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giveAndTake(ギブアンドテイク)  作者: あねものまなぶ
15/18

金と騎士と新たな依頼

- 昼 都市部 宿舎


とても大きな銃声に飛び起きるジェスター。

その後も数発、鳴り響く。


慌てて窓を開け放ち、身を乗り出して外の様子を確認する。

そこには、普段とは違う活気に満ち溢れた光景が。

一様に、都市部の中心に向かって歩みを進めていく人達。その表情は期待と興奮に満ちている。


その時、記憶の奥底から答えが上ってきた。


「あぁ、今日が、例のパレードだ」

見上げた空は、どこまでも青かった。


- 昼 都市部 酒場


「ったく、起こしてくれても良いじゃんよ、チェルビーさん?聞いてる?」

「だって、何回も声かけたのに、"あと五分"って言うからよ、ここで待っていてあげたんだから感謝してよね」

「はいはい、ありがとうございます。チェルビーさんの心遣いに感謝感激でございます」

何時ものように、卓を囲み談笑している2人。


「にしても、いつにも増して元気だなぁ」

頬杖を突き、外を行きかう人々を眺めるジェスター。


「早めにポイントを抑えるって皆、張り切っていたわよ」

「ポイントっていうと、なんの?」

「聖女様達を、バッチリ観れるポイントのことよ」

その答えに合点がいったのは、感心したようすのジェスター。


「成程、皆は聖女様やら、使徒様やらの姿が観たいと」

「そうそう、使徒様に至っては、このチャンスを逃したら一生、お目に掛かれない可能性だってあるのよ。それを考えたら必死にもなるわよ」

その時に、ジェスターの頭脳に電流が走る。


「おいおい、チェルビーさん。俺達の最終目標ってなんだっけ?」

「なによ、藪から棒に」

急に態度が変わるジェスターに驚く。


「いいから、いいから、答えてみ?」

声を潜ませながら催促する。


「それは、村の財政難を救う、かしら?」

「その通り、要するに金が大量に欲しいのさ、俺らは」

「それが何よ?」

ずずずいと上体をチェルビーの耳元まで近づける。


「ごにょごにょごにょ」

「っ! ほうほう」

驚く。


「こしょこしょこしょ」

「いや、でも、それは」

抵抗する。


「こちょこちょこちょ」

「確かにそうね」

頷き


怪しい談笑も終わったのか、卓の上で握手を交わす2人の姿が。


「このプランは誰も不幸にしない、させない!」

「笑顔で、最高の結果を!」

笑顔で酒場を飛び出す2人。


彼らのプランが始まった。


- 昼 都市部 中央広場


噴水を囲うように、広がる大きなスペース。都市部で行われるイベントはここで行われるのが恒例となっている。


「なんで、俺がこんなことせにゃならんのだぁ。早くこの喉に酒を通してぇなぁ」

項垂れる男は、マルコリー。ジェスター達の先輩にあたる冒険者だ。


「私達の仕事は、悪意のある人間を通さないようにすることでしょ? 酒を通すのは後にしなさい」

そんなマルコリーを諫めるのは、魔法を主として戦う冒険者、ダニエリー。


「はいはい、そうですね。そうですよ、そうでした、頑張ります」

「それでいいのよ。面倒な仕事はさっさと終わらせちゃいましょう」


「お前も面倒って思ってんじゃねぇか!」

「それはそうよ。私は人混みが苦手なのよ、貴方も分かっているでしょう?」


「おうよ、分かっていて、連れ出したからな!」

憎たらしい表情。


「いやいや、この手の依頼は、お前みてーな魔法を使える奴が都合がいいのさ。それはお前が一番分かっているだろ?」

「まぁ、そうだけどねぇ」


「お礼に、酒とツマミを奢ってやるから、な? な? な?」

「分かったわ。高いの奢って貰いましょうか」

「はぁ、しゃーない。お前が手伝ってくれるんだ、それで交渉成立だ」

マルコリーの懐が寒くなることが決定したようだ。


「了解。さっそく、ここら辺で怪しい動きをしている人間がいないか探ってみましょうか」

広場の中央に立ち、目をつむるダニエリー。


「発見したら、場所を教えてくれ。俺がとっつ構えてやる!!」

ウォーミングアップをするマルコリー。


(集中しましょう)

