被害
アレルがフォルンを使い、最初に打った竜器であるオルナ。その剣は切ることに特化していた。その切れ味は鉄や鋼すら紙のごとく切れ、流れくる水流すら両断するという。リオンが、爪を切り落とした腕を登っていく。途中で尾が迫るもこれを両断。苦痛に声を上げるネズミをよそに、リオンはネズミの肩を蹴り頭上へ跳ぶ。ネズミは視界に入ったリオンを憎々し気に見る。それが、神にまでなりかけたネズミの最後に見る景色になった。
自由落下に勢いをのせて、縦一文字に両断した。左右に裂けて倒れる。宮殿が消え、下水道に戻る。同時にネズミの体も灰のように消えていった。
「とりあえず、終わりか」
オルナを鞘にしまいながら、アレル達と合流する。
「そうだな……」
アレルがネズミの亜神だった灰に触れる。
「どうした?」
「いや、ちょっと気になってな」
そういって、小瓶を取り出すと灰を中に詰める。
「持って帰んのか?それ?」
少し嫌そうな顔をするリオンに、アレルが小瓶をしまいながら答える。
「亜神の素材なんてレアだしな」
ウキウキしながら地上へと向かっていくアレルに一同はついていく。
地上に上がると、街中に戦闘の痕跡があった。傷ついた兵が横たわっており、リオンとハンナが駆け寄る。リオンが体を支え、ハンナが治癒魔法をかける。
「何があった!?」
「リオンさん……ハンナさんも……急に大きなネズミが、町中のいたるところから湧いてきて、市民をなんとか避難させ、騎士団と冒険者で抵抗していたんですが……急に灰になって消えてしまって……何が何だか……」
「事情は分かった。今は休め」
リオンは兵士を近くの家屋に運びこむ。
「街中にも出てきてたとはな」
そういいながらアレルが周りを見渡す。おそらくネズミだったのであろう灰が舞っていて少し煙い。わずかに前から走ってくる人影が見えた。
「リオン隊長!」
人影がリオンに向かって敬礼する。
「君は?」
「王命を受けて、伝令に参りました!王城に謎のネズミの集団が出現し、救援をお願いします!詳細はこちらに!」
そういって差しだされた紙をリオンが受け取る。それを広げ、内容を見る。
「陛下!」
リオンは書状を投げだし、王城へと走り出した。アレル達も後を追って続いて走り出す。
「どうしたんですか?」
ただ事じゃない様子にハンナがリオンに聞く
「王城でも街中のようにネズミが出たらしい。逃げ遅れた使用人たちを救うために、陛下が城内へ入ったらしい。書状が遺言みたいになってやがった」
ハンナは事情を察し、リオンの横を走る。二人の体が急に軽くなる。何事かと思うと、アレルがリオンをおぶり、シーラがハンナをお姫様抱っこしている。
「急ぐんだろ?」
「私たちのほうが早いですから」
「いや俺にも羞恥心というものが……」
「そんなこと言ってる場合じゃないだろ」
アレルが速度を上げると、リオンは振り落とされないように必死にしがみ付く。ハンナも若干恥ずかしがっているが、シーラが笑顔で黙らせる。
煙を巻き上げながら走っていると城門が見えてきた。開けた場所には、テントが設営されていた。負傷者が並べられ、中には顔に布がかぶせられている者もいた。ハンナがすぐに負傷者の治療に加わる。リオンも近くの兵士を捕まえた。
「リオン殿!無事でしたか!」
「陛下は!」
「陛下はまだ中に……ネズミ共は急に消えたので、現在は帰還した第一騎士団が陛下の救出に向かってます」
すると、外が騒がしい。騎士団が王を抱えて出てきた。ベッドへと寝かせる。
「陛下!」
リオンが近寄ると、王はわずかに目を開け、その瞳がリオンを捕らえた。
「リオン……戻ったか……よくやった……」
そういって目を王はゆっくりと目を閉じた。
「陛下!!」
リオンは王の手を握るもその手に力がない。周りの人もその様子を見て涙を流していた。
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