1日目 〝望月怜奈〟
小さい頃、両親や学校の先生から問われたことあるだろう。
『将来何になりたいのか』と。
誰にでも夢はある。ただ、いくら努力してもなれないものもあるのだ。
たとえば――
「最近こういうのばっかなんだよねぇ。異世界転移ものとか異世界転生ものとかさぁ」
クチャクチャと租借音を鳴らしながらガムを噛み、眉間に皺を寄せながら紙束を叩く恰幅のいい男。首から下げられた社員証には多田盛明と記されている。多田の目の前で萎縮し、乱雑に束ねられた髪を触りながら女性―望月怜奈―は、はぁ、と小さく息を漏らす。
飽き飽きだよ、まったく、と盛大に溜息を漏らして紙束を机上に叩きつけ、「あのさぁ、」と言葉を繋げた。
怜奈は多田の暴言とも取れる小言を散々聞かされた後、多田の所属する会社を後にし外に出て、多田の会社を睨み見た。「覚えてろよ、デブが」と誰にも聞こえないほどの小声で毒吐き、その場を後にした。
帰宅ラッシュの時間と被り、怜奈は内心舌打ちをしながら鞄を胸の前に抱え、電車に乗り込む。多田の小言は毎回長く、酷い時は2時間もの間延々と言い続けることもあった。殴ってやろうか、と思うことはあれど、それを口に出すことも、ましてや本当に殴りかかることはしない。大人になるとはそういうことだと怜奈は今まで我慢してきた。
鞄を見つめながら手すりに掴まり、今日一日で稼いだ多田へのヘイトのことばかり考えていた。気が付けば怜奈の家の最寄り駅に到着していて、怜奈は急いでホームへと飛び出した。