邪竜戦争
三年前竜の一族の一つ闇を司る黒竜族が、神々への反逆を企てた。もともと竜は神の一柱だったが、竜神が創造新への反逆を起こし失敗、今では竜は神の使いに降格させられてしまった。そのことを不満に思った黒竜族が反旗を翻したのだ。それの対応に当たったのがアレルとシンだった。一部族の反乱のため、他部族の協力を得れば簡単な仕事だった。しかし、黒竜はとある方法を用いその数を増やし、数々の禁術を使いより強くなっていた。最終的には、黒竜族対竜の里の総力戦となった。戦いは地上を焼き、多くの爪痕を残し竜の里の勝利に終わった。これを竜たちは【邪竜戦争】と呼んでいる。その戦争で、敵の長と戦っていたのがアレルである。
「もう終わりだ!」
アレルは、ボロボロの体を引きずって立ち上がる。目の前の黒竜は体から多くの血が流れている。大地は窪み、いたるところに横たわる様々な竜の死体。
「人の身で我らの同胞を語る愚か者が!調子に乗るでない!」
黒竜は腕を振り上げ、アレルをつぶそうとするが、横から別の竜が体当たりをする。黒竜が吹っ飛ぶ。
「シンさん!」
黒竜を吹き飛ばした白銀の竜は血まみれで、ボロボロだった。
「残ったのは俺達だけか」
竜は当たりを見渡す。そこには、死屍累々が広がっていた。
「アレル。これ以上暴れれば人間界にも多大な影響が出る。一気に叩くぞ」
「はい!」
黒竜はのっそりと起き上がる。
「シン!貴様!」
黒竜は心を睨む。
「お前はやり過ぎたんだ。なんで一人で突っ走った!」
「我らは神だ!髪だったのだ!それを不当に追放し、自分達の手足に貶めた、あの者たちに復讐して何が悪い!」
「その復讐で何人の同族が死んだ!」
「あいつらは楽しんでいるのだ!同族同士を殺し合わせて今も円卓で笑っている!」
二匹の竜はこれ以上の言い合いは不要と判断したのか、お互いの爪と牙を交える。もう魔法もブレスも打てない程に二匹とも弱っていた。アレルも参戦しようと、フォルンを握り動き出す、すると地面が光り出した。アレルが舌を見ると、死んだ黒竜たちが光っている。シンはその変化に気づいた。
「これは、まさか!」
慌てるシンを黒竜はあざ笑う
「自爆魔法だ。あの小僧が大事なのだろう?」
「クソ!アレル!」
シンは黒竜を突き飛ばし、アレルの元へ行く。地面に横たわる黒竜の死体が次々爆発した。黒竜は空へと飛びあがり、地面の様子を見る。爆発で舞い上がった同朋の血が、雨となって降り注ぐ。爆炎が晴れると、アレルを庇うようにして抱え込むシンの姿があった。
「シンさん!シンさん!」
アレルの呼びかけにも返事をしない。
「愚か者のために命を捨てるなど、竜のプライドは無いのか」
黒竜の言葉にアレルは激昂する。
「お前だけは殺す」
「人の身で何ができる?」
「殺す」
「怒りで言葉も忘れたか。やはり愚かだ。お前を殺して里の皆に見せしめにしてやろう。シンはこいつのせいでお役目も果たせず死んだとな!」
黒竜が空から降下しその腕を振り下ろした。殺したことを確信した黒竜だったが自分の爪が溶けていることに気づく。手から熱を感じ腕を上げると、アレルが燃え盛る槌を天に掲げていた。その体は槌から出る炎に包まれ、アレルの肌を焼く。しかし、焼けた肌が一瞬にして元に戻った。
「人の子ごときが、私を溶かすほどの炎になぜ耐えられる!」
「フォルン、【生命の火】を」
『承知いたしました、創造主様』
槌から女性の声が流れると槌の炎の勢いが増した。同時にアレルの体からも火が上がる。
「それはなんだ!この私が人ごときの人の子ごときに負けるかぁぁぁあああ」
黒竜が口を開き、最後の力を振り絞ってブレスを放つ。そのブレスにアレルは突っ込んでいった。拮抗するも次第にアレルが押していく。黒竜のブレスが消え、アレルが黒竜に槌を振り下ろした。炎が黒竜を覆いその熱で体を溶かしていく。
「ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
黒竜は断末魔と共に消え去っていく。アレルから火が消え、動かない体で這ってシンの元へと向かう。
「シンさん!シンさん!」
シンの下にたどり着いた、アレルは必死に呼びかける。それにこたえるように微かにシンの目が開いた。その目に、焼き消えていく黒竜と傍らに這いつくばるアレルが映る。
「やったのかアレル?」
「やった!やったよシンさん!すぐに里から仲間が来るはずだ!もう少し頑張ろう!」
呼びかけるアレルをシンは見る。
「この戦争の影響が出るだろう」
「シンさん?」
「そうなったら、それに対処するのはきっとお前になる」
「そしたら、また力を貸してよシンさん」
「黒竜を殺せたんだ、お前ならきっとできる」
まるで自分は参加しないかのように言うシンにアレルは涙を流して縋りつく。
「シンさん?嘘だろ?」
「アレル頼み事しても良いか?」
「シンさんもういい!喋るな!」
「シーラを頼むな」
その言葉を最後に、シンの目は二度と開かなかった。アレルはシンの遺体に縋りついて泣いた。声がかれるまで泣き叫んでいた。
アレルは立ち上がって、盃の酒と残った酒を大樹の根元に流す。
「またお役目をもらったんだ。これが成功したら、やっと俺も竜になれる。シンさんとの約束も、もうすぐ果たせるよ」
酒瓶から流れ落ち、地面にシミを作る。空瓶と盃をもって、まだ祈っているシーラに声をかける。
「行こうか」
「ハイ!」
シーラは顔を上げアレルの後ろをついていく。シーラは急に立ち止まり、石碑を振り返った。
「父さん。私は幸せですよ。心配なさらず、お眠りください」
シーラはアレルの下に走っていった。その言葉に答えるように、優しい風が吹いた。
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