もう一つの事件
アレル達はリリスの持ってきた地図を見て、犯人がどこにいるのか考えていた。
「そもそも、なんでこんなに長い間気づかなかったんだ?国宝の宝物庫だろ?それこそ警備だっているだろう」
アレルがリオンに尋ねるが、リオンは肩をすくめる。
「宝物庫に侵入者がいたなんて話、聞いたことがないからな。警備はもちろんいるし、交代制で二十四時間監視体制、入り口も侵入経路も一つだけだ。それなのに誰も気づかず盗りに入るなんて相当な手練れだぜ」
「それに宝物庫は国王の渡す許可証が無ければ入れません。今回は国王様が一緒でしたからフリーで入れましたが、本来は厳粛な手続きを経なければいけません。仮に入るとしても警備兵が入り、出た後も中のものがなくなってないか兵が確認します」
ハンナがリオンの補足をする。
「私はいつでも入れます!」
そういって手を挙げているのは、下水道の地図を持ってきたリリスだった。
「リリス様……」
彼女の騎士はため息をつく。
「王族は出入り自由なんです!なので私、父上、兄上、姉上は入れます!」
「王族が入った場合は兵も入るのか?」
「いえ!護衛騎士のみですね!そのあとも特にチェックされたりしません」
「ご冗談でもおやめください。リリス様」
リオンが王女をたしなめる。
「王族が犯人ってことか?」
「アレルもやめろって」
「でも、実際に下水道行ってみないことにはどうにもなりませんね」
シーラの提案はもっともだったが、アレルはいまだ難しい顔をしている。
「アレルどうしたんですか?」
「いや、気になってることが一つある。フォルン」
「なんでしょう?創造主様」
「これが竜器ですか!」
リリスが人型として現れたフォルンの周りを、くるくる回りながら観察している。フォルンはそんなリリスを一切無視し、アレルからの言葉を待っている。
「ルオナがいなくなったのはどれぐらい前だ?」
「おそらく二週間ほどは前だと思います」
「それがどうしたんです?」
「半年引き離され、今度は盗まれ二週間。この国がなぜまだ無事なのかが不思議だ」
アレルは心底不思議だといった顔をする。そしてリオンを見た。
「な、なんだよ」
リオンは、アレルの視線に何かの意図を感じた。
「竜器には意思がある。お前は気づかなかったのか?」
アレルの言葉で、リオンは今までの戦いを思い出す。そこに、いくつか引っかかることがあった。
「死にかけた時、大事なものを守りたいって思った時、負けられねぇって思った時に、決まって女性の声が聞こえてきて、力が湧いてきたことが何度かある」
大事なものと言いながら、一瞬ハンナに目を向けた。
「そうか。竜器には意思がある。が、基本的に持ち主以外とは会話しない。お喋り好きな子もいた
が、基本はそうだ。持ち主であるリオンが気づかないのに、ほかの人間がルオナの意思に気づいてるとは思えない。ルオナはこの状況で我慢できるとは思えない。そもそも取り上げられた時点で暴走していてもおかしくないんだ。どうやってルオナを抑えたのかそれが不思議でな」
「まさか、相手は竜器に精通している人間ということですか?」
シーラの疑問にアレルは首を振る。
「竜器に意思がある。それを知っているのは、竜だけだ。それに攫われてすら、大人しくしている理由がわからない」
アレルが考え込んでいると、ハンナが口を開いた。
「もしかすると……大人しくしていないかもしれません」
「ハンナ?」
「リオンあの事件、関連があるのでは?」
「もしかしてあれか?」
「どんな事件だ?」
アレルが聞くと、言いづらそうに口を開く。
「リオンストーカーメイド急襲事件です」
事件名に入っていた人物に全員の視線が集まる。リオンは恥ずかしそうに顔を覆った。
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