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REALY  作者: バタやん
第一章
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第1話「始まりの日」

──ずっと、このままだと思ってた。


 ただこのまま何をすることもなく、ただ生きているというだけで何を成し遂げる訳でもない人生を送り続けるんだ、と。

 

 やる気がない訳でもない、スポーツが出来ない訳でもない。やろうと思えばやれる、アルバイトも部活も、ただし勉強だけはできないが。


 ただ、そのどれもやる気が起きなかった。スポーツはチームプレーが面倒だし、そもそも顧問やらチームメイトとのコミュニケーションが面倒くさい。アルバイトも同じだ、上司との付き合いなんてさらさらごめん被る。

 

 こうなったのは遡ること三年前。妹を失った事に全て起因する。それを言い訳にしている事は自分でも分かっている。

 だが、あの出来事はそれだけ全てを奪っていった。


何でもない一日、そのはずだったこの日、俺の平凡かつ惰性の人生が大きく歯車を動かす事になるとは思いもしていなかった──。


◆◆◆


 『こら、来人! いい加減起きなさい! 将真くんも迎えに来てるわよッ!』


 下から母親の怒号が聞こえて、寝癖でツンツンと跳ねた黒髪の青年はようやく目を開き、右手で擦った。

 そして、腹筋力一つでベッドから上体を起こし、大きく両手を空に伸ばした後、目を擦りつつふと枕元に置いてある時計を見る。

 ”AM.8:00”という文字が目に飛び込んできて、彼の表情を青くさせた。


「やっべ……ッ!」


 急いでパジャマ一式を脱ぎ捨て、制服のワイシャツとズボンをハンガーラックから引き剥がして、雑に着こむ。

 必要な最低限のものをカバンに突っ込んで、階段を滑るように駆け降りる。リビングへ行くと明らかに冷めたトーストが一枚あって、それを口で頬張る。

 母親はといえば、そんな姿を見てか呆れたように「はぁ」と一息。


「アンタも毎回毎回成長しないわねー、夏休み明けの初日でしょ、今日」


「ふぅるはぁいな(うるさいな)」


 なんとかトーストを食べ切り、一瞬で歯磨きをひとまず終わらせて、玄関先まで到達する頃の時間は8時5分。


「気をつけなさいよ、来人」


「分かってる、行ってくる」


 母親の言葉に端的な言葉を返して、玄関の扉を開ける。

 そうして彼、未角来人は普段通り慌ただしく家を出た。この日、運命が大きく変わろうとしているのを彼はまだ知る由もなかった。


◆◆◆


 来人が玄関を出れば、家の門の前に茶髪の男が一人。そんな彼は「おっそいなぁ」と一つ苦言を呈した。


「お前も待つぐらいなら先行ってりゃいいだろ」


「よく言うよ、俺が来なかったらお前学校来ない可能性すらあるだろ」


「うーん……。──そうだな」


「そこは否定しろよ……」


 そうツッコミを入れた彼は柳原将真。幼い頃からの友人で、今は来人にとって唯一無二の親友とも呼べる仲。

 そんな彼と高校に通うのはもはや慣れたもので、将真も遅刻魔である来人をもはや咎めるのは諦めていた。


 学校の教室についても二人で話す。すると、将真は「あ」と何かを思い出したような声を溢した。


「そういや聞いたか? 転校生が二人来るんだってさ」


「へー」


「お前な、もうちょっと関心を持て、関心を。なんでもすっげえ可愛いんだってさ、しかも二人とも」


「でも、お前は口説くようなタイプでもないだろ」


「そりゃそうだけど、普通は興味も出てくるだろ?」


「俺は別に」


 ──喋ることもないだろうし。


 実際に学校で喋るのはほぼ将真のみで、たまに担任である角刈りこと柿本か、稀に他のクラスメイトと少し会話するぐらい。

 だからこそ、来人にとって高校とは将真の付き添いで行っているようなもの、そして何か面白い事を探す為の単なる暇潰しだった。

 そうしてチャイムが鳴り、担任の角刈りが入るや否や大きな声を出す。


「席に戻れー、出席取るぞ」


 将真が少し離れた前の席に戻り、来人は窓側の一番後ろの席から外を眺める。

 すると、角刈りこと柿本は一通り出席を取り終え、「えー」と息をついた。


「もう噂で知っているかもしれないが、今年から新たに二人転校生が入ってくる事になった。その二人は知り合いだそうでな、環境に慣れて貰う為にも二人一緒にうちのクラスで預かる」


