ユーベルト編その三
エルハイミのその後を覗き見る蛇足編です。
ティアナの転生者を見つけた後の日常を垣間見てみましょう!
ユーベルト編その三
「今ここに新たなる女神様が降臨される! 女神エルハイミ様どうか我らに加護を!!」
大司祭の演説が終わりこの聖堂に集まった信者が見守る中あたしは強烈な光をいきなり聖堂の高い所に発生させる。
そしてその中に転移してゆっくりと宙から降り立ち人の背丈で止める。
こうすると人々からあたしの姿が良く見える訳だ。
「我が名はエルハイミ。天秤の女神アガシタよりその権限を受け継ぎし者。我が名において今後のこの世界に平穏な平和と秩序ある営みを約束せん。皆の者よ我は皆と共に在る。争いをやめて穏やかな世界を!」
あたしがそう宣言すると信者の者たちは途端にひれ伏す。
そしてこの聖堂に入りきらずに窓や扉を開けてその外からも多くの人々があたしを拝む。
ああ、ヨバスティンとササミーなんか最前列で号泣しながら土下座している。
なんでもあたしの姿を見るとジャンピング土下座をするように信者に指導もしているとか。
うーん、茶番なのはわかっているけど人は心のよりどころ、そして今までばらばらだった各女神教をまとめあげジュリ教を発端とする暴走を無くすことが先決だった。
「我らの新たなる女神エルハイミ様、どうか我らをお導きください」
大司教が皆を代表してそう言う。
段取り通りなのでここであたしは【治癒魔法】を発動させそれをこの神殿周囲にまで拡散させる。
ぶちゃけユーベルトの街全部が入るくらいの範囲なので今神殿に来ていない人にもその恩恵は有る。
但し、神殿に近ければ近いほど効果が表れる様にはしているけどね。
「おおっ! 失った腕が!!」
「この濁って見えなくなった婆の目が!!」
「二日酔いが!」
「徹夜で小説書いていた頭痛が!!」
「おお、痛風がぁ!」
【治癒魔法】は注ぎ込まれる魔力の総量によって失った体を再生したり身体機能の異常を正常に戻したりと出来る。
流石に寿命を延ばしたり死んだ者を生き返らせる事は出来ないけどケガや生まれながらに問題を抱える体を正常なモノにする事は出来る。
但しつこいようだけど注ぎ込む魔力による。
なのでこの神殿に入っている信者の皆さんは確実に身体が正常化して次に外で覗いている人たち、更にここから近い場所の順で身体が回復していく。
多分放射した魔力量でユーベルトの住人すべては程度は有れ体の機能が回復しているだろう。
「おおっ! 我らが女神エルハイミ様!!」
「奇跡だ! 女神様の奇跡だぁ!!」
体の異常がどんどん回復していき信者の皆さんも外にいる人も歓声が上がり始める。
ここまでは予定通り。
「感謝いたします、女神様。我ら信者は女神様のお言葉を守りその教えを広めます」
大司祭はそう言って信者に聞こえるように宣言する。
さてと。
「皆の者よ穏やかに、そして平和に暮らすのです。私はいつもあなたたちを見ています。安らかに、健やかに」
そこまで言ってからあたしはもう一度光を強く放ち転移しようとした。
と、その時であった!
「騙されるか! この悪魔め!! 貴様さえいなければこの世は無へと帰り全てが最初からはじめられたと言うのに!!」
その声と同時に聖堂内で爆発が起こる。
何が起こったの!?
見れば驚いた事に融合魔怪人や黒づくめがここの中へとなだれ込んできた。
「くそっ! 何処から!?」
「カルロス、信者を外に逃がすんだ! ちっ、『操魔剣』!!」
なだれ込んだ黒づくめをバティックやカルロスが「操魔剣」を使い切り伏せていく。
しかし切り伏せた黒づくめはその残骸をいきなり爆発させる。
「バティック、カルロスですわっ!!」
あたしは二人が爆発に巻き込まれるのを見て焦る。
だがよくよく見ると二人には防御の加護がいつの間にか張られていて軽傷で済んだ様だ。
「守りの加護をしました! 今です!!」
見ればファルさんがいつの間にかバティックとカルロスに神聖魔法をかけていた。
「助かるファル! カルロス、行くぞ!!」
「おうともさっ! 兄さん!!」
切り伏せると爆発するのでバティックは黒づくめたちを殴り飛ばしこれ以上暴れられない様にする。
「くっそぉ、精霊たちよ!!」
下手に矢で射貫けないのでシェルも精霊魔法で黒づくめたちを牽制している。
「くっ! だがまだまだだぁっ! 融合魔怪人、魔怪人どもあの女を殺れ!」
「ジュメルの残党ですの!?」
あたしは声のした方を見てそう叫ぶもその姿を見てすぐに理解した。
あの神父姿は紛れもなくジュメルの幹部!
