命の危機と一つ目の竜器
シーラは白銀の髪をなびかせながら歩いてくる。アレルは石化したようにその場から動けなかった。シーラはアキラの前まで来ると、アキラを優しく抱きしめた。
「アレル、戻ってきてくれてよかった」
アレルは思っていたのとは違った反応に一瞬戸惑う。
「心配したのよ?私が帰ってきた時にはもう、向こうに行ってしまっていて」
シーラが小刻みに震えているのに気づいたアレルは、向こうに言った自分を心配してくれたことを嬉しく思い、抱きしめようとシーラの背に手を伸ばす。しかし、その手がシーランの背に回ることは無かった。
「すごく心配したのに、アレルは楽しそうだったわね?」
雪のように冷たい言葉と共に、アレルを抱きしめる腕に力が入る。
「楽しそうって、いや、そんなことないだろ、暴力振るわれたりとかしてたぞっていうか、シーラ?苦しんだけど」
シーラが顔を上げアレルを見る。
「ヒッ」
どんなに殴られようと、弱音を吐かなかったアレルから情けない声が漏れる。それほどにシーラの目は恐ろしかった。感情に感じない、そこのない闇を感じる。
「そうですね、あの調子づいた羽虫は絶対に殺さないと、いや、それだけじゃ生ぬるい。私の愛する人をあんな風に痛めつけていたのですから、四肢をもいで、何度も何度も回復させて、あいつらが自ら死を乞うまで痛めつけてから殺してやりましょう。そうしましょう」
「いや、あいつらここにいないし」
「そんな事より」
さらに腕の力が強まる。ギリギリと締め付けてきて、徐々にアレルの骨がミシミシと音を立てはじめる。
「あの女とすごく仲良くしていましたね、アレルが弱ってるのにつけ込んで誘いやがって」
「あの女って、皐月さんの事か?オブッ」
「皐月!もう名前で呼ぶ間柄に!」
さらに、締め付ける力が強くなり、ついにバキバキとなってはいけない音が体内でこだまする。
「許しません!絶対に許しませんよ!あのアバズレ!」
叫ぶと同時に、アレルからボキィという鈍い音が響くと、アレルは泡を吹きながら意識を失った
アレルが目を覚ますと、そこは木造の部屋だった。壁には多くの槌が飾っており、部屋の隅にある樽には、数本の剣が無造作に入っている。外はすっかり暗くなっていて、部屋の灯りが薄く灯る。
「俺の部屋か。シーラが運んでくれたのかな」
背中をさすりながら、ベッドから起きる。ふと窓際にある机の上に目を向けると、そこには鉄製の小槌が置かれていた。その小槌の側面には、植物のツタたのような紋様が刻まれている。アレルがそれに手を触れようとすると、小槌が眩く光る。アレルが思わず閉じた目をゆっくり開けると、火のように赤く絹のように滑らかな長髪をなびかせる。赤を基調にした民族衣装が似合う長身の美女が現れた。
「おかえりなさいませ、創造主様。竜器・【万能槌】フォルンお待ちしておりました」
自分をフォルンと名乗る美女はひざまずき、いつの間にか手にしていた机の上の小槌をアレルに差し出す。アレルがそれを手にしながら、フォルンの肩に手をやる。
「ただいま。フォルンまさかずっとここにいたのか?」
「ハイ!永遠にも感じるこの三年、ずっとここでお待ちしておりました!」
フォルンが感極まって、アレルに抱き着く。そこに、部屋の扉を開ける音が聞こえた。
「アレル?目は覚めましたか……」
扉の音にフォルンが抱き着いたまま振り返ったアレルは、部屋に入ってきたシーラと目が合った。
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