ミハイン王国編その三
エルハイミのその後を覗き見る蛇足編です。
ティアナの転生者を見つけた後の日常を垣間見てみましょう!
ミハイン王国編その三
「デルザ、主人が出かけるときは必ず見えなくなるまでお見送るするでいやがります」
「はい、クロエ様!」
「良いか? お前たちひ弱な人間が戦闘になった場合主様を守る為とは言え前に出ても何の役にも立たぬ時がある。力の差が歴然とするのであるならば我らに任せるか主様の邪魔にならぬようにするのが最も効率的だ」
「わかりました、力及ばぬ場合はこのベーダ、主様の足を引くことなく邪魔にならぬよう心がけます!!」
何やら再教育と称してクロエさんとクロさんがデルザやベーダを鍛えている。
「あ、あのぉ主様。もしよろしければ空間魔法についてお教え願えないでしょうかぁ‥‥‥」
あたしがその様子を見ているとアルフェもおずおずとあたしの前まで来た。
そう言えば魔術に関してはイオマが直接アルフェを鍛えていたのだっけ?
「空間魔法ですの? 良いですわよ」
「あ、ありがとうございますぅ!!」
アルフェはさっそく分厚い魔法の書を引っ張り出して付箋の貼ってあるところを次々と聞いてくる。
のだが‥‥‥
「な、何なのですのこの魔導書は!? この理論、この術式、これって女神様たちでさえ知らない世界の壁についてまで書いてありますわ!!」
思わずあたしが読み入っちゃうほどの濃密な内容。
そしてその理論はこっそり世界の理の必要な部分を同調して受諾したあたしの知識と合致していた。
「あのぉ~、それってイオマ様が書き込んでいた書なんですが、この後の理論や魔法陣が書きかけでまだ完成していないんですよぉ~」
情けなくしょぼ~んとするアルフェ。
しかしこんな禁断書みたいなモンをよくも書き連ねたものだ。
どうしようかなぁ?
「アルフェ、これらイオマが書いた本はまだありますの?」
「あ、はいここに‥‥‥」
そう言って更に三冊も出してきた!?
あたしはそれらをパラパラとめくりまたまた驚愕する。
いや、ほんとやばいモンばかり!!
「空間」どころか「異世界」についての理論や「時間の概念」、更には「因果律」についての事まで書いてある!?
イオマが優秀だってのは知っていたけどまさか此処までとは。
と、あたしはまず異世界についての理論に目がとまる。
それによるとアイミたちの逆スパイラルやスパイラル効果による世界の壁と異界の壁の接続方法や魔素や魔力の流れについても書いてある。
更に驚くのは異界との接続時に等価交換の原則を使ってこちらの魔素とあちらの魔素を同量で交換することにより管理者である神々の目をごまかし行き来が出来る事とかまで書いてある!?
あたしは世界の理に同調してその答えを求めるとなんと「可」であった。
うーん、この理論を使えばあたしの前世の世界にも行けるって事?
しかもまたこっちにも戻れるって事??
