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giveAndTake(ギブアンドテイク)  作者: あねものまなぶ
7/18

幼女と鳥と秘密の場所

穏やかな日差しが古びた建物に朝を告げる。

都市部のはずれ。3階建ての木製の建物。ここは労働者のための低賃金で貸し出される宿舎。都市部に来たばかりの者はこのような宿舎に泊まり懐を温めるのだ。

例に漏れず、ジェスター、チェルビーも此処に宿泊している。



「はぁ、あぁぁぁぁぁ、あ」

自称"やる気がない男"ジェスター。いつもは昼頃に活動する彼が、珍しく早朝から庭での草むしりに取り組んでいた。



(なんで、朝から。まだ、お月様が太陽さんがおはようしたばっかじゃねぇか)

眠気と嫌気を噛みしめつつ黙々と草をむしり取る。


背中には天気と似つかわしくないどんよりとした雰囲気があった。


この宿舎に安く泊まるにはルールが存在する。それは、宿泊者が自分たちで建物のメンテナンスすること。

屈強な力自慢たちは建物の補修。知恵のあるものは宿泊費の徴収、および財務管理等など各々が出来ることを当番として行っていく。



(別に作業自体は嫌じゃねぇさぁ? 安く泊まってる対価だと思えば文句はねぇさ。だが、)

彼に迫る影。

次の瞬間、衝撃と共に確かな重量がジェスターを襲う。


「ねぇねぇ、ジェスー。遊ぼうよ~。ねぇねぇ」

衝撃の正体は幼い子供。この宿舎に泊まる夫婦のの子供だ。

宿舎のメンテナンスを行う時間は、勿論、彼らの両親も作業を行うため、担当者がまとめて子供達の相手をする。


(また来た、うっとしい、重い。ロリコンさんにプレゼントしたい。ロリコンさん、貴方にお勧めの仕事がここにありますよぉぉ!)

「あのな?俺は、草むしりで忙しいの、相手ならあのおねぇちゃんに頼めよ」

「私は、ジェスと遊びたいの~。ねぇねぇねぇねぇねぇ」

ジェスターの背に乗り、頭を揺らし遊びの催促をする子供。


「チェ、チェルビ~。どうにかしてくれ!!」

庭先で子供達と戯れていた、相方に助けを求める。


(また....ホントに懐かれてるわね..)

「ちょっと待っててね!!」

数度目の救援要請に呆れつつ、彼が本当に困ってそうなので助けに向かう。



「チェルビ~。こ、こいつをどうにか...し..て...くれ...」

「ジェスジェスジェスジェスジェス!!」

抵抗する力が無くなったのか、なるがままにされるジェスター。


「モーナちゃん、おねぇちゃんと一緒に遊ばない?」

"嫌"とばかりにジェスターにしがみつくモーナ。

何とか引き剥がすために説得を試みる。


「モーナちゃん...どうしてジェスターと遊びたいの?」

膝を折り、訪ねる。

少しは警戒を解いたのかおずおずと答える。


「あのね?ジェスは怖くないの。のんびりで安心。話も面白いし。他の皆は少し怖いの」

「ジェスター。モーナちゃんに何かしたの? 随分懐かれているようだけど?」

視線をジェスターへ向ける。


「あぁ、あれだ。俺が寝てたら、こいつが来てなぁ。近くでしょぼくれた顔されちゃ寝心地が悪いんで適当に話ししてやったんだ」

「で、話に興味を持って仲良くなったと」

「俺は仲良くなってねぇよ、こいつが勝手に付きまとってんだよ。いっつも寝るときに来やがって」

「でも、無下に扱わないんだねぇ」

振り払うことは出来るのに、、いつまでもモーナを背中に乗せている。


「んだよ....その顔は」

「べつにぃぃぃぃぃ」

チェルビーの言いたいことを察してか、何とも言えない表情を見せる。



「モーナちゃんは、他の子達と遊ぶのは苦手?」

(私達はいつでも遊んであげられるわけじゃないし)



「うぅぅぅ....」

ジェスターの背後に周りチェルビーの視線をガードする。

(これは、私じゃ話聞いてもらえそうにないわね。)

ジェスターにアイコンタクトを送る。


(あぁ、そういえば、村でもこんなことがあったな)

