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REALY  作者: バタやん
第一章
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第6話(未完成)



 頬の傷がヒリヒリと痛む。

 幸い軽傷の左頬に刻まれた切り傷をそっと左手で触れ、来人は改めて振り返っても非現実としか思えない経験、初めての”能力者同士の戦い”を回想していた。

 葵や朱莉、霧島すらあの廃れた研究所に敵が、それも"ジェネラル"の幹部であり、圧倒的な力を持つ男──葵の兄である風谷悠と遭遇することになるとは想像もしていなかっただろう。

 少なくとも、今の来人から見ても葵は強い。能力者としては第二支部のエースと呼ばれているのにも納得しかなかった。

 その葵をいとも容易くいなし、3対1でも到底敵わないと確信させられた風谷悠の実力は計り知れない。


 そんな強敵を相手に誰一人欠けずに戻ってきたのは良かったが、来人達は誰一人として納得はしていなかった。

 報告の為に支部長室に集められた来人、葵、朱莉の三人は口をつぐむばかりだ。


「何はともあれ、三人共よく帰ってきてくれたわ。……廃施設だと思って軽く見過ぎていた。朱莉ちゃんが持ち帰った無事なデータだけを見ても、あそこはそれなりに重要な研究施設だったと分かる。……私の判断ミスよ、ごめんなさい」


「霧島さんの判断は間違ってないよ! 本当はもっと私がしっかりしなきゃいけないのに、一番葵を含めても先輩なのに、何も出来なかった……」


 朱莉はそう言って肩を落とし、落ち込んだ。

 そんな彼女の一人の責任にはさせまいと来人は自らの無力さをひたすらに責め立てる。


「そんなの関係ない。俺が足手まといでお前ら二人に迷惑をかけたんだ、それに葵がやられるのをただ見ていることしか出来なかった……!」


 改めて、なんてザマだ、と来人は自分に苛立ちを覚える。"EXIS"に入ってからというもの、葵と朱莉が時間を割いてまで稽古、鍛練をつけてくれ、能力者としてのステップを順調に踏んでいるつもりだった。

 しかし、現実は厳しいという言葉では済まない。敵に通用しないどころか、まともに戦力にもならない、ましてや傷つけられる仲間の助けになる事も出来なかった。

 湧き上がる悔しさが両手を拳へと変える。


「それに美海のことを言われて俺は──」


「──全て、私の責任です」


 来人の言葉を塞ぐようにそう告げたのは葵だった。薄朱色の髪を揺らし、右腕にはグルグル巻の包帯、所々にも治療跡の数々の痛々しい姿の少女は来人同様に悔しさを滲ませた、あるいは悲壮な表情を浮かべる。


「冷静な判断をしなきゃならないはずの立場で私情を挟んで、来人達まで危険に晒した。……私の責任なんです」


「そんな事……!」

「そうだよ! 私達はほとんど何も……」


 何も、出来なかった。朱莉が言わんとした言葉を来人もまた唇を噛み締め、飲み込むしかない。

 第二支部の支部長であり、この医務室を取り仕切る医務員でもある霧島雪乃は葵を見やり、少し小さくため息を吐いた。


「全治3週間。右腕は折れてるし、身体中も切り傷だらけ。……それでも相手が相手なだけ、ここまで無事なのは奇跡よ」


 彼女はなんともし難いと言った様子で葵の傷の具合を通告した。

 霧島は続けて戒めるように言った。


「さっきも言ったけれど、全ては私の判断ミスよ。それ以上でもそれ以外でもない。……あなた達の責任ではないわ」


「でも、私はまだ新入りの来人もいながら、自分の目的の為に判断を誤りました。撤退するならまだしも、むざむざ来人や朱莉を危険に晒した。……だから処分を、謹慎でもなんでも従います」


 生真面目すぎる葵に霧島は困り顔だ。確かに彼女が指揮を執っている以上、その彼女が個人の感情で動くのは戦いの中で正しくはないかもしれない。

 それでも、だからといってわざわざ自ら罰されるほどのことだろうか。

 いや、否だ。それに来人からしてみれば、そんな理由で彼女一人が責任を背負うなど、個人的にも受け入れた難い。

 ならば──。


「──だったら俺も処分して貰わないとな」


「来人……!?」


「俺だって妹のことで頭に血が昇って、お前の命令も聞かずに勝手に動いた。それに何もできなかったのは敵前逃亡も同じ、違うか?」


「それは初の実戦だから……!」


「んー、じゃあ私は罰受けないとねー」


 朱莉は右手で頭を掻きながらニヤニヤと笑みを浮かべ、あっけらかんと言う。


「朱莉までふざけてる場合じゃ……!」


 葵がたしなめるように言うと、朱莉は「ふざけてないよ」と神妙な面持ちに変わる。

 彼女は至って真面目だった。いつも天真爛漫で、ムードメーカーでかつ優しい彼女は至って冷静に、親友である少女を諭すように続けた。


「だって本当に今回私何もしてないし。責任で言うなら、同じ来人お守り隊として葵と半々ってところじゃない?」


 来人お守り隊という名称に失笑したが、実際ほとんど守ってもらったようなものだから、来人は反論しようにもできなくなった。

 そして霧島もまたやれやれと微笑を浮かべ、ポツリと言い放つ。


「──なら、あなた達を情報不足のまま、無防備に送り出した私にもやっぱり責任があるわね」


「霧島さん……!」


「葵ちゃん、──私達は軍隊じゃない。"EXIS"はあくまで"ジェネラル"の脅威から人を守る為の組織。人間にミスがあるのは当たり前、それに結果的には全員無事だった。……それで充分よ」