思わずあたしもかぶりつきそれらの本を読み漁ってしまう。
そしていくつかの事がはっきりと分かって来た。
まず時間だがこの世界の女神様でも時間だけは自由に出来ない。
かくいうあたしも破壊と創造に特化した「あのお方」のこの世界の端末なので時間だけは操れない。
だがこのイオマの予測する仮定は実はおおよそ正解だ。
時間の操作は「あのお方」であれば可能である。
「あのお方」は正しく「神」と称される存在であり、例えばあたしたちのいるこの世界の時間を自由に行き来できるし、未来だって覗ける。
但この世界にいるあたしたちにはそれはいつ起こり、そして何か変更が有っても気付くことは無い。
歴史は変更が行われた時点で、改ざんされた時点でそれが正解になりその差異の検証が出来ないのだ。
分かりやすく言えばティアナは死ななかったとする。
すると今は二十五歳のティアナとあたしが毎晩夢のような事をしていてしかも場合によってはティアナの子供を授かっているかもしれない。
でも今の歴史ではそれは無い。
例え女神様の力を使ってもあたしの力を使っても全く同じティアナは復活できないしその事実を変えることはできない。
もしそれが出来るとしたら「あのお方」だけになりこの世界を覗き見ている「あのお方たち」も気付いてもそれがこの世界の正当な歴史となり、この世界にいるあたしたちには全く分からない事となってしまう。
実際この世界が改ざんされた事があるようだけどあたしを含めアガシタ様でさえその辺は良く分かっていない。
さらにイオマのこの因果律についての書。
これまた恐ろしいほど的確にその真髄を突いている。
因果律は脈々とつながるものでそれを切ってしまえば後ろが無くなってしまうし、本来絡まないものを絡めてしまえば全く違う成果が出てしまう。
これは未来への確立を操作できる未来予知にもなり、そして因果律を操作できれば自分の望む未来が掴めてしまう。
簡単言えば賭け事なんて思いのまま。
すぐにでも億万長者になれる。
「イオマ、なんてものまで研究していたのですわ‥‥‥」
「あ、あのぉ~主様?」
はっ!?
いけない思わずあまりにもすごいものを見てしまいのめり込んでしまった。
あたしはイオマの書いたこの魔導書から顔をあげアルフェを見る。
「アルフェ、あなたもしかしてこの魔導書全部読んでしまいましたの?」
「あ、はい、すべて暗記してます‥‥‥」
なっ!?
この子もイオマ並みに優秀なの!?
この辺の書いてあること理解できていれば名実共に世界最強の魔術師よ?
「ア、アルフェ分かっていますの? このイオマの書いた書は全て禁断の書となりますわよ? それはこの世界の秩序を乱しますわよ?」
「はい、なので主様の為だけにしか使いません。すべては主様の為に!」
良いのか悪いのか、とりあえずは自重してくれるようだけどこの書は禁断書として封印した方が良いかもしれない。
こんなものが世の中に知れ渡ったら大騒ぎどころでは済まない。
と、あたしはふとある事に気付く。
因果律の操作?
それってもしかして転生に関しても操作できるのではないだろうか??
例えばティアナの転生者を因果律を操作して固定した場所、必ず女性にそして転生するタイミングも‥‥‥
「‥‥‥できますわね? 後は冥界の女神セミリア様の輪廻転生システムに介入さえできれば」
思わずそのひらめきが現実味を帯びて来た。
それが出来ればイオマの「魔王」の魂だって管理できる。
ショーゴさんも転生させられる。
いや、一番はティアナが常に手元に転生出来て必ず見つけられる!!
「アルフェ! あなたお手柄ですわ!! これで後は冥界の女神セミリア様にさえ会えればできますわ!!」
「あ”あ”ああぁぁぁぁっ!! あ、主様が抱き着いて下さったぁっ! もう、好きにしてぇっ♡!!!!」
思わずうれしくなってアルフェに抱き着いてしまったあたし。
途端にアルフェの頭から瞬間湯沸かし器のように湯気が出て真っ赤になり瞳をウルウルさせている。
「お母様! 何アルフェに手を出しているのですっ!? 出すならこのコク! 私に出してくださいぃっ!!」
コクがあたしに抱き着いてきてアルフェを引っぺがしたのは言うまでもない。
―― ティナの町 ――
きゅぴーん!
「はっ!?」
「どうしましたのサティア?」
「今エルハイミお姉ちゃんが他の女の人に抱き着いていけないことしようとしたような気がする‥‥‥」
どきっ!?
な、何故サティアがその事を!?
「な、なんの事ですのぉ? 私はずっとサティアの前にいますわよぉ~ (汗だらだら)」
「本当? エルハイミお姉ちゃんあたしに何か隠していない? だめだよ他の女の人と仲良くなっちゃ?」
ぎくぎくっ!
あたしは脂汗をだらだら流しながら首をこくこくと縦に振るのだった。
評価、ブックマーク、ご意見、ご感想いただけますと励みになります。
誤字、脱字ありましたらご指摘いただけますようお願いいたします。