帰郷
ドラゴンから降り立ち、浮島の地面を踏みしめる。アレルは大きく伸びをして、目の前の森に目を向ける。すると、ドラゴンの方から、ボンという音とともに白い煙が立つ。白煙が晴れると独特な衣装に身を包んだ、赤毛短髪の青年が立っていた。
「おぉ、【人化】うまいなフレイ」
「だろ?」
フレイがドヤ顔をしながら、森へと足を進める。アレルは、フレイについていきながら、この三年について説明を受けた。
「里についても、驚くなよ?」
涼しい空気を肌で感じながら、緑の匂いが濃い森の中を進んでいく。
「何があったんだ?」
「それはついてのお楽しみだな。さぁ、見えてきたぞ、族長たちが待ってる」
前を見ると、森の木々が途切れ、光が広がっていく。そこには、大理石で作られたかのような白い建築物が立ち並ぶ。奥にはひときわ大きな屋敷が建っていた。街並みを進んでいくと、道の両脇に、駅伝の応援のように人が立ち並んでいた。所々からアレルたちに声が掛かる。
「おかえりアレル!」
「アレル兄ちゃん!おかえりー!」
「待ってたぞアレル!」
アレルは里のみんなの歓迎に手を挙げて一つ一つに答えていく。そこでアレルは一つの違和感を覚える。よく見ると、建物の一部が欠けていたり、街道に亀裂が走っていたりするのだ。
「里に何があったんだ?」
「アハハハ、きっと説明してくれるよ竜王様が」
アレルたちが屋敷の前まで来ると、立派な門が勝手に開く。そのままフレイについていくと、屋敷の大広間へと続く扉に立つ。アレルが扉をゆっくりと開けると、そこには、多くの人化した竜が胡坐をかき、両手で握りこぶしをついて伏している。竜たちがお辞儀する先には、大仏ほどの大きさがあるイスに腰仕掛ける白い竜がいた。薄暗い室内にも関わらず、発光しているのではと思うほど美しい。その前には、ただならない気配を纏った六人の大人がアレルに対面するように座っている。アレルとフレイは大人達の前に、他の竜と同様に胡坐をかき、拳を床につけて頭を下げる。
「龍王様、各族長の皆様、鍛冶師アレルただいま戻りました」
老人たちはアレルの姿を見て、にこやかに笑う。そして、唯一人化していない竜が口を開いた。
「面を挙げなさい。良く戻りました。アレル」
声は風鈴の如く澄んでいて、そこには、孫に会う祖母のような温かさが含まれていた。
「竜王様、予定よりも早い呼び出し、如何されましたでしょうか」
「その件については、神々から説明があるでしょう。これから、急ぎ、【円卓】
へ向かいなさい」
「はい!」
竜王からの言葉に、気合を入れて返事する。
「くれぐれも早く戻るように」
「はい!しかし、そんなにも緊急事態なのですか?」
「いえ、こちらの事情です。シーラが戻る前に帰ってきてください」
竜王から出たシーラという名前に心当たりのあったアレルは何かを察したかのような顔で竜王を見る。その目を、どこか遠くを見ている様子だ。他の老人たちも同様、というより、ここにいるアレル以外の全員がどこか死んだ目で遠くをみていた。
「承知致しました。すぐに戻ります」
アレルの返事に、答えるように竜王から白煙が出る。人化した竜王は、キラキラした白髪を持つ老婆になった。背筋がピンと真っすぐに伸び、凛とした姿には、衰え知らずな威厳があった。竜王はやわらかな笑みでアレルを迎えると振り返り、右手を向ける。
「開門!」
竜王の声が響き渡ると、神々しい装飾が施された大きな扉が現れる。扉はひとりでに開くと、その奥には半透明の階段があった。竜王は静かにアレルの背中を押す。
「お行きなさい。戻ってきたらあなたの帰還のお祝いです」
「ありがとうございます!」
そう言って、アレルは階段を上がっていく。階段を上り切るとそこには、神威を放つ老若男女が円卓に座っていた。ここは、創生神をはじめとするこの世界の神々が決めごとを行う【神々の円卓】である。
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