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giveAndTake(ギブアンドテイク)  作者: あねものまなぶ
14/18

彼等と甘さと受付嬢

ここに来て、初めて前書きを書きました

- 昼 都市部 酒場


「あぁ、金欲しい、出来れば可愛い女の子も、後、お酒と、美味しい食べ物もぉぉぉぉぉ」

酒場の卓に頬をべったりと付けながら、聞いている人間のやる気を奪ってしまいそうな声で低く呟くジェスター。

バタバタと木の床を叩く足の音は、同席しているチェルビーの表情を加速度的に歪ませている。

「また言ってる。お金が欲しければ働けばいいでしょ!!...とは言えないわね、今回は」

尻すぼみに小さくなる声にジェスターが首を縦に振る。

「だろ? 絶対安静って先生に言われてるし、この酒場に来るのも本当はいけねぇんだもんなぁ。まぁ、来てるんだけど」

「まぁ、酒場くらいなら先生も許してくれるんじゃない? まぁ、許可を取らずに来てるんですけど」

先日の試合から数日の間は安静を言い渡されたチェルビー、ジェスター。

と言っても、彼らの傷は魔法での治療もあり完治済み。

医者の言う自室での療養も健康であり、尚且つ、手持無沙汰な彼らにとっても退屈なもの。

その結果、第二のホームとも言うべきこの酒場に自然と足が向いたというわけだ。


「皆も、依頼受けてどっかに行ってるしなぁ」

「暇ねぇぇぇ」

チェルビーもジェスターと同じような姿勢をとる。

何時もの時間帯ならば、数人は席に座り酒を飲んでいる物の、現在はジェスター達以外には冒険者の姿はない。

ウエイターさん、ギルド職員は持ち場で談笑に耽っている。


「暇なら、私とお話しませんか?」

ぐたっとする2人に声をかけたのは、可愛い受付嬢さん。

この酒場の唯一の癒しの存在だというのが二人の、いやこの酒場にいる冒険者の共通認識だ。


「受付嬢さん、じゃないすか、仕事は良いんすかぁ?」

「そんなっ!? 受付嬢ちゃんが、仕事をサボるなんて...お母さんは悲しいわ...よよよよよ」

下手糞な演技で泣き崩れるチェルビー。

それに駆け寄り、肩を抱くジェスター。

ついでと言わんばかりに尻に手を伸ばしたジェスターの手は、はたき落とされた。


「母さん、これも娘の成長なんだ。私達は、娘の歩みを見守ろうではないか」

「貴方、私ったら...酷い母親ですね」

「良いのさ、足りないところは補っていくのが夫婦ってもんだろ?」

2人してどこか遠くを見つめる。

視線の先には、すくすくと成長していく受付嬢の姿でも視えているのだろう。

このように暇を持て余した人間達は受付嬢というおもちゃの到来にテンションが上がっているようだ。


とふざけたのもつかの間、

「で、何を話しますよ?」

「結局、"優勝者"だっけ?あれは誰になったんですか?」

先程の事はなかったかのように席に戻り話始める二人。

あまりの変わりっぷりに、受付嬢の手の中にあるグラスを落としそうになるほど慌てる。


「急に、素に変えるんですね、驚きました」

冷や汗と苦笑いを顔に張り付けながら、空いている席に腰を下ろす。

「で、優勝者についてでしたね...確か、高名な騎士様が優勝なされたそうですよ。純白の鎧に身を包む、金髪のイケメンらしく、女性人気が凄く高いそうです!」

チェルビーの先程の質問に答える。

その人気は凄まじいらしく、都市中の女性のみならず、噂が噂を呼び周辺の村々までファンが出来るほど。

女性ファンは急上昇、男性からの嫉妬も急上昇らしい。

「へぇ、純白の鎧ねぇ」

ジェスターイケメンの話題には興味がないのは想定済みだが面食い女チェルビーが食いついてこないのはジェスター、受付嬢も想定外。

当の本人はけろっとした表情だ。

「イケメン!! といっても、私の守備範囲じゃないかなぁ。まぁ、一度くらい見てみたいわね。どうしてもって言うなら考えて上げなくもないけど...」

チェルビーは誰もがうらやむようなイケメンは守備範囲外らしい。

アプローチされるのはまんざらでもないようだが。

チェルビーの言葉を聞いてか、ジェスターもどんな風貌なのか気になり会ってみたいと心が動く。

そんな様子を察してか受付嬢が提案をする。

「安心してください、お二人とも! 聖女様、使徒様、そして優勝した騎士様の御三方でお披露目を兼ねたパレードを行うそうなので、バッチリ拝見することが出来ますよ!!」

二人そろって受付嬢の言葉に声を上げながら驚き、パチパチと拍手。

「そういや、騎士様もそうだが、使徒様っていう奴も見たことないな、どんな奴なんです?」

ジェスターが思い出したかのように言う。

「使徒様はの容姿については詳しく分かっていないんです。ただ、見眼麗しい女性と噂されてますね。聖女様と遜色ないとまで言われてます!」

ジェスターの頭の中には、先日見かけた聖女の姿が浮かぶ。

「ほぉ、あの聖女と同レベルっていうからには、期待しちゃうね...何がとは言わないが」