「マジで?!」

「キターー! これはチャンス!」

「やっぱり女の子?!」

「だとしたら、めちゃくちゃ嬉しい!」


 男女関係なく、クラスの生徒達の言葉が飛び交い、狂喜乱舞とばかりに騒ぐ。

 柿本は「静かにしろ!」とパンパンと手を叩き、まったく……と呆れたように大きなため息をつく。そうして扉の方を見やると扉の奥へ聞こえるようにまた大きな声を張り上げた。


「入って来なさい、二人とも」


「失礼します」

「失礼しまーす!」


 将真の情報通り、二人とも女子。片方はショートボブの金髪で見るからに活発そうな少女、もう一人はどこか恥ずかしそうにしている赤髪ロングの少女だった。


 まず、柿本に促されて金髪の少女が勢いよく自分の名前を黒板に書く。『飛奈朱莉』、と。


飛奈朱莉(とびな あかり)です! この秋吉高校に来るのを本当に楽しみにしてました! 分からないことも多いので、よろしくお願いします!」


 そうして続けて、赤髪の少女が黒板に名前を書き始める。その字は多少荒々しい飛奈という少女とは異なり、習字でも習っているのだろうかとも思えるほど綺麗な字だった。


風谷葵(かざや あおい)と言います。よろしくお願いします」


 『風谷葵』、そう書いた少女は黒板の前に立って、言葉少なく自己紹介をして、一つお辞儀をする。


「飛奈と風谷は帰国子女でな、まだ日本の生活にも慣れていないそうだ。皆、仲良くしてやってくれ。えー、そうだな……とりあえず飛奈は休んでいるそこの三嶋の席へ」


「はーい!」


 金髪の少女が座ったのは将真の右隣の席、彼女は明るく周辺のクラスメイト達に「よろしくね!」と挨拶をする。

 そしてそれはもちろん将真にも。


「よろしく!」


「あ、ああ! よろしくね、飛奈さん!」


──へっ、将真のやつ、緊張してやがる。


 朝にあれだけ楽しみにしていたのにいざ挨拶されるとこうだから、やはり将真に女を口説くことなど無理だと来人は少し笑いを堪えた。

 そんな時、ふと視線を感じて黒板方面に視線を移す。すると、もう一人の風谷葵という少女はじっと赤い瞳でこちらを見つめていた。というよりも正確には睨みつけるように見ていた。


──感じの悪い女……。


「えーっと、風谷はそうだな……。後ろの窓側の横、未角の隣が空いてるからそこに。未角と柳原は二人に色々教えてやってくれ。あ、未角、お前は余計なことまで教えなくていいぞ」