そう、宿敵だったヨハネス神父と同じ服装。
「まさか、ジュメルの十二使徒ですの!?」
「はっ、知っているとは光栄だな、この悪魔め! エルハイミ、貴様さえいなければぁ!!」
そう言って十二使徒の生き残りの神父は懐から杖を取り出す。
それは「女神の杖」。
行方不明だった「女神の杖」だった。
「はははっ! いくら女神を名乗ろうとも同じ女神の力を持つこの杖の力には敵うまい!! この俺、シュバインヒの命を懸けて貴様に一矢報いてやる!!」
「エルハイミ母さん!!」
一体どの女神の杖だろう?
あたしはその女神の力に対抗するべく構えていたら割り込むかのようにセキが入って来た。
セキはシュバインヒ神父に飛び掛かろうとするも女神の杖に込められた魔力で弾き飛ばされてしまう。
「セキですわっ!」
「くっ! この力、女神の力か!? くっそぉっ!!」
弾き飛ばされたセキは大きく息を吸い込み灼熱のドラゴンの炎を吐きだす。
セキの炎は女神殺しの炎。
まだ成竜になってはいないけどその辺の竜に負けない程の炎を吐きだす。
すぅ~、ぼぉおおおおおおおぉぉぉっ!!!!
しかしシュバインヒ神父は女神の杖を振るとセキの炎はあっさりと防がれてしまった。
「はははっ! 赤竜とは言え女神の力には及ばないか!? さあ、女神の杖よ俺の命を吸え! そして憎っくきエルハイミに裁きを下してやれぇっ!!!!」
カッ!!
女神の杖にシュバインヒ神父の命がすわれていく。
まるで生き血を吸われるかの如く干からびていくシュバインヒ神父。
それに比例して手に持たれている「女神の杖」は輝きを増していく。
「まずいですわ! このままではここが消し飛んでしまいますわ!!」
あたしは慌てて閉鎖空間を作ってそれを閉じ込めようとした。
しかしそこセキが飛び込む!?
「やらせるかぁ! その女神の杖はシェーラ様のモノ! 我が主の力をそんな事に使わせるかぁっ!」
セキはそう言いながらシュバインヒ神父に飛び掛かるけどあたしが作った閉鎖空間も同時にその周りを取り込んでしまった。
「しまった! セキですわぁっ!!」
光り輝く杖にセキが手を伸ばしその周りにあたしの作った閉鎖空間が縮小していく。
慌ててそれを止めようとするとセキが念話を飛ばしてきた。
『エルハイミ母さん、だめっ! 今この閉鎖空間を開いたら爆炎が漏れ出ちゃう! あたしがシェーラ様の力を取り込む! だから終わるまで閉鎖空間を開いちゃダメ! ここにいるみんなが消し飛んじゃう!!』
『しかし、セキがですわ!!』
『大丈夫、シェーラ様はあたしの元主。その力はこの体で受け止められる。だからエルハイミ母さんはあたしがシェーラ様の力を押さえるまで待って』
しゅんっ!