意識を広場全域に向ける。


ダニエリーの頭の中には、広場全域のイメージが浮かんでいる


(特に、不審な動きをしている人は居なそうかしら)


その時、不審な建築物が、路地裏にあることを発見する。


(あれは、屋台ではないわよね? なんというか、物見やぐらとでも言えばいいのかしら。それに誰かが指示を出している?)

不審な物を発見したダニエリーは、近くにいるマルコリーを呼ぶ。


「ねぇ、マルコリー。あっちの路地に物見やぐらみたいな建築物があるの。ちょっと見に行ってくれるかしら?」

「おうよ!」


「でも、不審な人影が確認できるから、警戒は怠らないで。私も後から行くから」

その言葉に警戒を高めるマルコリー。ゆっくりと目的の路地に近づく。


(私も、注意しながら、マルコリーを追いましょう)

魔法で路地の様子を観察しつつ、移動を開始する。


その時、マルコリーに気づいたのか、指示を出していた人間が路地から出てきた。

咄嗟のことに、マルコリーも驚いた様子!


(マルコリー!)

居てもたっても居られず、慌てて、目標地点へと駆ける。


「マルコリーっ!」

路地に入ると、そこにいたのはマルコリーと2人の人間。

何れの人間も見覚えがある。


「あれ、ダニエリーさんも居たんすか」

「随分、慌ててますけど、どうしたんですか?」

何か作業をしている風のジェスターとチェルビーだった。


「おう、ダニエリー。こいつらおもしれ事考えてんぜ!」

ダニエリーの心配をよそに、少年の様に無邪気に笑う禿親父。


「はぁ、まぁいいわ。で、ジェスちゃん、チェルちゃんは何をしているの?」

視線の先には、物見やぐら。


「いやぁ、この人混みの中で、聖女様を観ようとしたら大変でしょ? そこで」

「この物見やぐらから、見物すれば、ストレスなく、尚且つ、いい位置で聖女様達を観れるという訳です!!」

腕を組み、してやったり感を前面に出す2人。


「いいなそれ! 俺も乗せてくれよ!」

「勿論です、本来ならば銀貨3枚位は取りますが、マルコさんは特別です!」

チェルビーが意気揚々と答える。


「でもよ、これどうやって上るんだ? 階段とかねぇだろ?」

マルコリーの疑問はもっともだ。

見渡す限り、階段など存在してない。


「そこは、俺の出番ですわ!」

マルコリーに近づくと、一瞬にして、2人の姿は物見やぐらの二階部分にあった。


「おぉ、そう言えば、ジェスターが瞬間移動を覚えていたんだったな!」

「俺以外にも、一人くらいなら短い距離を飛べるようになりました、どうです、ダニエリーさん。成長したでしょ?」

物見やぐらから自慢げな声が聞こえる。


「こんな場面で、成長が垣間見れて、私はうれしいわぁ」

呆れた表情で、俯きながら言う。


「でもよ、ジェスター。誰かが勝手に上ってきたりしないか? セキュリティ対策はどうなってんだ?」

「それについては、チェルビーが居ます」

そこには、腕を組んで自信満々のチェルビーが。


「チェルビーが何をするんだ?」

「勿論、私が、上ってきそうな輩を発見次第、殴ります!」

その拳には、魔法が掛けられているのか淡い青で包まれている。


「なるほど、チェルビーが居れば確かに安全だ。あのパンチはやばいからな!!」

安心するマルコリー。


「えぇ! 魔法により素早く、鋭く、さらには諸々が強化された今の私なら、確実に相手を行動不能にできる自信があります。どうです!! ダニエリーさん。私のこの成長は!」