「は?!」


 よりにもよって、と来人が項垂れると風谷という少女は淡々と席へと座り、「よろしく」と一言。

 どうせなら愛想の良さげな将真と会話している金髪少女の方が良かったな、と思いつつ、来人は「よろしく」とだけ返した。


◆◆◆


 昼休み、屋上でコーヒーを啜りながら来人は「はぁぁ」と大きくため息を溢す。将真はといえば、見るからにご機嫌なようで。


「飛奈さん、すっごい良い子だよ。めちゃくちゃ話しやすい。そっちは?」


「なんかめちゃくちゃ無愛想っていうか、とっつきにくい。……ありゃ容姿こそ良くても中身ダメだな」


「お前がちゃんと向き合ってないだけじゃないのか? 風谷さん、めちゃくちゃ勉強できるっぽいし」


「そもそもなんで転校生のお守りなんか……。俺以外に頼みゃいいだろ」


 すると、滅多に来ないはずの屋上、その入り口の古い扉が開く。将真と共に視線をやると扉から出てきたのは噂をすればなんとやら、転校生の二人組だった。


「げ……」


「あ! 柳原くんにそっちは確か葵の……!」


「飛奈さん! それに風谷さんも!」


「……どうも」


「そういや俺やることあっ────」


 一先ず、この場からどうにか逃げよう。そう結論を出した来人の逃げ道を塞ぐように将真が立ち上がろうとした来人の背中を引っ張り、「奇遇だね!」と声をかける。


「ほんとに! 良かったらお昼ご飯ご一緒してもいいですか?」


「ちょ、ちょっと朱莉……!」


「こっちは全然! 色々聞きたいこともあるし、な! 来人!」


「…………はぁ」


 もはやどうにでもなれ、と来人は逃げることすら諦めて、その場に座り込む。将真はといえば、屋上に置かれていた椅子を二つ用意して、転校生に「どうぞ」と声をかける。


「ありがと、優しいね、柳原くんは」


「いやいや! 転校してきたばかりの女の子二人に地べた座らせる訳にもね」


 どれだけアピールしたいんだか、と来人は鼻で笑うと将真と飛奈という少女は会話を弾ませ始める。一方で風谷はといえば、一歩引いたようにおにぎりを淡々と食べていた。

 そんな微妙な空気感に耐えきれず、来人は一先ず適当な質問をしてみることに。


「えっーと……風谷さんって海外から来たんだよな? どこから?」


「……世界中を転々としてた」


「へ、へー……なるほど」


──いや、俺のコミュニケーション力のせいでもあるけど、この女のコミュニケーション力も大概だろ……。


 一切弾むことのない会話にしどろもどろしつつ、来人は一つ咳払い。しかし、意外にも次に言葉を発したのは風谷の方からだった。


「ね、未角……くんはこれまで不思議な経験した事とかある?」


「不思議な経験? 例えば?」


「例えば、変な声が聞こえた、とか変な人と遭遇した、とか」


 妙な質問でしかなかった。少なくとも出会って1日目に聞かれるようなことでもないが、一先ず来人は素直に答えてみることにする。


「…………? いや、ねぇけど」


「そ、そう。なら、良かった」


「なんでそんなことを聞く?」


「わ、私ちょっと幽霊とか見える体質なの。だから同じだったりしたら嬉しいなって」


 どういう意図でのこういった質問をしたのか、と思ったものの、思わぬオカルト的答えに来人は妙に納得してしまった。


「幽霊ってどんな感じで見えんだ? やっぱり光がぼんやり見えるのか?」


「う、うん。まあそんな感じね」


「へえ」


 ──嘘くせ……。


 正直、信じる気にはなれなかった。オカルトじみたものに興味はないし、来人自身好きでもない。加えて目の前の風谷という少女の様子を見れば、どこか誤魔化すようにオドオドとしていたからだ。


 ──変なやつ、というのが風谷葵に対する来人の初見の評価だった。


◆◆◆


 ──放課後。すっかり日も暮れ始めた頃、来人は一人家路を急いでいた。

 本来ならもう少し早く帰れるところを担任の角刈り、もとい柿本に呼び止められたのが将真にすら置いて帰られるほどスケジュールが狂った原因である。

 その話し合いというのは『去年こそ進級させてやったが、今年も同じようなら今度こそ留年だ!』という叱咤とは名ばかりの釘刺しだった。


──角刈りめ。


 散々「えー」だの、「無理」だのと文句を言いつつ、媚びも売ってみたが、柿本はその手には乗らんとばかりにはねっ返して、『とにかく勉強しろ!』とだけ言って職員室を追い出された。

 こればっかりは反論の余地もなく、全て自分の責任であるから来人も渋々引き下がって今に至る。


「だいたい教え方が悪いんだよな。俺みたいなバカでも分かるように教えろってんだ……」


 周りに誰もいないことから一人でに愚痴を吐いて、分かれ道を左手に曲がる。

 いつもならここを右に曲がり、人通りの商店街を歩いて帰るのだ。しかし今日は一緒に帰っている将真もいない上に、何分人が多いから避けて歩いても時間がかかる、だから今日は人通りの少ない工場街を歩いて帰ることにした。


 人っこ一人いない路地を歩き続ける。この時間となれば工場は既に閉まり、より一層人通りは少なくなる。暗闇になりつつある空に呼応するように白色のLED街頭がパッと光った。

 ──そうして、その声は聞こえてきた。


「──未角来人、だな?」


 若い男の声、来人は背後から聞こえてきたその声に「はぁ」と大きくため息。

 どうせ以前どこかで闘り合った連中の仕返しか何かだろう。そう思ってのことだった。しかし、振り返るとそこには見慣れない黒色で所々が紫に発光するライダースーツのようなものを着た男の姿。

 オレンジ色のサングラスに髪をオールバックで整えた男はニヤリというような笑みを浮かべていた。


「誰だ、おっさん」


「案外普通のガキじゃねぇか。こんなのを捕まえるってか?」


 いかにもチンピラかチーマーといったような風貌の男は意気揚々とそう言い放つと鼻で笑った。

 一方の来人はといえば、その容貌と発言内容から思わず顔を引きつらせる。目の前の男は自分を「捕まえる」と言った。つまりは新手の誘拐、しかも”そっち系”の可能性が大有りということだ。

 完全に頭のおかしい人間か、あるいは本物の変質者か。いずれにしても警察に突き出してやるのが正解だろうとポケットから携帯端末を取り出し、110を押した。


 ──瞬間だった。

 つんざくような破裂音と共に右手から端末が弾け飛び、使い物にならない状態となって、背後の地面に叩きつけられたのは。


「…………っ?!」


「おっとぉ、手間かけさせるなよ。サツなんて呼んでも結果は変わらねぇ。手間と死体が増えるだけだ」


 そう言ってまた笑った男の右手に握られていたのは茶色の小銃。その銃口からは煙が微かに放出されていて、なおも来人を狙いすましている。

 その状況に来人は思わず言葉を失い、それまではなかった緊張感を一気に覚えた。喉からは急激に水分が減り、背中からは嫌な汗が流れ落ちていく。


──どうする、逃げるか、それとも……!