腕を組みうんうんと頷くジェスター。

「アンタが期待したって何にも起こらないわよ。ほんと、アンタみたいなのには縁がない人なんだから諦めて、もっと身近な人を探しなさい」

呆れた物言いのチェルビーにジェスターは青筋をこめかみに浮かべる。

「おいおい、ジェスターはやる男ですよ! 何れは聖女様だろうが、使徒様だろうが俺にメロメロだから! コレ、俺の夢な!!」

勢いよく立ち上がりチェルビーの耳元で叫ぶ。

「せめて、眠りながら言いなさいよ。その寝言」

「まぁ、聖女様をメロメロにするかは置いておいて、ジェスターさん、チェルビーさんは試合での活躍が噂されてますよ。もしかしたら、メロメロになって下さった方もいるかもしれませんね」

茶化したように受付嬢がいう。

「確かに、ここに来るまでにも親父に声かけられたな」

「そうねぇ、私なんか凄く心配されちゃったわ」

思い当たる節があるような2人。

「でもよ、俺らよりも活躍した奴とか、いっぱいいるだろうに、なんでこんなに噂になってんだ? ...もしかして、このジェスターのカッコよさが微かな噂を加速させたのか!!」

「アンタは中の中の顔...大した活躍もしてないんだし噂なんてされないわよ。...でも、確かに不思議ねぁ、なんでかしら?」

2人の疑問は受付嬢が解消してくれた。

「それはお2人の築いてきた"繋がり"によるものでしょう」

「ほぉ?」

二人の声がそろう。

「お2人よりもド派手に、華麗に勝利した方々は沢山います。ですが、お2人のファンとも言うべき方々がいらっしゃったのです。それは、草むしり、店番、雑用などの依頼で繋がった、都市部に住まう方々なのです。依頼で頑張ってくれたお2人が試合にでるって事で沢山応援してくれてたんですよ!!この酒場も凄く盛り上がっていたんです!!」

嬉しそうに話す受付嬢。

「そうか、だから俺らに声を掛けてくれたんか」

「私達は、一人じゃなかったのね。本当に」

「はい、これからお2人は大変な"冒険"をすると思います。パートナーとも呼べる仲間は勿論、私達、職員、それに此処に住まう方々。いや、貴方達との"繋がり"を大切にしてくれる方々は何時でも隣にいます。寂しかったら、私達のことを思い浮かべてくれたら、嬉しいなぁ、なんて、、、」

最後の方は恥ずかしそうに、頬を掻き、目を逸らしながら言う。

そんな受付嬢の言葉を聞いてか、二人とも目に涙を浮かべている。

「母さん、私達の娘は立派になったな」

「そうねぇ、本当に、大人になっちゃって...私、嬉しくて嬉しくて」

受付嬢を挟むように抱き合うジェスターとチェルビー。

突然の事に対応できず、二人の間で藻掻く受付嬢。

「苦しいですよっ!! それに娘ではありませんからっ!!」

ジェスター達のサンドイッチから何とか前方に脱出したようだ。

プンプンといった表情を浮かべているが、その可愛らしい風貌と相俟って怖くない。

寧ろ、普段とは違う可愛さが前面に出ていた。

「すいません、すいません、何か奢りますから。な? チェルビー?」

「えぇ、勿論です。なんでも好きな物頼んで下さい。どうぞどうぞ」

受付嬢を怒らせたことへの罪悪感からの提案。

このまま拗ねられてしまうと地悪感がパナイと2人の表情に僅かばかりの焦りが浮かぶ。

しぶしぶと言った様子で差し出されたメニューを吟味し出すが、ページをめくるたびに表情が明るい物へと変わっていく。

「では、この甘ーいスイーツを下さい!!!!」

機嫌よく、大声でウエイトレスに声をかける受付嬢。

ワクワクした様子で足をばたつかせながらスイーツを待っている受付嬢を見て、機嫌が直ったと胸を撫で下ろす二人。

到着したスイーツに目を輝かせている受付嬢を余所に二人は話し始める。

「なんにせよ、次の目標は決まったな、チェルビー」

「なによ次の目標って?」

席に座り直す2人。

「聖女様達のパレードを楽しむ!!」

握り拳を作り、威勢よく宣言するジェスター。

「そうね!!!!」

これにはチェルビーも同様だった。

「確か、3日後にパレードが開催されますので、それまでは激しい運動は控えて下さいね。はむっ!」

スイーツを頬張りながらも受付嬢の職務を果たす彼女。

「パレードで暴漢が出現し、俺が聖女様を颯爽と助け出し、ベタぼれって展開が起こんねぇかなぁ」

「そんな事は起こらないわよ。警備は厳重な筈ですから! なんでも腕利きの騎士達が周りを固めるとか。それに最強さんと使徒様もいますから!!」

スイーツを頬張りながらもジェスターのつぶやきを拾う受付嬢。

「ジェスターの考えは甘いのよ。甘々だわ」

「だよなぁ、甘いか、この考えは」

「そうですよ、ジェスターさんの考えは甘いです」

スイーツが乗るスプーンを見つめる3人。

それぞれスイーツを口に運び、味わい飲み込む。


「「「あまい...」」」

世の中そんなに甘くない。

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