セキたちを取り込んだ閉鎖空間はまるで円球を収縮するかの如く小さく成って消えてしまった。
「セキですわっ!!」
あたしは力を解放して何とか閉鎖空間に閉じ込められたセキを助け出そうとするも「女神の杖」の力が閉鎖空間ではじけてしまった。
セキはその力を自分の中に抑え込もうと必死になっている。
今あたしが手を出したらその苦労が無に帰ってしまう。
「くっ、でも今閉鎖空間を解放したら周りがですわ‥‥‥」
せっかく「あのお方」の力まで解放したと言うのに手出しが出来ない。
あたしはセキが女神シェーラ様の力を押さえる事を祈るしか出来なかった。
「でも出来る事はしますわ!!」
そう言ってあたしは戦っているバティックやカルロス、シェルと対峙している残った融合魔怪人や魔怪人、黒づくめたちを空間固定して身動きできないようにする。
そして魔怪人や黒づくめたちの素体となっている人間と混ぜられた他のモノを分解再生させてやる。
案の定、元の人の姿に戻ったそれは腕にテグの入れ墨が有り、ジュメルの最下層奴隷たちだった。
彼らは人の姿に戻ってもその意識が封じられていたために状況も分からず周りをぼんやりと見ていた。
「流石エルハイミ!」
「姉さま! よし、捕らえろ!!」
シェルが称賛してバティックがそう言い衛兵たちや神殿の騎士たちが動き彼らを捕らえる。
「姉さま、ご無事で?」
「ええ、私は大丈夫ですわ。それよりカルロス、負傷者をすぐここへですわ!」
カルロスはすぐに頷きケガ人たちをあたしの前に連れて来る。
「姉さま、セキはどうなったんですか!?」
バティックがケガ人の治療をしているあたしの近くまで来て聞く。
あたしはちらりとセキを閉じ込めた閉鎖空間の場所を見る。
あちらの世界ではいまだセキがシェーラ様の力を受け止めようと頑張っている。
「セキはここにいるみんなの為に『女神の杖』の暴走した力をその身に受け止めていますわ。それが終わるまでセキ共々閉じ込めた閉鎖空間を開くことが出来ませんわ。もし開いてしまったら女神シェーラ様の力が弾けここにいる民が吹き飛んでしまいますわ」
「そんな‥‥‥ セキ‥‥‥」
バティックはセキの消えた虚空を見る。
まだセキはあちらで頑張っている。
あたしはセキだけその空間から引き出そうとしたけど既にはじけだしたシェーラ様の力を取り込み始めたお陰でセキだけを閉鎖空間から引き出す事は出来なくなっていた。
「エルハイミ、セキはどうなったの!?」
今までパパンやママンと一緒にいたマリアも飛んで来た。
「今はまだ何とも言えませんわ‥‥‥ こればかりは私の力でも‥‥‥」
全く、「あのお方」の端末になったあたしでも出来ない事が多すぎる。
この世界の主神を任されたと言うのに。
歯がゆい思いにあたしはセキの消えた虚空を見るのだった。
◇ ◇ ◇
既に一週間が過ぎていた。
あたしはいつものエルハイミの姿で一人この聖堂に来ていた。
「セキ‥‥‥」
あの後何とか落ち着きを取り戻した信者たちを安全の為と言って別の場所に移し、関係者だけここであたしから現状の説明を受けた。
ママンはセキがいなくなってちょっと取り乱したけどあたしが必ず助け出すと約束して大人しくなった。
でもこの一週間セキに念話を飛ばしても反応がない。
まさかと思ってセキの魂の位置を確認したけどやはり閉鎖空間の中のままだった。
一体あそこではどうなってしまっているのだろう?
こんなケースは始めただったのでエスハイミ事コクたちと一緒にいるあたし経由でコクにも聞いてみた。
『多分女神シェーラ様の魔力を自身に取り込んでいるのでしょう。もともと従事していた間柄、その魔力も体になじんでいるのでしょう』
コクにそう言われ今までもそう言った事例が無いのでこれ以上は何とも言えないと言われた。
そうなると今はただ待つしかない。
「エルハイミ‥‥‥ 大丈夫だろうけど少しは食べなきゃだめだよ‥‥‥」
いつの間にかやって来ていたシェルはそう言ってあたしのそばまで来る。
確かにここ最近はセキの事が心配で食が喉を通らない。
今のあたしは別に何も食べなくても死ぬことは無いけど今までみんなと一緒に食事をしていたからやはり周りがその変化に気を使ってくれてしまう。
「ありがとう、シェルですわ‥‥‥」
「セキの反応はどうなったの?」
「念話で呼びかけていますわ。でも反応が無いのですわ‥‥‥」
と、あたしがシェルにそう言った時だった。
『うぅ~ん、あれ? あたしは‥‥‥』
唐突に聞こえてきたのは間違いなくセキの声だった!
あたしは慌ててセキに念話を飛ばす。
『セキっ! セキですの!? 大丈夫ですの!!!?』
『ああ、エルハイミ母さんか。うん、大丈夫みたい。何とかシェーラ様のお力は吸収できたみたいだけど、何ここやたらときついわね? んしょっと!』
びきっ!
びきびきびきっ!!
セキがそう言い放つと同時にセキが消えた空間にひびが入った。
が、無理矢理その空間から出ようと動いたせいでこちらの世界と閉鎖空間の連結が!
「んしょっ!」
ばきゃーんっ!!
まるでガラスが割れたかのように空間が割れそこから真っ赤な長い髪の女性が出てきた!?
