残滓の先
宮廷内を無作法にも走り回りながら、残滓を追っていく。リオンがすれ違う人に謝罪しながらたどり着いた先は厨房だった。中ではコックたちが食事の準備をしていた。
「リオン殿どうしました?」
急に自分たちの職場に現れた集団に、いぶかし気な表情を向けるひときわ長いコック帽をかぶる男性が声をかける。
「リース料理長!すみません急に、王命で現在あるものを探してまして」
「あぁ、また陛下は何か無くされたのですか?」
「また?」
「はい。先月もルキナス殿下が陛下から頼まれたとかで探し物をしておられました」
「殿下が?」
「はい、あぁ!ちょっとそっちに入られては困ります!」
「アレル!ちょっと待てって」
アレルが扉を開けるとそこには多くの生ごみが無造作に積み上げられていた。特有のにおいにアレルもシーラも顔をしかめる。
「フォルン、残滓は?」
「ここで止まっています」
「ここで?」
「この中にあるの?」
シーラは鼻をつまみながら生ごみの山を見つめる。
「アレルどうした?」
「困りますよ。ゴミ部屋を開けられては」
追いついたリオンにここで残滓が途切れたことを説明する。これまでの経緯を聞いていた料理長が、首をひねる。
「それはおかしいですよ。どんなものを探しているのか知りませんが、この部屋は週二回、ギルドに
頼んでごみの回収と清掃をお願いしているんです。そんな何影とも前に無くなったものが残ってるはずがありません。」
「ゴミに紛れて回収されてしまったとか?」
「それなら残滓が消えるはずがない。とりあえずどかすか」
「どかすったってどうすんだよ」
部屋の中に進むアレルの背に問いかける。
「ここにあるのは全部生ごみなんだろ?」
「そうですが……」
「なら燃やしても大丈夫だな」
アレルのお言葉にフォルンが青ざめる
「創造主様……まさか」
いい笑顔でフォルンに手を差し伸べる。
「フォルン……行こうか」
「いやです!そんな……生ごみを燃やすために使われるなんて!創造主様!どうか……どうかご慈悲を……」
フォルンがアレルに縋り付いて懇願する。
「アレルの魂を持って命ず【フォルン】」
「あぁ!【強制命令】とはご無体な!」
フォルンが槌の形態に戻り、アレルの手に収まる。
「【フォルン】もっと熱く」
『これも妹のためこれも妹のためこれも妹のためこれも妹のためこれも妹のためこれも妹のためこれも妹のためこれも妹のためこれも妹のためこれも妹のためこれも妹のためこれも妹のため』
フォルンが赤く染まり、槌から炎が噴き出す。アレルはそのまま生ごみの山に槌を振り下ろした。炎が広がり生ごみが灰と化す。現れたのは石畳の床だった。それを見て、リオンとシーラが固まる。
「どうした?」
固まった二人に問いかける。
「おいおいおいシャレにならんぞ」
リオンが床に触れる。
「【解除】」
リオンが呟くと、地面がガラスのように砕けたかと思うと、石畳に模様が刻み込まれている。
「転移魔法陣ですね」
シーラの言葉に、全員が床の魔法陣を見つめる。
天井からしずくが垂れ、机上に落ちる。黒いローブに身を包む数人が祭壇を囲む。祭壇には、神々しい剣が一対並べられていた。
「やっと完成した」
机上には、一冊の本と空の瓶が転がっている。
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