突爆雷って言って、槍の先端に爆薬を詰めてそのまま突き刺すんだ」

「なるほど。それではその先端部分をアクスガンから飛ばしてみましょうかね」

「がくっ」


 アネッサさんはしつこい程に他の武器を勧めてくるけどその理由はなんなのかしら?


「いや、なんでわかんない顔してんの?」

「?」

「……だって……臭くなるから」

「15歳になったばかりの乙女になんて事を言うんですか! それに糞爆薬はお金が貯まれば卒業しますよ!」

「……あんたが卒業するまでにあの臭いと変なあだ名が定着しちまうよ」

「うっ」


 確かに今でも既に爆砕姫という不名誉なあだ名がついてるけど、それに糞が追加されたら立ち直れないかもしれない。


「でも、それでも……」

「なんでそんなにそれがいいんだ?」


 アネッサさんの質問に私は目を輝かせて顔を上げた。対してアネッサさんの口元は引きつっている。


「だってこれには、ロマンが詰まっているんです!」

「……ロマン?」

「はい! この子はロマン武器なんです!」


 バタン!


 その時、武器庫の扉が勢いよく開かれた。

 そしてそこには今朝挨拶をしたギルドマスターが立っていた。


「……それがいいのか?」

「はい?」


 朝は優しく言葉をかけてくれたギルドマスターが唸るように低い声で話しかけてきた。私はなにか不味いことでもしたのかしら?


「よく、わかっているな」

「はい?」


 ギルドマスターが何を言いたいのかわからない。でもその言葉はやたらと重く、その背中からは謎の重圧が溢れている。


「ヒ〜メ〜リ〜ア゛」

「はい〜〜!」


 怖い!


 なんか名前の最後の方が怪しかったけど私は涙目で返事をした。だって逃げ場がない。入口はギルドマスターで塞がれているし、私は運悪く棚の奥だ。


 そのままギルドマスターは私の前までくると、片腕しかない右腕を大きく振りかぶった。


「ひっ!」


 ポン


「ぃ?」


 振り上げられた右手で叩かれるのかと思ったら、ギルドマスターは私の肩に優しく手のひらを置いた。


「その武器は……好きに使え」

「へ?」


 ギルドマスターは急に仏のように優しく微笑んだ。その豹変ぶりが怖くて私には言葉の意味がわからない。


 困った私はギルドマスターの後ろにいるアネッサさんに助けを求めると、彼女はけらけらと笑いながら説明してくれた。


「だはははは! いや〜、いい顔見れた。バルスさんもヒメリアも最高よ」

「いや、その、この展開は?」

「あ〜、あんたか持ってるそのアクスガンなんだけど、元はバルスさんのなんだよ」

「ええ!?」


 この武器の軽さと仕掛けから、もっと小柄な人が使っていたと思っていたから驚きだ。


「お、それを言うのを忘れてたな。すまんすまん」

「そうだったんですか?」

「ああ。現役の頃に片腕を失くしてな。それで片腕でも戦える武器を造らせたんだ」


 ギルドマスターはそう言って私の肩から右手を離した。そして私の目は自然とその反対側の腕にいっていた。


「みんなからは引退しろって言われたんだかな。せめてこの街を作るまではと粘ったんだ」


 ギルドマスターは快活に笑ったけど本当は大変だったはず。それでも無理をして戦ったギルドマスターに思わず私は尊敬の眼差しを向けていた。


「ギルドマスターはなんでそんなに頑張れたんですか?」

「この怪我のせいで夢を諦めさせたくなかったんだよ。それよりもお前のハンター試験の話は聞かせてもらった。お前こそなんでそんなにハンターになりたいんだ?」


 この街ができたのは私が産まれたのと同じ頃。その時私はもっと内陸側に住んでいて、物心がつく頃にこの街にやってきた。


「私は10年前にここに集団移動したメンバーの生き残りなんです」

「……飛竜の群れに襲われたあの時の」

「はい。父と母はその時に亡くなってしまったんですが、それでも私を守ってくれたハンターに憧れて。いつか、私もあの時のハンターみたいにみんなを守りたいんです」


 その時に守ったくれてハンターがどこにいるのかを私は知らない。まだ若いひとだったけど、あれからこの街では見てない。

 もしかしたら今も人が住める地を切り開くために外界と戦っているのかもしれない。


「そうか、あの時の子か。強い意志を持ってるんだな」

「不名誉なあだ名をつけられるくらいには」

「はは。そうか。それならその武器を好きに使ってくれ。そいつも眠ったままよりも喜ぶだろう」


 ギルドマスターはそういってアスクギアをひと撫でした。愛着もあったのかもしれない。


「いいんですか? かなり貴重な素材が使われていると思うのですが」

「いいんだ。それにお前にもわかるだろ? こいつの浪漫が」

「ええ。とっても素敵なロマン武器です」

「……」

「……」


 さっきまでにこやかな雰囲気だったけど、私はしっかりと感じた。もしかしたらギルドマスターとはわかり合えないかもと。


「浪漫武器だよな?」

「いいえ。ロマン武器ですよ」

「え? なに言ってんのふたりとも」


 私とギルドマスターの間に不穏な空気が漂いだしたせいでアネッサさんがひきつった笑いを浮かべている。

 でも、ここは譲れないの。


「いやいやいや、わからんのか? いかついこいつからは漢の浪漫が溢れてるだろ?」

「はぁ〜? なに言ってんんですか? このアクスガンには夢が詰まってるんですよ? いかつさなんて求めてないです!」

「武器に夢なんて求めてどうする!」

「そっちこそ武器に漢を求めるなんて何を考えてるんですか!?」

「それにそのロマンという横文字もやめろ!」

「それならそっちの浪漫は『ろうまん』じゃないですか!」

「ぐぬぬぬぬぬ」

「むううううう」


 なんてわからず屋なのかしら。

 このギルドマスターとはわかり合える気がしないわ。


「それじゃあアネッサさん! アネッサさんはロマンと浪漫のどっちが相応しいと思いますか!?」

「そうだ! お前は武器に精通してるしどっちが正しいかわかるはずだ!」

「ええ!?」


 アネッサさんは私たちの圧に後退っているけど関係ないわ。ここではっきりさせないと。


「さあ!」

「言え!」

「いや、私は」

「どっちですか!?」

「こっちだろ!?」

「その、そもそもその武器はバルスさん以外に使いこなせない不遇武器だし」

「「な……」」


 その言葉に私だけでなくギルドマスターまでもが一瞬だけ声を失った。


「昔からこれはこれでいいと言ってるだろ!」

「そうですよ! ロマンさえあれば失敗のひとつやふたつがなんだって言うんですか!」

「いや、その失敗で大勢が怪我したって聞いてるし……」

「怪我したのはハンターだけだ! 一般人は巻き込んでねえ!」

「それなら問題ないじゃないですか! ハンターはどうせ怪我するんだからそんなことでいちいちこの武器の評価を下げないでください!」

「え〜……」

「そうだぞ! ヒメリアの言う通りだ! よくわかってるな!」

「ギルドマスターこそこんな素敵な武器を思いつくなんて流石です!」

「おお! そうか!? だはははははは!」

「あはははははは!」

「は、はは……は、は〜」


 アネッサさんは最後まで納得いかない顔をしてたけど、こうして私は運命の武器に出会った。


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