第4話 私の気持ちは…
妹が父の敵討ちの決意表明をした日から三日が過ぎた。あの日の翌朝、妹はいつも通りに起きて来た。そして、朝食の用意をしている私を見つけると、ちょっと照れくさそうな表情をした後、「おはよう」と言ってきた。私は普通に挨拶を返したけど、私が見た感じ、妹はどこか吹っ切れて、晴れ晴れとしていた。
私は、この三日間というもの、今後の自分の在り方について考えていた。父の戦死という事実から逃げるなんていうのは論外。でも事実と向き合って、無理矢理心の中で消化して、納得するというのも違うと思った。
心の中にあるのは父を失った悲しみに、やはり父を殺したアムロイへの怒りに憎しみだ。悲しみはいずれ時が癒してくれるかもしれない。だけど、この怒り、この憎しみはどうだろう。妹が言ったように何もしなかったら一生後悔するのだろうか。
この三日間、考えに考えて、結局答えは出なかった。妹は父の敵討ちをすると言った。それが果たせるか、果たせないかは別として。きっと今は男だろうが女だろうが、危険を顧みず、行動しなくてはならない時なのだ。そして、私の気持ちは…
「ねえ、お母さん。」
私は就寝する前に、お風呂上がりのパジャマ姿で洗面所から出て来た母を呼び止めた。母はじっと私の顔を見ると、ハァと小さく溜息をついた。
「それで、咲も進学先を変えたいの?」
「うん。私は地球連邦軍の士官学校に進学しようと思う。どうかな?」
母は今度こそ盛大な溜息をついた。
「七海といい、あなたといい、まあ、いいわ。好きにしなさい。でも、決して死に急いじゃ駄目。何度でも言うけど、友雄さんはあなた達に自分の敵討ちとか、そんな物は望んでいないのよ?」
母の口調は呆れたものから、次第に真剣なものへと変わって行った。それはそうだろう。例えどんな理由があったとしても、自ら死地へ赴こうとしている我が子を喜ぶ親などいるわけが無いのであるから。
「うん、わかってるよ。ありがとう、お母さん。」
夕食後、私達親子が食卓でお茶を喫していると、母が妹に、私が士官学校に進学先を変更する旨を話した。妹はそれを聞いて「一緒に頑張ろう」と言って喜んでいた。
「さあ、これから皆んな忙しくなるわね。咲耶ちゃんも七海ちゃんも受験勉強に、軍人になるなら体力作りもしなくちゃね。」
自慢じゃ無いけど、私達姉妹は学力成績が良い。だけど、二人とも進路変更するとなると、今まで受験勉強の対象外だった科目もあるから、これから猛勉強しなければならない。
「それから、言い忘れてたけど、私も予備役の招集がかかって軍務に復帰する事になったからね。二人とも家の事、よろしくね。」
「「はあ?」」
私と妹は、驚いて思わず顔を見合わせてしまった。まさに寝耳に水だったから。でも、考えてみれば母は予備役の中尉で、戦争が始まれば招集がかかるのも当然だ。
「お母さん、私達にあんな事言っておいて、なんかずるくない?」
妹は納得がいかないのか、母に文句を言っていたが、今更だろう。だって母は元々予備役軍人なのだから。
母は妹からの抗議をフフーン、どうよ?といった感じでいなしていた。
そういえば、母は現役時代は空母赤城の戦闘機パイロットだったし、今も警備艇のパイロットをしているから、やっぱりパイロットになるのかな?
私は二人のやり取りを聞きながら、そんな事を一人で考えていた。
短めでした。いつもお読みくださって有難う御座います。