全身から淡い光を発するチェルビー。


「貴方達って、まともな使い方はしないのかしら。こんな場面で成長がみれて、私は、嬉しいわぁ」

心なしか、先程より、元気がないようだ。


「ダニエリーさん、元気ないっすね。よければこれに乗りますか? そろそろ移動するんで」

元気がないのを悟ったのか、ジェスターが誘う。


「はぁ、私も乗るわよ。ホント、マルコリー達のバカが移ったのかしら、」

ダニエリーの搭乗も決まった。


「でもよ、ジェスター。これはどうやって移動するんだ?」

「こういう時は、チェルビーです!」

チェルビー以外が乗っていることを確認する。


「チェルビー!! ゴオオオオオオオオオオオオオオオゥゥゥゥゥゥゥ!」

威勢のいい掛け声とともに、チェルビーが物見やぐらを押す。


「っしゃぁ、われぇぇぇぇい!!!」

女が出してはいけないであろう声を発しながら、物見やぐらを押していく。


見る見るうちに、広場の中央まで、押し出される物見やぐら。

人並を割くように出現した、建築物に周りの人間がざわつく。


「今なら、銀貨三枚で、ここからパレードが観られるよ!!」

「この場所なら、酒を片手に宴会しながら、パレードが観れますよ!」

注目を集めている内に、呼び込みを行う2人。


「酒の摘まみに、聖女様は如何すか!」

「早いものガチですよ!」

気のいい謳い文句で注目を集めていく。


「はっはっは、2人ともおもしれえなぁ!はっはっは、なぁ、ダニエリー?」

「ホントに、変な所で魔法使っちゃうし。本当は、無闇に使ってはいけないのよ、本当に」

大爆笑のマルコリーとは対照的に、呆れ果てるダニエリー。


「まぁ、ここからなら、広場を見渡せるし、警備の手伝いっていう名目でどうだい?」

「通じる訳ないでしょう?まさか、チェルちゃんまで、そっち方面に行っちゃうだなんて」

「良い事だ!これぞ冒険者って感じだな!」

笑い飛ばすマルコリーへ群衆から声が掛かる。


「これだから、冒険者さんは」


声の主に目を向ければ、傍らに騎士を侍らせる、純白の衣装に身を包む女性がいた。


「げげっ! ハンナ!」

途端に、不機嫌な顔になるマルコリー。


「あら、ハンナ様、お久しぶりです」

「ダニエリーさん。お久しぶりです。元気そうで何よりです」

顔見知りの2人の挨拶が始まった。

かと思えば、傍らの騎士が、ジェスターに向かって怒鳴っている。


「おい、ジェスター! 何をバカなことをやっているんだ!! 皆様の邪魔になるだろう! 即刻、この妙な物を撤去するんだ!!」

「おやぁ、これはジャレッグじゃ、あ~りませんか。今日も元気が良い事でぇ」

おどけるジェスター。


「あぁ! ジェスターをボコった騎士様だ! 私はチェルビー。よろしくね!」

「あ、あぁ、ジャレッグと申します。よろしくお願い致します」

フレンドリーに挨拶する、チェルビーに対しても、硬い表情で返す。


「ったく、ジャレッグは頭が硬いんだよ。もっと柔軟な思考をしてみろ」

「なにっ! そこまで言いうなら、ジェスターの柔軟な思考とやらで教えてもらおうじゃないか! この建築物の意味を!」

反論する。


ジェスターの言葉にみなが注目する。

「しゃぁねーな。いいか、今日はパレードがある。人がいっぱい来る」

「それで!」

青筋が浮かぶ。


「パレードが見える、いい場所があったらみんな欲しがるだろ?」

「それで」

青筋が更に浮かぶ。


「じゃぁ、いい場所を作ってやれば良いんだって!!そうすれば、みんなはいい場所で観れて、俺らはお金を稼げる。柔軟だろ?」

「全然、柔軟じゃないじゃないかぁ!!」

