第1話 父の戦死①
『朝倉家の戦争 駆逐艦南風かく戦えり』の続きとなります。前作から引き続きよろしくお願いします。
放課後、私が友人と一緒に高校のカフェで試験勉強をしていると、テーブルの上に置いていた携帯端末が呼び出しのメロディを奏で始めた。曲は私の好きなシベリウスの「フィンランディア」だ。
この数ヶ月というもの、私は携帯端末の呼び出しに神経質になっている。というのも、私の父は地球連邦軍の士官であり、一ヶ月前からは現役復帰した古い駆逐艦の艦長となっているからだ。
突然、土星宙域に現れた異星人アムロイとの戦争が始まって既に半年が過ぎようとしていた。現在、土星から地球圏へと侵攻して来ているアムロイの艦隊を迎え撃つべく月軌道艦隊を主力とする地球連邦軍の連合艦隊が出撃している。
父が艦長を務める駆逐艦南風は、艦齢が古くて、ずっと現役復帰のための改修工事を受けていたから連合艦隊には編入されていなかった。そのため南風は地球圏内のスペースコロニー防衛任務に就いている。だから私も家族も少し安心しているのだけど、父も軍人であるからには戦況次第では出撃して、戦闘なんて事だって十分あり得る。
異星人との戦争だなんて、この先一体どうなるのか。そうした中で駆逐艦の艦長に就任した父。だから、父の身を心配している私は、携帯端末が鳴るとドキッとして不安になってしまうのだ。
一体誰からの連絡だろうと画面を見てみると、私のクラス担任の原田久美子先生からだった。原田先生は姉御肌の面倒見がいい美人で、女子生徒達からは絶大な人気がある。
「原田先生から呼び出しだ。職員室に来いだって。」
「えー、咲何かやらかした?」
「すぐ行った方がいいんじゃない?わざわざ呼び出すなんて。」
からかうような萌と、心配そうに言う南。それぞれの性格が現れているなぁと思う。
「うん、ちょっと行って来るね。ごめんね、また後でね。」
私は教科書などを手早くバッグに仕舞い、職員室へと急いだ。
「失礼します。」
職員室に入ると、私は原田先生の机に向かう。
「先生、朝倉です。どういったご用件ですか?」
いつもならもう少し砕けた話し方になのだけど、場所柄を考えて敬語で声を掛ける。
「あっ、朝倉さん。急に呼び出してごめんね。まずは座って。」
私は原田先生が勧めた椅子に座った。椅子を勧められたという事は長くなるという事だろうか?
「落ち着いて聞いて欲しいのだけど、先程、朝倉さんのお父様の勤め先から学校に連絡があったの。詳しい事はわからないのだけど、自宅に帰って待機していて欲しいとの事でした。だから朝倉さんはこのまま中等部の妹さんと一緒に早退しなさい。」
私は自分の血の気がスゥーと引いて行くのがわかり、椅子を勧めてくれた先生に感謝した。もし、たったままなら立ちくらみで倒れていたかもしれないから。
「父に何かあったという事でしょうか?」
「ごめんなさい、本当に詳しい事はわからないのよ。早退の手続きは出来てるから。朝倉さん、気を強く持つのよ。」
原田先生は詳しい事はわからないと言ってぼやかしてくれたけど、そこまで言ってしまえば父に何かあったと容易に想像できる。
私は職員室を辞して、中等部の校舎へ妹の七海を迎えに行った。
中等部の職員室の前で、七海は立って私を待っていた。
「お姉ちゃん。」
七海は私を認めると小走りで駆け寄って来た。七海は色白で、少しだけつり目気味の綺麗な顔をしているけど、今の妹は色白どころか血の気が引いて真っ青だ。
七海も中等部の担任から私と同じような説明を受けたのだろう。いつもは気の強い妹だけど、とても不安そうに見える。職員室前の通路で他の生徒の目もあったけど、構わずに私は妹をギュッと抱きしめたいた。妹の不安を少しでも和らげたかったのだけど、自分の不安も紛らわせたかったのかもしれない。私も内心は不安でいっぱいだったから。
私達は、お互い手を繋ぎ、無言のまま家までの道を歩いた。何か話せば父の安否に関する事になりそうで、尚更不安が増すような気がしたから。妹も同じ気持ちだと思う。妹とは喧嘩したりする事もあるけど、この時、私は久々に妹がいてくれて良かったと思った。一人だったらどうしただろう?
そうして、私達は不安に押し潰されそうな気持ちを抱いて帰宅した。
お読みくださり、有難う御座います。拙著『救国の魔法修行者』もよろしければ御笑読頂ければ幸いです。