「ふぅ、草むしり完了っと。モーナ遊んでやるからそこどけ」

アイコンタクトを受信できたようだ。


「ほんとぉ!!」

「お前が遊べ遊べってうるせーからだ。ほら、肩車してやんぞ~」

文句を言いつつ、モーナを肩車する。

頭上で身体を左右に揺らすため、バランスをとるのに苦労している。


「ほれ、お前のとうちゃん、かぁちゃんの所まで、探検ずんぞ」

どうやら、しばらく宿舎内を探索した後、両親のもとに案内するようだ。


チェルビーと戯れていた子供達も親御さんの元へ帰っていった。

数十分後。ヘトヘトになりながら、ジェスターが自室へ戻ってきた。


「お帰り、随分と遊んだようね?」

ジェスターが自室の扉を開けると既にベットの上に先客がいた。


「ここにいたのか。てか、俺が遊ばれたの。遊んだのはあの幼女だ!」

「あら、幼女に弄ばれたのね?大人として、いや男としてのプライドはないのかしら?」

「うっせっ!」

そう言うと、不貞腐れたように、椅子に座りこむ。


「チェルビー。この後やりたい事あるから付き合ってくれ。」

いつになく真剣な顔。


「別に良いけど....」

チェルビーの了承を受け、しばらく考えた後、いつのも場所へ向かった。


- 酒場


「で、やりたい事ってなによ?なんか依頼で受けるの?」

壁一面に張り出される依頼を眺めながら呟く。


「う~ん....やっぱねぇのかな...」

「何を探してるのよ?」

「あぁ、あれだ。村によ、わたがしみたいな羽の大人しい鳥いただろ?」

「あぁ、妙に人懐っこいふかふかした奴ね? 子供達と一緒に遊んでたわね~」


ジェスター、チェルビーの生まれ育った村は、田舎という事もあり自然が多く残っていた。そのためか時折、人里では見掛けないようなモンスターも現れる。


(そう、子供達が呼ぶと何処からともなく飛んできて、お昼寝も一緒にしてたわね。)

「あぁ...そういうこと?」

村での光景を思い出し、先程の宿舎での出来事と繋がったようだ。



「ジェスターは随分、モーナちゃんに入れ込んでるわね? ...もしかしてロリコン?」

訝し気に見つめる。


「ちげーよっ!! 俺はスタイル抜群のおねぇ様が好きなの!! ちびっこに興味なんてないの!! むしろ煩いから嫌いなの!!」

「わかったわよ...冗談よ....でもどうして?」

冗談ではなく、真剣に質問をする。

その様子にふざけることなく、誤魔化すことなく答えた。


「give and takeだこれで分かんだろ?」

ジェスターが短く告げる。


「ははぁ~ん。了解、付き合って上げるわ。」

「ありがとよ」

短い言葉でも伝わる。二人の関係性がなせることだ。


「なんか関連した依頼ないかしらねぁ、てかここら辺にいるのかしら、あの鳥」

2人して依頼を探すが、件の鳥に纏わる物は見つからなかった。

すると、2人を不審に思ったのか近づいてくる人影が。



「こんにちは、ジェスちゃん、チェルちゃん。」

「おはようございます~」

「おはようございます!!」

ジェスターは気の抜けた、チェルビーは背を正して挨拶をする。


そんな挨拶に微笑むの彼女はダニエリー。黒衣に身を包むスタイル抜群の魔法使い。先輩冒険者として2人がお世話になっている人だ。


「ダニエリーさん、少し聞きたいことがあるんすけど良いですか?」

「えぇ、良いわよ?」

ジェスターからの質問は珍しいのか、頼ってくれたのを嬉しそうにしながらダニエリーは答えた。


「俺ら、わたがしみたいなフワフワした羽の小っちゃい鳥を探してるんですよ。こう、寝てるときは丸っこくなる鳥なんすけど」

「あぁ、あの可愛らしいふわふの鳥ね。普段はここから少し離れた森の奥で静かに暮らしているわね」


「そうですか、ここから離れた森か。ありがとうございます」

「どうしてその鳥を探しているの? チェルちゃんはペットが欲しいの?」

視線をチェルビーへ向ける。


「いえ、欲しがってるのはジェスターなんです。少し事情がありまして....」

ジェスターに目配せするが、そっぽを向いている。


(まったくもう)

