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giveAndTake(ギブアンドテイク)  作者: あねものまなぶ
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空と大地とおやじ

澄み渡る青にほんの少しの白が浮かぶ空。

地平線を境に、緑と土色が視界いっぱいに広がっている。

おまけに、綿菓子のような羽を持つ鳥に、綿菓子のような袋を被った動物達が闊歩する誰しもが自由に生きる活力あふれた世界。


農作業に勤しむ人々が暮らす村の片隅で、地球の息吹である風を浴びながら、木陰で微睡む青年が居た。

中肉中背の黒髪にちょっとばかし覇気のない目が特徴の彼、ジェスターは土弄りでもしていたのか顔に土をつけながら空を眺めている。


(鳥よりも社会性がある人間が何故、鳥よりも不自由なのだろうか..それが分からない。ホントそれ)

頭上の木の幹に留まる鳥を見つめる。


(大人になったら何か変わると思っていたが、気付いてみれば大人の手前。ガラッと世界がが変わる訳でもないしな....生きるためにが仕事しなきゃいかんし)

「おーい、ジェスター!! 手伝ってくれ!!」

声が聞こえる方向に顔を向けると視界端に動く人影が見える。

ジェスターに向かって声を張り上げているのは、顎髭を蓄えた恰幅のいいおやじだ。

彼はこの村で農家を営み、彼の畑で取れる作物は大きさもさることながら味も抜群であり村の大事な収入源となっている。


そんなおやじが年甲斐もなく手をブンブンと振っている。

「おーい、ジェスター!! ジェスター? ジェスター!? 聞こえとるんか???」

年甲斐もないとはこのおやじの為にあるのではとジェスターは時々思う。


「ジェースーター!! ジェスーー君!!」

何をどう思ったのか分からないが、彼は突然飛び跳ね始めた。

器用に手を振りながら飛び跳ねるおやじが発生した。


「ジェースっは!! はっジェスーーっふっ」

更に、捻りを加えて回転を始める。

本末転倒とはこのこと、ジャンプに集中している余りに此方への呼びかけを忘れかけているようだ。

舞うのは、おやじと土煙。

浮かぶはおやじの惨状を目撃した村人の何とも言えない笑顔とおやじの巨体だけだ。


この光景はこの村にすむ者にとっては見慣れたもの。

あのおやじはジェスターを呼ぶときは大体飛ぶ。

ジェスターはこのおやじを見るのが好きだったりする。


おやじの舞を観るために無反応を貫いていたジェスターはほくそ笑む。

(...やるじゃないか、おやじ)

ジェスターの採点では、ジャンプの高さ、声の張り共に過去最高点を叩き出している。

ジェスターを呼ぶときは、大抵が収穫物の運搬となる。

つまりは、この野太い声が収穫終了の合図として村全体に響き渡るのだ。

ジェスターとしてはもう少し眺めて居たいが、無反応が続くとおやじが泣いてしまうのでここまで。


「おやじ! 今行く!」

俺は出来る限り声を張り上げて、おやじの舞に答えてやった。

おやじが目じりに涙を貯めながらも笑顔で頷く。


おやじスマイルは百万ドルの価値がある。

この笑顔が農作業中の癒しであり清涼剤、清涼剤おやじ、これは売れる気がする。

などと、つまらない考え事をしながらおやじの元へ歩いていく。


「おやじ、いつもみてーにこれを納屋に運べばいいのか?」

「おうとも。儂は腰が悪くての..流石に思いモンは運べんわ」

「はいはい、了解~」


(結構、収穫が多いな....)

目の前に積みあがる背丈ほどにまで積みあがった収穫物が入った箱。

それを眺めつつ、明日の筋肉痛を覚悟するとともに、ジェスターが気合を入れる。


イメージするのは俯瞰した自分の全身。

ゆっくりと血液が体を循環していくような暖かさを全身に感じたところで、準備完了。


ゆっくりと積みあがった収穫物の持ち上げる。

バランを取るのに苦労しているようだが、それも落ち着いたのかしっかりバランスをとった状態でデルは立ち上がる。

目の前には、見上げるほどの高さになった収穫物の塔。

本来ならば、何回にも分けて運ぶところを、ジェスターが行えば一回で済む。

それもこれも、ジェスターが持っている不思議な力が起因している。


「ほぉ、やるもんだのジェスター。」

「おうよ。任せとけって...」

褒められたのが嬉しかったのか機嫌よく、納屋まで収穫物を運ぶ。

戻ってきたときには、息も上がっており疲れた様子だ。


「はぁぁはぁぁ。これはおやじでも無理だわ..体力的にも。....こんな大量に作るんじぇねーよ。運ぶのが面倒だろうが..」

「そういうな、この貧乏な村の大切な収入源だ。それこそ、もっと大量に作りたい所だがな...」

「流石に、これ以上は無理だろ..人手足らんし、肥料を買う金も足らんからなぁ...」

人手も金も足りない。無い無い尽くしだ。


「外に出た奴らからも幾らか金を貰ってんだろ?」

「あぁ、有難いことに助かているよ...本当は"出稼ぎ"なんてさせたくはないのだが....」

"出稼ぎ"とは、文字通り村の外で働き、収入の一部を村に入れるというものを指す。

どれだけの金を村に入れるかは個人の思入れ次第だろう。


(俺は、絶対に外に出ないし、村に金も入れない....この村で親の脛を齧り尽くす)

「そういえば、そろそろ時期だな....ジェスター。お前さんも観念して、"出稼ぎ"にでも行ったらどうだ?」

「やだよ、絶対。今年も村中を逃げ回ってやるさ...」

この男。

昨年も出稼ぎに行けと言われているが、やる気のなさが起因したのか、村中を逃げ回りなんとか回避したのだ。


「今年はどうするんだ? また村中を走るのか?」

「いや、今年はどこかに隠れてようと思う。走るのは疲れるからなぁ。」

「隠れる...何処へ?」

「おっ....そうだな。....う~ん。」

隠れ場所について検討すると、一つの案がジェスターに浮かぶ。

「おやじの家に匿ってくれよ! どうだ?」

「う~ん...バレたら儂も怒られるしなぁ...」

「おやじ..この大量の収穫を善意で運んでやってるんだぞ? ...おやじの分の力仕事だって代わりにやってるだろう?」

「それを言われると...」

「一日、俺を匿うだけでいいんだ...バレたら俺が無理やり押し掛けたってことにしていいからさ...」

「明日は玄関を開けておく、もしかしたら誰かが勝手に入ってしまうかもしれんが、儂も年だからな。気づきもせんだろ...これは独り言。独り言」

話は纏まったようだ。


- 深夜 ジェスター宅

村中が寝静まったであろう時間。尿意を覚えトイレに向かう。

すると、一階のリビングから話し声が聞こえてきた。


(この時間まで起きてるとは...この声はおやじとおふくろか?)

聞き耳を立ててみる。


「"出...稼...行...."」

なにやら話し合っているようだ。いつになく真剣に。


(これは.....)

微かに聞こえた内容から危機感を覚え、急いで戻る。

それからのジェスターの寝室からはゴソゴソという物音が聞こえていた。

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