彼等と彼女等と神殿前
マルコリーに導かれるまま、ジェスター、チェルビー、ダニエリーは"ある場所"に向かっている。
「なぁ、チェルビー」
「何よ?」
「俺は、なるべく楽して金を稼いで、一日中を寝て過ごしたい願望を持ってるじゃん?」
「まぁ、いっつも口に出してるしね。それがどうしたのよ?」
「段々と、俺の理想の生活から遠ざかっている気がするんだよなぁ」
「確かに。最近のアンタは結構、働いているわね」
2人は最近の出来事を思い浮かべる。
「で、俺が忙しい原因が分かったんだよ」
「じゃぁ、その原因って何よ?教えなさいよ」
勿体ぶるジェスター。
その態度にヤキモキする。
すると、ジェスターが前方を指さした。
その方向には、歌を口ずさみながら陽気にあるく、禿でマッチョな男がいた。
「マルコリーさんが持ってきた話が原因だと思うんだ。変な大会も今回の件もそうだろ?」
「まぁ、そう言えばそうかも。マルコリーさんが発端で始まっている気がする」
「だろ? "聖女様に会える"っつぅから勢いで承諾しちまったが、よくよく考えたらやばい案件に違いねぇよなぁ」
「そうよねぇ。聖女様に会えると言っても、何されるか分からないものね。最悪は、神に捧げる生贄とか?」
見る見るうちに、最悪の未来を思い描きげんなりする2人。
「一度、承諾しちまったかなぁ、引き返すことは出来ねぇし」
「私達の冒険はここで終わったかしらねぇ、最後はイケメンの腕の中で逝きたいわ」
「俺だって、綺麗なおねぇちゃんとイチャコラしたかったわ。せめて、聖女様の腕の中で安らかに行きてぇわ。それ位の我儘は許してくれっかねぇ」
出るのは溜息と未練の言葉。
陽気に歩くマルコリーとは対照的な雰囲気の2人。
「っふふふ。大丈夫よ2人とも。生贄なんかにされないわよ」
2人の様子が面白かったのか、微笑むダニエリー。
「ホントすか?」
「私達は、神の供物に成らないんですか?」
逃れられない死を覚悟した目に生気が宿っていく。
「大丈夫よ。今回もきちんとした依頼よ。クライアントにも後ろ暗い事はないから、ね?」
ダニエリーの言葉で何とか持ち直したようだ。
「それにしても、どうして、生贄になるって思ったの?」
「あぁ、それなんすが、ねぇ」
「私達、お金に眼が眩んで、広場で騒いだじゃないですか」
「確かに、あのときの2人の眼にはお金しか映ってなかったわねぇ」
苦笑いを浮かべるダニエリー。
「更に、あのハンナ様? と騎士の人が怒っていましたし」
「騎士様を怒らせ、その直後に、聖女様に会えるとなると、"ゴミの排除の為に生贄"にされるのかと思ったんすよ」
彼らなりに騒いだことへの後悔があったようだ。
「成程ね。2人には聖女様からはお咎めはないはずよ。安心して」
笑顔を浮かべ2人を安心させる。
次の瞬間。
「でも、"パレードを観ようと集まった皆さんを騒がせた"ことは事実だから。この件はしっかり反省するように。まぁ、マルコリーと私も雰囲気に飲まれちゃったから、一緒に反省しましょう?」
ダニエリーも自分が止められなかったため、申し訳なさそうにしている。
「おい、お前ら!そろそろ見えてくるぞ!」
先頭を行くマルコリーが、後ろを振り返りながら指をさす。
その方向には、大きな門が見えてきた
市民たちがすむ家々に比べ、お金が掛かっている街並み。所謂、高級住宅街を抜けた先には、何者の侵入をも阻むような鉄製の大きな門が鎮座している。
「おいおいおいおいおい、なんだよこれ」
「でっかい門ですねぇ」
呆気に取られる2人。
「お前らは、こっちには来たことなかったか」
「そりゃ、こんな場所に来る用事はないっすから」
「そりゃそうか」
門を背にし、2人に対してマルコリーから。
「よく聞け、2人とも」
その表情は、冒険者マルコリーとしてのモノだ。
「この門はあらゆる外敵を排除するために設置されている。勿論、この壁もそうだ」
門の横に広がる、大きな壁を指さしながら言う。
「この壁は都市の端から端まで続いている。つまりは、この壁で都市部を真っ二つにしているってことだ」
「マジかよ、どんだけ厳重なんだよ」
マルコリーの言葉に驚きを通り越した声を発する。
「ついでに言うと、上空だろうと、地下だろうとこの壁を越えることは出来ないわ。見えない壁が天地を塞いでいるイメージね?」
ダニエリーが補足する。
「なんで、こんなに厳重な警備体制を敷いているのかは、もう分るだろ?」
息をのむ2人。彼らが思い浮かべた"その理由"がそうさせた。
ジェスター、チェルビーの顔の強張りからマルコリーは彼らの思考を読み取った。
「そうだ、この先に今回の俺達のクライアントである、聖女様達が居る神殿がある」
門前からでも、見える程に大きな建物。白を基調とし、随所に細かな彫刻が施された石造り。そこには、これまた白を基調としたデザインの旗がたなびく。
「あれ、今回のクライアントって聖女様なんすか?」
「あれぇ、言ってなかったか? そりゃ悪かった」
悪びれた風を装おうマルコリー。
「私達、この恰好でいいんですか? 流石にこれで行くのは気後れすると言いますか、失礼に当たりそうで」
何時もと変わらぬ、体の要所を保護するプレートを付けた冒険者スタイル。
警備の者ならいざ知らず、門を跨ぐ資格があるものには見えない。
「大丈夫だ! 俺の恰好を見てみろ!!」
上半身裸、下はボロボロのズボン。
彼の堂々とした達振る舞いをみて、マルコリーよりはマシかと安堵するチェルビー。
「服装も、礼儀作法も最低限の気遣いが出来れば大丈夫よ。勿論、2人とも合格よ、安心して」
ダニエリーのお眼鏡に叶う程度には礼儀がなっているようだ。
「心配なのは、マルコリーよ。あの服装はどうしようもないけど、言葉遣いはきちんとしなさいよ、分かってるの?」
「おうともさ! 俺をそこいらの駆け出しと一緒にするなよ。この俺だぜ? 安心しなぁっ!」
腰に手を当て威勢よく発するその言葉。
一同は、不安しか感じなかった。
(流石の俺でも、心配になるなぁ)
(ダニエリーさん、苦労してそうねぇ)
(貴方だから、心配しているのよ)
3人の不安なんてお構いなしに、門へと歩みを進める。