ジェスターは恥ずかしがっているようであった。

理由をしっかり話すべきだと判断しことのあらましをを話す。


「成程、そういう事なら協力するわよ?」

「ホントですか !? でも、いいんすか? 面倒毎に巻き込むことに」

尻すぼみに小さくなる声。


「いいのよ。私達は家族みたいなものでしょ? 困っていたら助け合いですもの」

その言葉を聞いても納得できない表情の2人。それを見かねて続ける。


「じゃぁ、私が"助けて~"って頼んだら必ず助けて頂戴?give and takeよ」

(かなわねぇな、この人には)

彼女の思いやりを感じたようだ。


「「ありがとうございます!!」」

頭を深々と下げる。


この3人でわたがしのような鳥を探しに向かう事になった。



- 都市部から離れた場所にある森


「じゃぁ、早速森に向かいましょう」

「その森へのルートを割り出しますね。ジェスター働きなさい!」

その言葉に素直に従うジェスター。


「わぁったよ。今回ばかりは仕方ねぇ。」

彼なりに恩に感じているようだ。受付に向かい情報を聞きに行く。


「待ってお2人さん。私って何が出来るかご存じ?」

全身をアピールするように腕を広げる。


「勿論です! ハニートラップ!」

「ちげーよ。世の中の男共に貢がせることだよ!」

「それって、色仕掛けいわゆるハニートラップじゃないの?」

「ばっか! ハニトラより質が悪いんだよ。あれだよ? ハニトラは騙してポイッで終わり。でも、ダニエリーさんはそんなもんじゃない。相手は死ぬまで騙されたことに気づかないんだ。相手はいつの間にか社会的信用、金銭等などを差し出していき、仕舞いには喜んでその命を差し出し終わっていくんだよ。貢ぐことに快感を覚えるのさ。それがダニエリーさんが出来ること。正しく"魔法使い"さ」

