プロローグ1
月一更新を目指す、不定期更新作品です!
聞きなれた、放課後を告げるチャイム。一人の眼鏡をかけた気弱そうな青年は、ぐしゃぐしゃになった制服を脇に抱えて、下駄箱を開ける。そこにあるはずの靴がない。
『またか』
内心で舌打ちしながら、靴を探していると背中に衝撃が走る。青年が大げさに地面にへばりつくように倒れ込むと、背後から、ゲラゲラと下品な笑いが聞こえる。振り向くとそこには、くすんだ金髪の青年とその取り巻きが、倒れている青年を指さし笑っている。他の生徒はその様子を見るも目をそらし、立ち去っていく。
「探し物はこれかなぁー?」
金髪が心底馬鹿にした声で、手に持っている物を掲げる。そこには、少しくすんだスニーカーがあった。眼鏡の青年は立ち上がり、取り返そうとするが、ヒョイッと上に持ち上げられる。
「俺らこれから、ゲーセン行くんだわ。金くれない?くれたらこれ返してあげてもも良いよ」
お前は何様だと言いたくなるようなセリフと共に、差し出される手を無視して、無理やりスニーカーを奪い取ろうとするが、取り巻きに押さえつけられる。そこに、金髪が膝蹴り蹴りを入れる。
「なに反抗してんの?調子のんなよ。お前」
そんなセリフと共に殴られ、眼鏡が飛ぶ。青年は金髪を見る。特になんの感情も込めていない視線だったが、金髪は気にいらないらしい。
「なんだよその目!」
金髪はさらに力を込めて殴り飛ばす。そこに、一人の女生徒が通りかかった。
「坂本たち!何やってんの!」
女生徒は、金髪の生徒と取り巻きを怒鳴りつけ、倒れ込む眼鏡の青年に駆け寄る。
「あなた達!また、新井君いじめてるの!」
「いじめてねーよ。俺達は田舎者に都会を教えてやってるんだよ。皐月」
「なにが教えてやってるよ!」
「女に守られて、悔しくねーのかよ新井!」
坂本にすごまれた新井は、何も言わず、眼鏡をかけ直し、坂本を見る。それが気に障った坂本が、新井に
つかみかかろうとすると、昇降口から野太い怒号が響いた。
「おまえら!何やってる!」
「やべっ行くぞ!」
がたいの良い教師が二人程、女生徒を率いて出てくる。
「皐月、大丈夫?」
「私は大丈夫。でも新井君が」
女生徒は皐月に駆け寄り、教師は、新井を立たせる。
「新井、大丈夫か?」
「はい、すみません大丈夫です。皐月さんもありがとう」
皐月に向けて、頭を下げる。
「気にしないで」
皐月は笑顔で答えるが、皐月に駆け寄った二人は新井に鋭い視線を送っている。
「新井さぁ。少しは自分で何とかしようとか思わないの?」
「そうだよ、皐月まで巻き込まれたらどうするの」
女子生徒達は新井に冷たい言葉を浴びせた。
「ちょっと、二人とも」
「すみません。皐月さん、もう大丈夫です。あまり、庇うと次は君が狙われるかもしれない。だから、も
う助けに来なくて大丈夫です。いつもありがとうございました」
感情のこもらない声で、皐月に告げる。その表情は、能面のようだった。それだけ告げると、坂本たちが投げ捨てていったスニーカーを履き、校門に向かって歩き始めた。
「二人ともあんまりだよ!新井君は何も悪くないのに」
友人二人に強く言うも二人は気にした様子はない。
「このまま庇ってたら、皐月も危ないじゃん」
「そうだよ、坂本のヤツ、皐月にいつも変な視線向けてるし心配だよ」
「心配は嬉しいけど……」
皐月は自分を心配してくれる友人に口ごもりながらも、カバンを持ち新井を追いかける。
「心配してくれてありがとう。それでも、放っておけないよ」
校門を抜ける皐月を、二人も慌てて追いかける。
日は傾き、空が紅く染まる。真っ赤に染まった夕日を歩道橋の上からぼーっと眺める新井。それを、皐月たちは発見した。その様子に危機感を覚えた皐月たちは歩道橋の階段を駆け上がる。階段を上り切り新井のいた方に目を向けると新井の地面が夕日のように赤く発光していた。
「新井君!」
異常な光景に、思わず名前を叫び、駆け寄りながら新井に手を伸ばす。それを見た新井が今まで聴いたことのない力強い子で新井が皐月に呼びかける。
「来るな!」
その叫びと同時に新井の体が消え、持っていた荷物だけが、静まり返った歩道橋にドサッと落ちた。何が起こったのか分からない皐月は呆然とその場に立ち尽くすしかなかった。
消えた新井の目の前には、明らかに地球ではない世界が広がっていた。そして、その目の前には山かと見まごう程大きなドラゴンが、新井を見下ろしていた。
最後までお読みいただきありがとうございます!
他の作品の更新を優先してしまうため、この作品の更新頻度が遅いとは思いますが、月一で更新していこうと思いますので、何卒宜しくお願い致します!