「あー、しまった、無理やり出てきたからなんか繋がったままだ‥‥‥ って、ええっ!?」
出てきたその女性は真っ赤な長い髪でこめかみの横にトゲの様な癖っ毛が二つづつあり、身の丈が以前のティアナと同じくらい、百七十センチはあるだろうか?
精悍な美しい顔つきはどことなくティアナにもあたしにも似ている。
そして裸のままのそこにはティアナにも負けないくらいの大きな胸が揺れている。
「セ、セキですの?」
「なっ!? 何そのおっきいのぉっ!?」
あたしとシェルはその場に出てきたセキの姿に驚かされる。
何とセキは十歳の位の少女の姿ではなく二十歳くらいの大人の女性の姿だったのだ!
「え、えーと、なんか体に力がみなぎっているような‥‥‥」
驚くあたしたちにセキは拳を虚空にシュッと打ち込んでみる。
がちゃんっ!
セキが拳を打ったその先におかれていた花瓶が割れた。
思わずそちらを見るあたし。
そしてもう一度裸の大人の姿になったセキを見る。
「セ、セキですわ‥‥‥」
「あ、あれぇ?」
自分の拳をしげしげと見ているセキ。
しかしそんなセキにわなわなと震えていたシェルは飛び掛かった。
「セキぃっ! なんであんたがそんなに立派な物持ってるのよ!? ずるい!! 半分でいいからよこせぇっ!!」
「はぁ!? ちょっとシェル! 胸揉まないでよ!!」
ぷんすか怒っているシェルは裸のセキに飛びつきそのたわわな胸を揉むのだった。
* * * * *
「つまりセキは女神シェーラ様の魔力を取り込んだことにより本来の大人の姿に急成長したと言うのですわね?」
「たぶん、そうだと思う。なんだけどエルハイミ母さん‥‥‥」
問題はそんな所では無かった。
無理矢理閉鎖空間を割って出てきてしまった為にこちらの世界とあちらの閉鎖空間にひずみが出来て更にそこに残留した女神シェーラ様の力が引っかかりセキがこの場から、厳密にはこの神殿から離れられなくなってしまった。
「まあ、もともとあたしはばあちゃんの所に残るつもりだったし、この神殿ってやっぱりバティックやカルロスたちだけじゃ心配よね? だからあたしがここに残ってここを守ってあげるわ」
骨付き肉をおいしそうにかじりながら大人のセキはニカリと笑う。
カルロスなんかセキの大きな胸から目が離せなくなってユミナちゃんから耳を引っ張られ退場していたけどママンなんかはセキに抱き着いてわんわん泣いたものだった。
「あらあらあら~もうこんなに大きくなっちゃって! セキちゃんがお嫁さんに行ってそのひ孫を見るまではお婆様死ねないわぁ~っ!!」
いや、それって無理なんじゃ‥‥‥
あたしはため息をつきながらセキに聞く。
「本当にそれでいいのですの?」
「今のあたしが魔法王に会っちゃったら多分押さえられなくて殺しちゃうかもしれないもの。もしそうなったらエルハイミ母さんはあたしを止めるでしょうけどあたしの気持ちが暗黒面に落ちて『深淵の竜』になっちゃったら面倒でしょ?」
なにそれ!?
セキがダーク面に落ちるって!?
何処かのジェ〇イの騎士じゃあるまいし、そんな事が有るの!?
「前は大丈夫だったのに~」
「あの時はまだ小さいから敵わなかったのよ。今は違うけどね」
マリアがセキの胸の谷間に飛んで行って座る。
キャッキャしているマリアを自由にさせているセキがそこまで獰猛とは思えないけど。
「どちらにせよ、エルハイミ教はまだまだ狙われるかもしれないでしょう? だったらあたしが女神の僕になってここを守っていると宣言すればおいそれと変なのもちょっかい出してこれないでしょ?」
セキの言う事も一理ある。
太古の赤竜が今の女神の僕になって神殿を守る。
それは大きな宣伝効果にもつながる。
「分かったわセキ! エルハイミの事はこのあたしに任せて! もう全部あたしが面倒見ちゃうから!!」
「わきゃぁっ! シェルっ! なに抱き着いて来て胸揉むのですの!? こらシェルぅっですわっ!!」
「あらあらあら~シェルちゃんとエルハイミの子供もすぐに見れそうねぇ~」
「いや、母さんいくら姉さまでもそれは‥‥‥」
「はぁ、変な虫がつかないのは良いがお父さんいろいろと心配だよ」
「ん~、あたしもここに残る~。ここにいるとチョコレート食べ放題だし~」
あたしの叫び声を楽しそうにセキは見ているのだった。
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