 来人には自信があった。かねてから武術と剣術を学んできたからこそ、そんじょそこらの不良やチンピラ風情に負けるはずがないと。

 現に目の前の男にも当初は自身で制圧し、最悪倒してやればいいと考えていたのだ。


 が、男の持っているのは銃だ。それも偽物ではない紛れもない本物。しかも、銃の形は歪でまるでゲームの武器のような形状をしている。


 そして、来人が取った行動は──とにかく逃げることだった。


──走るしかねえ……!


 そうして地面を蹴り、走り出す。

 どこへ逃げればいいのか分からない。少なくとも家という選択肢はなかった。

 母親を巻き込む訳にはいかないし、何よりここまでヤバイ相手な以上、何をしでかすかも分からない。

 それでも来人は走りに走って、逃げ出した。


 ただひたすら遠く、辿り着いたのは高台にある公園。一先ずどうにかして助けを呼ぼうと公衆電話に駆け寄ろうとする。


 しかし、次の瞬間、その公衆電話は割り込んできた紫色の光によって爆散し、来人は爆発の衝撃で背後へと吹き飛ばされた。


「──なっ……!」


「逃さねえぜ? 大人しく俺についてきな、そうすりゃ命までは取らねえ」


 撒いたはずの男は何処からともなく現れ、誘うように忠告、もとい脅しをかけてくる。

 見たこともない力、やはり銃はただの小銃ではない。魔法にも思える光の弾は一瞬にして公衆電話をスクラップへと変えたのだ。

 いずれにしてももう逃げ場はない。かといって、大人しくこの男についていけば……碌でもないことは目に見えている。


「──ふざけんなァッ!」


 抗う。どれだけ不気味で、男の微かな殺意を感じながらでも、来人は飛び交かろうとした。

 しかし、男にその拳はひらりと躱され、背中を右肘で突かれ、そのまま次は左膝で腹を蹴り上げられた。


「がは……ッ……!」


 あまりの激痛にその場に悶え、腹を押さえ込む。意識が吹き飛びそうにもなった膝蹴りの痛みに耐えながら、来人の背中を男は踏みつけた。


「おいおい、抵抗するならもっと痛い目見てもらうぞぉ? 俺はこう見えて気が短いんでな。じゃあついてきてもらおうか?」


「誰がお前になんか……ッ、くたばりやがれ……ッ!」


「やれやれ、仕方ない。腕の一、二本ぐらい構いやしねえか」


 男が右手の小銃をリロードし、引き金に手をかける。その銃口の先には跪く来人の体。

 間違いなく殺されることはなくとも、既に勝ち目はない。この訳の分からない男に痛めつけられ、どこかへと連れて行かれるのだと来人は悟った。


──美海……ッ!


 もういない妹のことを思い出す。彼女もこんな風にどこかへ連れ去られたのだろうか。……あるいは死を覚悟したのだろうか。

 いずれにしても何もできないまま殺される。来人自身、そう覚悟した時だった。


 ──耳をつんざく破裂音。

 それは男の銃が放たれた時とはまた違う轟音だった。まるで台風の風に巻き込まれたようなそんな風な──。


 すると、不自然にも先ほどまで背中にかかっていた男の体重の重さを感じなくなっていた。それどころか男の姿すらも。


 そうして改めて視線を真正面へと移せば、そこには倒れ込む男、そして、目の前に立ちはだかるように佇む一人の少女の姿。

 男はサングラスを少し上げると苛立ちを爆発させるように大きな声で喚いた。


「誰だてめえはッ!」


「"ジェネラル"の中でも三下に名乗るような名前はないわね」


 そう答えた少女の声にも来人は聞き覚えがあった。そうして黒い生地に所々白いラインの刻まれた服を着飾る背中、そして特徴的な赤髪のロングヘアーが流れる背中をみやる。

 そうして、来人はその後ろ姿に目を疑った。


「風谷……葵……?!」


 あの変わった転校生、弱々しくすら見えた転校生の少女は来人を見やると微笑を溢し、学校で出会った時からは想像もつかない余裕綽々の表情で男の前に立ちはだかっていた──。

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