 葵はまだ少し納得のいかない様子だったが、それ以上霧島に食い下がることはなかった。「ありがとうございます」とただ一言小さく呟いて。

 そんな彼女に来人と朱莉、そして霧島が微笑むと、霧島は「さてと」と仕切り直すように言った。


「あなた達に紹介したい人達がいるの。もっとも緊急で現場に向かってもらったから、もう知ってるとは思うけど」


 「どうぞ」と霧島が声をかけて呼ぶと自動扉が開いて、二人の男女は入ってきた。

 一人は桜色の髪を短めに括りあげ、少し年上に見える女性、もう一人は短髪で如何にも勝気そうな青年。

 二人とも来人達にとっては命の恩人とも言っていい存在だった。


「一応紹介するわね、こちらは関西支部から暫くうちに応援としてきてくれた能力者の二人よ」


「改めて、メイス・エルフィンだ。いつまでいられるかは分からないけど、よろしく頼むよ」


「大和大夏や! 大夏でええ! 模擬戦とかなら喜んで付き合うで」


 二人が自己紹介すると葵と朱莉が頭を下げるのを見て、来人もまた合わせて頭を下げた。

 続け様に葵は改めて礼を告げる。


「先日はありがとうございました。メイスさん、それに大夏くんも。……二人がいなかったら、私達はあの場で死んでたかもしれない」


「まっ、あの男の能力者は見たところ幹部クラス。そりゃ”お荷物”抱えながら勝てるほど甘くないやろ」


 あっけらかんとした様子でそう言うと、鼻で笑うように大夏は来人を見やる。

 お荷物──そう揶揄された事に苛立ちを覚えたが、言い返せるだけのレベルですらない事は来人も分かっていた。


「彼は……来人はまだ能力者になったばかりなの。だから──」


「──俺が言いたいのはそういう事ちゃう。ヒーロー気取りで戦ってるつもりなら、遅かれ早かれ大怪我するだけや、言うてんねん」


「ヒーロー気取りだと……ッ!」


「やめな、大夏」


 メイスがたしなめるように言うが、大夏はさらに言葉を続ける。

 まるで来人を小馬鹿にするように。


「お前からは能力者としての強さも、戦うだけの理由も全く見えへん。話に聞いたとこじゃ、上から目かけられて"EXIS"に来たって話やけど、そんなに拘る程のタマとも思えんしな」


「言わせておけば好き放題言いやがって……。──だったら俺と勝負しろ!」


「来人も!落ち着いてってば」


 朱莉が制止するように間に入ったが、それでも火のついた来人は怒りが収まらなかった。

 そして挑発するように大夏は続け様に言葉を返す。


「お前が俺とタイマンやって勝てると思ってるんか?」


「鼻から負けるつもりでタイマンする奴なんかいねえよ。絶対勝つ、勝ってお前に見せつけてやる……!」




「……未角来人には悪いが、正直勝負になるとは思えないね」


 メイスは贔屓目などなしにしても、大夏の勝利は揺るぎないと見ている。それは彼女が大和大夏の実力を間近で見続けているからに他ならなかった。


「大夏は喧嘩っ早いし、バカだし、ガキだけど……能力者としての力は群を抜いてる。恐らく私がサシでやり合ったとしても勝てない」


「私達も彼については聞いたことがあります。大和大夏、彼の能力は確か──」


 関西支部の大和大夏──。

 "EXIS"にいれば自ずと伝わってくる"EXIS"の能力者の中でも話題を呼んだニュースターだ。

 その実力は葵達と変わらずながら、数多くの"ジェネラル"の能力者と戦い、全て圧倒していると噂されていた。

 彼が持つ能力、能力の中でも珍しいとされる自身の身体自体を硬化させる力。

 その名も”アーツ・アビリティ”。


「大夏の力ってのはその"アーツ・アビリティ"だけじゃない。鍛え上げられた身体の強さ、独学で学んだ格闘戦術、何よりも負けず嫌いなのさ」


「なるほどね〜。でも、一つ忘れちゃいけない要素があるよ、メイス姐」


 朱莉に姐と呼ばれたメイスは目を丸くすると、葵は「すみません……」と朱莉の距離の詰め方に平謝り。

 しかし、メイスは「構わないよ」と言って、少し嬉しそうに笑った。

 そして、来人を見つめて朱莉もまた笑う。


「──来人もまたとんでもない負けず嫌いだってこと」




「……まだ立つんか。思ったよりも根性はあるみたいやな」


「……言ったろ、お前には負けねえって。例えどんだけボコられようが、」

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