ジャレッグが怒鳴った。


「柔軟どころか、ガッチガチに固まった思考をしているじゃないか!! 場所がないから作ればいいなんて、力技にも程があるだろ!!」

「何言ってんだよ、皆がやらない手段を使って、皆を幸せにしてるんだよ。皆がやらないってことは、俺の柔軟な思考力が優っているってことだろ?」


「バカらしすぎて、誰もやらないだけに決まっているだろぉぉぉぉぉ!!!!」

ジャレッグの息が荒くなる。怒鳴りすぎたようだ。


「はっはっは、お前ら仲良すぎだろ!!」

ジェスター、ジャレッグのやり取りに爆笑するマルコリー。


「えぇ、ジャレッグにお友達が出来て私も嬉しいです。ですが、」

冷たい視線がマルコリーを射貫く。


「私達も、本日は警備の任に付いております。この建築物は、人々の通行の妨げになる、若しくは、事故を起こす危険性があります。言いたいことはお分かりでしょうか?」

「つまり、俺達が、邪魔ってことだな、ハンナ様?」

「マルコリーさんにしては、頭が回るようで。私も言葉を尽くす必要がなくて助かりました」

2人の間に火花が散る。

先程迄、怒鳴りあっていたジェスター達もこれにはビックリし、ことの成り行きを見守る。


「で、どうするよ? 頼み事してるのはそっちだ。何が言いたいか分かるだろう、お前なら?」

「そうですね。いう事を聞いて頂けないというが分かりましたので、」

腰に差した、美しい装飾が施されたロングソードに手をかける。


「実力で以って排除します」

待っていたと言わんばかりに、マルコリーが笑う。


「久しぶりにやろうっていうのか?」

「えぇ、貴方がそう言うのならば、付き合ってあげましょう」


「いやぁ、告白は嬉しいが、俺には心に決めた奴がいるからなぁ、すまねぇな」

「軽口を叩けないようにしてあげましょうか?」

ハンナは本気らしく、マルコリーの冗談が通じないようだ。


「そこまで、言われちゃ、やぶさかではないんだが、どうやら仕事が入ったようだ、だろ?」

「はぁ、そうですね。至急の仕事が入りましたので、失礼させて頂きます」

ロングソードを鞘に収め、この場を去るハンナ。


「おい、ジェスター、早い所、この建築物は撤去しておけよ!」

ジャレッグがそう言い残し速足で去っていく。


その姿を見送ったあと、マルコリーが。


「ジェスター、チェルビー。ちょいと、頼み事があんだが、乗ってみないか?」

2人に視線を向け、不敵な笑みを浮かべる。


「ちょっと、マルコリー。2人を巻き込むつもり!」

頼みごとを快く思っていないダニエリーが止める。


「こいつらも、そろそろ慣れておくべきだ。荒事によぉ」

「そうだけど、別にこの件じゃなくても」

なんとかやめさせようと、必死になるダニエリー。


「いや、こんな機会は今後あるか分からねぇ、俺は、こいつらに体験してほしいんだ・この絶好の機会ってやつを」

マルコリーは一歩も譲らない様子。


「はぁ、分かったわよ。私からはもう、何も言わないわ」

諦めたように溜息を吐くダニエリー。


「で、俺達に頼み事ってなんすか?」

「態々、"頼み事"って言うくらいなら、報酬は貰えるんですよね?」

やり取りを見守っていた、2人は訪ねる。


「勿論だ、報酬は、"噂の3人"に会えるってのはどうだ?」

「"噂の3人"って言うと、」

2人の頭の中には、パレードの目玉となる人物たちが浮かんだ。


「「マジで!!!!!!!」」



冒険者ジェスター、チェルビーの叫び声が広場にこだました。

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