それぞれが思うことを口々に言っていく。


「そうでしょう?正解してます?」

「結構、自信ありますぜ?」

自慢げな表情を向ける2人。


「私のことそんなに悪く思ってたのっ! ちょっと私、泣きそうなんだけど」

どんどん萎れていく。花の枯れる過程を早回しで見ているようだ。


「冗談ですよ。すみません。ふざけてみました」

「俺も冗談ですよ。でも、ダニエリーさんからのハニトラなら受けてみたいかも?」

その言葉に少しは元気が出たようだ。しかし、ふくれっ面は戻っていない。


「もう、2人とも。せっかく森へ簡単に行く方法を教えようと思ったのに。そんな態度を取られたらなぁ~」

その言葉に驚き、中腰に両手をすりすりとこすり始めた。


「それにしても、その黒の衣装、とっても高級そうですよね?」

「あぁ、そうですね。さぞ、有名なブランドの一品なのでしょう?」

「...これはそこらの古びた店で買った安物よ」

しまったという表情をする2人。


「それにその杖!いいなぁ、私も欲しいな。惚れ惚れするくらい立派な杖ですよね」

「えぇそうですね!さぞお高かったのでしょう?」

「まぁ、高かったそうよ。貰い物だけれど...」

顔を見合わせる。


「そうでしょう。そうでしょう。やはりダニエリーさん程の美女へ送るとなると半端なプレゼンでは行けませんものね?」

「勿論!! その杖のような美しく、神秘的なオーラを纏うモノでないと失礼に当たりますからね!!! いや~もしかして彼氏さんからのプレゼントですか?」

「...まぁ」

「そんな素敵なプレゼントをくれるなんてとても優しい彼なのでしょうな。同じ男として是非、見習いたいものです!!!」

「今も、彼氏さんとは順調なんですか? もしかして将来を使いあったり?キャ~」

彼氏を褒めちぎるためにあれこれ話を進めていく。


「...彼とはもう別れたわ」

地雷を踏んだようだ。

またもやしまったという表情を見せる2人。


「あ、あのですね、そのですね、このですね?」

「きっと、ダニエリーさんには不釣り合いの、奴だったんですよ。もっと相応しい男が現れますって。はい。」

慌てて言葉を発するあまり、フォロー出来ず、自分で自分の首を絞めに言っているためか、顔がドンドンと青ざめていく。



「っぷ。うっふふふふふ。冗談よ。冗談。」

「「えっ?」」

突然のことに驚く。


「私だけ冗談を言われるのが悔しいから、私も2人を脅かしてみたの。別に怒ってないわよ?」

「あぁ、よかったです」

「あぁ、心臓に悪いっすよ」

よろよろと沈み込む2人。


「これに懲りたら、女性に対してあんな冗談は言ってはダメよ? 分かった?」

「「はい。わかりました。すみませんでした」」

平伏する姿より、反省していることが伝わったようだ。


「じゃぁ、改めて森へ行きましょうか?」

「そういえば、森へ簡単に行く方法があるって、」

「ダニエリーさんは魔法使いだから。う~ん。空を飛んでいくんですか?」

「少し違うわね?ジェスちゃんは分かる?」

少し考えた後。


「瞬間移動とか?」

拍手が起こった。


「正解!良く分かったわね。瞬間移動で森まで行くことが出来ます」

「瞬間移動ってホントに出来るんですか!?」

「えぇ、移動先の把握とか、人数とかいろんな制約があるけど可能よ」

おずおずと申し訳なさそうに質問するジェスター。


「あの、移動が失敗して地面に埋まるとか、空中に放り出されるとか、その言いにくいんすけど、失敗する確率ってどれくらいすか?」

「そうねぇ、初心者の場合は5割くらいかしら?私は失敗しないから安心してね?」

「流石、ダニエリーさん。信じてましたぜ!!!」

身の安全が保障されたため活き活きとするジェスター。


「それでは行きましょう。2人とも私に近づいて」

ダニえりーを挟むように2人は両脇に立つ。

直後、足元に輝かしい幾何学模様が浮かび上がると視界を白が埋め尽くした。

思わず目をつむってしまう。


「2人とも、目を開けてみて。」

言われるがままに目を開ける。


「うぉ、マジかよ。ホントに一瞬で森に来ちまった」

視界いっぱいに広がる緑。

風が木を撫でる音が耳に入る。


「ここが、例の鳥がいる森なんですか?」

チェルビーも圧倒されている様子。


「えぇ、この森の奥に住んでいたはずよ。早速進みましょうか」

ダニエリーの先導で森の奥へと進む。


道すがら、瞬間移動について話し出すチェルビー。


「魔法って便利ですね。私も瞬間移動覚えたいです!」

「そうねぁ、チェルビーちゃんは適正調査で"魔法"って出たのよね?」

「はい」

「それなら可能性は大いにあるわ。実は私も適正検査の結果は"魔法"と出たのよ。同じね?」

「ホントですか!なら、いっぱい勉強して瞬間移動を身に着けてみせます!」

自分にも可能性があると分かったのか鼻息荒く興奮気味に話す。


「チェルビーが瞬間移動を覚えたら、俺も楽できるな。旅行とかも楽だし。」

(何より、有名な温泉都市、その次に飯が上手いっていう観光地。なんて素晴らしいのでしょうか瞬間移動。)

