美男と美女と聖女の護衛依頼
「で、本題ってなんすか? 詰まんないことだったらこの聖女の尻触りますよ、俺は本気だぞ?」
もったいぶるマルコニーにしびれを切らせたジェスターが訪ねる。
勿論、チェルビーから拳骨をもらい地面に沈む。
何事もなかったかのように復活するジェスター含め、事情を説明する。
「あぁ、それだが...」
訳を話そうとするマルコニーを遮るように聖女が口を開く。
「マルコさん、ここからは私がお話しします。それが筋という物ですから」
その言葉にマルコリーは一歩下がる。
先程までのふんわりとした柔らかい雰囲気が一転、凛とした雰囲気に変わる。
その変わり様に驚く二人は、改めて目の前の女性が聖女であると思い知らされた。
それ程までに、聖女の放つカリスマは凄まじかった。
「マルコリーさん、含め貴方達に依頼したいことがあります。どうか、私達の警護をお願いできないでしょうか?」
「警護?」
二人はその言葉に首を傾げた。
それもそのはず、聖女と言えば国の最重要人物。
その聖女には、国の中でも選りすぐりの人物が警護を行っているはず。
「聖女様、聖女様。警護って言ってもほら、騎士団とかがいるんじゃないっすか?」
ジェスターの頭の中にはジャレッグやハンナと言った騎士が思い浮かぶ。
チェルビーもジェスターの意見に同意するように首を縦に振る。
当の聖女は何かを話したそうにしながら、マルコリーに視線を送る。
マルコリーが頷いたことを確認して意を決して話始める。
「詳しくはお話しできないことが大変心苦しいのですが...この国には派閥と言う物があり本当に信用できる人と言うのはそういません。それこそ、何かにつけて私の命を狙う者たちもいます。そのため、警護と言う大事なことを頼めるの人は限られております。今まではマルコリーさんを始めとした冒険者の方々にお願いしておりましたが...」
「生憎と、出払っている奴が大半、更には、ベテラン程何かと制約があってな...と言うわけで物怖じしない、何とかなりそうという条件を満たしたお前らに白羽の矢が立ったと言うわけだ」
言い淀む聖女に変わるようにマルコリーが言葉を続けた。
その言葉に何とも言えない神妙な表情になる二人。
それもそのはず、今までの軽作業などと言う依頼とは何もかもが違うスケールの話がいきなり来たのだ。
それの、聞いて良かったのか判断に困るような事情を添えて。
「あの...マルコさん。やはり、お二人には...」
エイミーとしても二人に依頼するのは心苦しかったのだろう、マルコリーに二人への依頼を取りやめるべきかと問いかける。
そこに待ったの声を掛けるジェスター。
「依頼ってことは報酬が発生するんだよな...そいつを聞いてもいいっすか?」
「はい、相応の金銭は勿論のこと、依頼内容の危険性を鑑みまして、お二人のお望みする物を用意いたします」
「マジ?」
その言葉にジェスター、チェルビーの二人は目を丸くし、声をそろえる。
「なんでも...」
ジェスターの頭の中には美女に囲まれ酒と肉をたらふく食べる自分の姿が。
「望みの物...」
五指に巨大な宝石の指輪をつけた自信と膝末くイケメン達。
それぞれの欲望が頭の中に渦巻く。
よだれを垂らしながら、依頼報酬をもらった姿を思い浮かべた二人の姿に、聖女を含めた全員がドン引きしている。
「いいぜぇ、やってやんよ。やってやんよ」
「えぇ、エミリーを守り切ってイケメンと宝石ゲットよ!!」
握りこぶしを力強くつくり、やる気満々の二人。
「マ、マルコリーさん。ダニエリーさん...だ、大丈夫なんでしょうか?」
「え、ぇぇ...大丈夫よ。...二人ともいい子達だから...」
「...あぁ」
その言葉に力なく同意する先輩達。
依頼のリスクなんて度外視で燃えに燃える二人。
彼らの瞳には、美男、美女しか映っていない。
先行き不安な聖女の護衛依頼が始まった。