海港都市シエンタ
アレルとシーラはとある都市に入るため、長蛇の列を作る関所に並んでいた。
「長いですね……絶やしますか」
「シーラやめろよ、もう少しだから」
もう、一時間程待っているため、シーラはしびれを切らし物騒な事を言っている。そんなシーラを諫めていると、アレルたちの番が来た。二人の兵士が対応する。
「シエンタには何しに?」
「クレント王国行きの船に乗るために」
「あーじゃあ少しタイミングが悪かったかもしれませんね」
「何かあったんですか?」
「どうも、航路に大型の魔物が出たらしくてね、漁師の船が襲われたんだよ。」
「それは大変ですね。漁師の方々は無事だったんですか?」
「何人か行方不明だけど、大半が帰ってきたよ。これから調査して討伐になるだろうから、次は早くても三週間後だろうね」
「それは、まずいですね」
「急ぎかい?」
「ハイ、少し、でも仕方ないですね。三週間待つことにします」
「そうか、三週間宿泊するなら、大通り沿いにある【オオトリ亭】がおすすめだよ。安い師、食堂の飯もうまいから」
「親切にありがとうございます」
礼儀正しく応対してくれる兵士に、アレルたちはあらかじめ用意してあったダミーの身分証明書を見せながら兵士と会話する。
「若いのにしっかりしてるね君、彼女さんもいるんだから安全には気を付けるんだよ?ではようこそ、海港都市シエンタへ」
兵士は門を開け、二人を都市の中へ招く。二人が門をくぐると、目の前には、噴水が中央にある広場がり、奥には道幅の広いメインストリートが伸びてる。道のわきには様々な店が立ち並び、多数の人が行き来している。アレルたちはその人の波に入り、道を進んでいく。さっき兵士にアレルの彼女と言われたことが嬉しかったのか、待たされて不機嫌さだったシーラの足は弾んでいる。
「活気あるなぁ」
「そうですね、あ、アレルあれじゃないですか?兵士さんが言ってたお店」
シーラが指さす先には、鳥をかたどった看板にオオトリ亭と書かれていた。
「そうだな、さっそく入るか」
「はい!」
シーラと一緒に宿に入る。結構な人気宿なのか、ロビーにはそれなりに人がいた。
「おや?子供だけで旅行かい?」
受付をしている恰幅の良い女性がアレルとシーラを見て話す。
「ハイ、一人前と認めてもらうために旅をしていまして」
この世界では、職人の弟子が師の元を離れ一人前になるまで旅に出ることは珍しい事ではなく、女性も納得したようで、二人の身分証を確認している。
「まだ若いのに旅立ちを許されるなんて、大したもんだねぇ。何か困ったことがあったら私に言いな。私はこの宿の女将やってるテルカってんだ。二部屋で三週間となると……」
女将が料金計算しようとすると、シーラが割り込む。
「一部屋で」
「シーラ!お前何言ってんだ!」
「え?一部屋で良いのかい?」
いきなり変な事を言い出したシーラに、アレルは目を向ける。
「だって、二部屋だとお金も倍かかりますよ」
「だからって、一応男女なんだから」
「アレルが私に何かするとも思えませんし、何かするというのであればウェルカムです!」
「二部屋で」
シーラが受付で、とんでもない事を言ったので、何人かの客がアレルに嫉妬の視線を向ける。女将もニヤニヤしながらアレルを見る。
「二部屋で良いんだね?別にいいんだよ?大きな声出したり、ベッド汚さなきゃね」
女将の言葉にシーラは目を輝かせアレルを見るが、アレルは感情を失った目で静かに告げる。
「二部屋で」
シーラはがっくりと肩を落とした。
荷物を部屋に置きシーラはアレルの部屋来た。
「アレル?これからどうするんですか?」
シーラは、アレルの対面のイスに腰かける。
「神力脈に空いた穴は、こいつが教えてくれるらしいんだが、いまいち使い方が分からないんだよな」
アレルは創生神アイグスに下賜された、白磁の腕輪に目を向ける。
「これが?」
シーラも興味深そうに見入る。
「とりあえず、俺の竜器たちに会いに行く」
「アレルの竜器って確か……」
「あぁ、魔族側に十個、人間側に十個渡してるから合計二十個だな」
「しかし、なぜ会いに行くんですか?」
「神力脈に穴をあけるような奴だからな、竜器の使い手たちに警告しに行くのと調整だな」
「調整?」
「竜器の力は使用者に負担がかかるから、少し制限をしてるんだ。本当は一年ごとに調整するつもり
だったんだけど、向こうに隠れることになっちゃったからな.
あいつら、元気でやってると良いけど」
そう言って、アレルは窓の外に目を向ける。かつて竜器を託した者たちを思い出し、口の端が上がる。
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