「うぉっほん。俺もチェルビーが"瞬間移動"を習得できるように応援してるからな!!」

「アンタ、絶対に私を便利な乗り物だと思ってるでしょ?」

ジェスターの思惑はバレているようだ。


「因みに、ジェスターちゃんは適正調査の時、何か出たのかしら?」

「あぁ、俺は"エンチャント"って出ましたよ。確かこれも魔法の一種らしいんすけど」

「まぁ、エンチャント。中々珍しいわね。」

「そうなんすか?」

「えぇ、適正で"魔法"と出ることは多々あるのだけど"エンチャント"が適正で出ることは中々ないのよ。少なくとも私は聞いたことないわね。」

その言葉に疑問を持ったのか考えるジェスター。


「ダニエリーさんはエンチャントって使えます?」

「えぇ、誰かの武器に対して能力を付与するとかは出来るわよ。といっても基本的なモノしか出来ないのだけれど」

「適正で"エンチャント"が出るってどういう事なんすかね?」

「そうねぇ、ジェスちゃんと"エンチャント"という魔法の相性が良いという事くらいしか分からないわねぇ」

顔に手を当て考えてみたものの思い当たる節が無いのか困惑するダニエリー。

それに対して当の本人の表情からは疑問の念は消えていた。


「まぁ、ダニエリーさんが分からないなら、俺に分かる訳もない。ってことで考えんのやめますわ。疲れるし。」

「ジェスちゃんは、さっぱりした考え方してるのね?」

「違いますよ!ジェスターは考えるのが面倒なんで忘れようとしてるだけです。」


そんなこんなで歩くこと数分。


「ダニエリーさん、わざわざ歩かなくても、鳥のいるところまで瞬間移動すれば良かったのでは?」

「そうっすよ、それとも何か目的でもあるんすか?」

まだまだ、駆け出し冒険者。歩くのに疲れてきている様子。

いまだ、疲れを見せないダニエリーが答える。


「2人にはこの森の光景を魅せたかったの。だからちょっと手前に瞬間移動したのよ?」

「まぁ、そういう事情なら」

「俺達は文句言える立場じゃないんで」

納得する2人。


「うふふっ。ありがとう。ほら右手の方向を観て。この森は人の手があまり入っていないから、自然がそのままの状態で残っているの...日差しが差し込むことでここまで幻想的になってしまうの。素敵でしょ?」

彼女が言うように、木々の隙間から差し込む日差しと、木々の騒めきにより別世界のような感覚になる。

風に舞う艶やかな木の葉が日差しを反射し、キラキラと輝く空間を演出していた。



「こんな場所あったんだな...」

「そうね...」

この風景に感心したのか、口数少なく当りを見回す。


「ダニエリーさん、なんでこの森は人の手が入らないんすか?こんなに果物とかあるのに?」

ジェスターの言う通り、都市部で販売されているような果物が、この森には沢山実っている。

それこそ、冒険者たちの依頼として大量に募集されていてもおかしくないまさに宝の山だ。


「うふふ。私も駆け出しのころはそんなこと考えていたわ。態々、育てなくてもここに来ればいいのにって。でも違うのよ」

「違う...ですか?」

チェルビーは不思議そうな顔をする。


「そうねぇ、この答えは...2人で考えて貰いましょうか」

「えぇ...」

残念がるチェルビー。


いつの間にか森の深部に来ていたようだ。当りが暗くなってきた。生い茂る背の高い木により日差しが差し込みにくくなっているようだ。


「そろそろ、例の鳥さんの住処よ?」

辺りを見回し、白い鳥を探し出す。

しばらく歩きながら捜索すると、ダニエリーの視界に白色が映りこんだ。


「2人とも、居たわよ」

視線の先には、白く丸い球体が気の幹にあった。


「あいつだ。あの白い丸い物体が例の鳥だ」

「ここからが本番よ。準備はいいかしら?」

「おう!」

「はい!」


鳥をただ捕獲しても意味がない。あの鳥に認められることがとても重要だ。

そうしなければ、本懐を遂げることはできない。


「彼を傷つけたり、無理やり連れて行くようなことはしてはダメ!これは知っているわね?」

「無意味に動植物を傷つけるのは御法度なんすもんね」

「えぇ、なので彼に対して交渉をするの。ご飯とか環境面等のメリットを提示して、彼が頷いてくれれば問題ないわ」

「鳥に対して交渉するんですか?」

「えぇ、彼らは凄く頭が良いことで有名なの。それこそ提示した条件が満たされないと直ぐに去ってしまうのよ。彼らにとって交渉事は絶対であるから、条件を此方が守っている間はこちらのいう事を聞いてくれるわ。」

「じゃぁ、こっちも守れないような条件を出すわけには行かないなぁ、難しいな」

「そうね、彼らの種はそういう理由もあって連れて歩く人が少ないのよ。」

続けてポイントの解説を行うダニエリー。


「彼らはそれぞれ好みがバラバラなの」

「好みと言うと食べる物とかですか?」

「えぇ、食べる物もそうだし。環境面もそうね。例えば、高級布団で寝るのが好きな個体もいれば、麻で寝るのが好きな個体もいる。肉が好きな個体、野菜が好きな個体。更には人間の容姿によって付いていく個体もいるそうよ?」

