旅立ち
墓参りを終え、シーラの家へ行く。向かった先は、竜王のいた屋敷だ。立派な門をくぐり中に入る。玄関を抜け、リビングに入ると竜王とシーラによく似た女性が座っていた。女性はアレルに気づくと立ち上がり駆け寄ってきた。
「アレルちゃん!元気そうね!」
そう言いながら女性はアレルを抱きしめる。胸に実った、たわわな果実に包まれたアレルを見て、シーラが引きはがしにかかる。
「母様!辞めてください!アレルが嫌がってます!」
「えー?そんなことないわよね?」
さらに抱きしめるシーラの母親と引きはがそうとするシーラの攻防が激しくなる。見かねた竜王オルムが二人の間に割って入った。
「そこまでにしなさい二人とも。アンナそろそろ離してあげないと、アレルが窒息しますよ?」
アンナは自分の胸に埋もれているアレルが青くなっているのに気づいてすぐにはなす。
「お久しぶりですアンナさん」
アレルは挨拶して、リビングに座る。向こうの世界でのことや、これからのお役目の話しなどで談笑していると、アレルの視線がふと壁にかけている掛け軸に目が行った。そこには、躍動感に満ちた金色に輝く竜が描かれている。それに気づいた竜王が複雑な表情を向ける。
「アレル、お前は優しい子だ。その優しさはこのお役目でも役に立つだろう。だが、その優しさがお前を苦しめることにもなるだろう」
竜王は竜神の掛け軸に目を向ける。その表情は悲しさと悔しさが織り交ざっているようだった。
「あの方もお優しい方だったよ」
「竜王様はあったことが?」
「あぁ、里中から好かれておったよ。神々とも仲が良く、よくこの里に招いておったよ」
「そんな方が何故、神々の円卓から追放されたんでしょう?」
「さぁな、なにがあったかは分からない、円卓から帰ってきた竜神様は追放されたことをわれらに告げ、どこかに隠れてしまわれた」
アレルは掛け軸に目を向ける。神々の円卓から追放された者にも関わらず、その絵を飾っていることに、竜王の思い入れの強さを感じた。
「そろそろ、お暇します」
窓の外を見て日が沈み始めていることに気づき帰り支度を始めた。
「アレルちゃんもう帰っちゃうの?泊っていけばいいのに」
「そうですよ!私の部屋ならもう一人くらい寝れますし」
アンナの提案にシーラが同調する。
「いや、お役目の準備もありますから」
「「えー」」
「あまりアレルを困らせるんじゃないよ二人とも。出発はいつなんだい?」
「三日後に発ちます」
「そうか、必ず生きて帰るんだよ」
「はい!」
残念そうなシーラ達に見送られ帰路につく。見あげた空は、茜色に染まっていた。
竜の里である浮島の東端に、大きな鳥居がある。そこをくぐると、木でできた大きな飛び込み台のようなでっぱりがある。そこは、お役目に行く竜が飛び立っていく場所とされており、アレルがここに来るのは今回で二度目だ。通称飛び発ち台と呼ばれるそこに、多くの竜がアレルを見送るために集まっていた。ジールがアレルに巻物のようにした布を手渡す。受け取り広げてみると、ボールペンサイズに縮小された七本の竜杭が、針をしまう要領で保管されていた。
「竜杭は全部で七本しかし、まだ、必要になるやもしれん。その時はまたここに来なさい」
ジールは、アレルの手を握る。
「必ず生きて帰れよ」
「もちろんだ!」
アレルはジールの手を力強く握り返す。そして、見送りに来てくれた人たちを見渡してみる。族長やフレイ、アンナと竜王の姿は見えるものの、シーラがいない。そのことを少し不思議に思いながらも、アレルは飛び発ち台の先端に立つ。下を見ると土地の用が大雑把な色でしか判別がつかない。緑の濃い部分は森、灰色っぽいのは街だろうか。アレルは振り返って、集まってくれたみんなに届くように声を張り上げる。
「鍛冶師アレル!お役目を全うすべく!行ってまいります!」
そう言って、大きく手を振った後、勢いよく飛び降りた。
風の荒波を受けながら、腰に付けた愛槌フォルンに呼びかける。
「二人旅は久しぶりだなフォルン!」
フォルンは金槌の体を発行させる。
『創造主様との二人旅、私も楽しく思いますが、どうやらそれも早々に終わりのようです』
アレルがフォルンの言葉に首を傾げていると、不意にアレルの上に影が差した。
最後まで読んで頂きありがとうございます!