「ホント、人間みたいな考えしてんな、あいつ等」

「という事は、その個体の好みをいかに把握できるかがポイントということでしょうか?」

チェルビーの質問。


「えぇ、そういう事ね。自分たちの条件にあう個体を気長に探す事が一番とされているわ。」

「まぁ、早速いってみますか」

ジェスターがしゃがみながら歩いていく。


次の瞬間、鳥の眼差しが此方を射貫く。


「気づかれたようね...行きましょう!」

すぐさま、鳥が居座る木のふもとに移動。

「あのお願いがありまして、私達と一緒に来て頂けないでしょうか?」

試しに、チェルビーが立ち上がり声をかける。


「ふっ」

こちらを一瞥し、嘲笑う

これにはチェルビーも青筋を浮かべるほかない。


「あの、毎日おいしいご飯も提供しますし、寝床も勿論用意してます」

「っ!!」

前のめりになった。チェルビーの言葉に反応したようだ。



(この反応っ。こいつは食料か寝床に興味があると)

「勿論、とてもおいしい食事を用意しますよ!!」

「っ!! っ!! っ!!」

3度もこちらを見直す。かなり興味があるようだ。


次の瞬間。バサッと羽音を響かせると、チェルビーの足元にてくてくと近づく。

が、最後の一歩を踏み出さない。


(こいつ、文字通り足元見やがって!!最後の一押しが必要という事か)


催促の目を向ける。


(ご飯でここまで来たってことは、それの具体的な内容よね? それが気に入れば付いていくと)

最後の言葉で全てが決まる。

近くで静観するジェスター、ダニエリー両名も固唾をのんで見守る。


「提供するご飯の内容ですが、おいしい野菜など」


次の瞬間。

「ッホッホッホッホゥ.....ペッ」

此方を嘲笑い、一瞥後に唾を吐き捨てそのまま飛び去って行った。


数瞬、静寂が支配した。


「キィィィィ!! 何なのあの態度!! まじで!!」

静寂を切り裂くは、青筋を浮かべ叫ぶチェルビー。


「まぁまぁ、野菜は彼の好みのご飯じゃなかったようね。こればっかりは相性があるから」

「そうだぞ、相性が悪かっただけだって。どうどう」

「まだまだ、始まったばかりよ。彼らは夜になると活発に活動しだすから、チャンスはあるわよ?」

「といっても、この森に夜までいるのは危険だからな..入れて、日没までかぁ..」


現在は夕方。タイムリミットの日没まで。


- 夜 酒場

「今日はありがとうございました。俺の驕りなんでじゃんじゃん飲んで下さい」

「悪いわよ、結局、見つからなかったのに...」

そう、日没後まで粘ったものの、件の鳥は見つからなかった。



「あの、私もなんか悪いわね。力になれなくて。せっかくのチャンスも不意にしちゃうし。」

「気にすんな、付き合ってくれた礼だ。驕りなんだから遠慮すんなよ」

その言葉に照れるチェルビー。木製のグラスで口元を隠す。


「....ありがとう」

その日は、ジェスターの驕りで飲み明かした。


その日の深夜。

ベロベロによったチェルビーを宿舎に置き、酒場に戻ってきたジェスター。

酔いが醒めたのか、席を立ち帰ろうとするダニエリー。


「よかった、ダニエリーさん。」

「あら、ジェスちゃん。忘れ物?」

忘れ物を取りに戻ってきたと思っているようだ。


「まぁ、忘れ物というか、"鳥"に行くというか、なんというか」



- 数日後


宿舎の庭先。何時ものように子供の達が遊んでいた。その中心にはジェスターに引っ付き、みんなが怖いと言っていた引っ込み思案のモーナの姿があった。


(モーナちゃん...良かったわ)

安堵するチェルビー。


(ん? なにあれ?)

目を凝らすとモーナの腕の中には白くて丸い物体が。

思い出すは、先日、森で相対した鳥。わたがしのようにフワフワな羽を持つ鳥。


「あれって...」

視線の先には、黙々と草をむしる背中。

何時にも増して眠そうな身体には、艶やかな葉と泥が付いていた。



(くそ眠い)

冒険者ジェスター。この後はモーナに教えてもらった場所で昼寝をするようだ。

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