混乱する魔女と自分勝手なユニコーン
町長の肯定に、アコニは混乱した。
「私に、王族の血が入っているなんて…初代王の妃だった魔女は!黒目、黒髪なんて聞いてないわ!初代妃は、美しい金髪に紫の瞳と、王族の歴史書に書いてあったわ!!」
アコニは書物だけは沢山読んでいた。それこそ、自宅に沢山の本があり、町の図書館にも通いつめている。
「そうだ、黒目黒髪なんて特徴はまずいないからな、統計的に一般的ではないが、珍しい色にしたまでよ。代々、町長が受け継ぐ話には、初代妃は黒目黒髪、アコニ、お前と同じ特徴を持っていると、語り継がれる。」
「そんな。そうしたら、お母様が・・・?」
アコニの母も、黒目黒髪の魔女だった。
「あぁ、そうだ。お前の母親が初代王妃の孫に当たる。亡くなった日は国中で喪に服した。」
アコニの母は、3年前に亡くなった。
一人でずっと育ててくれた母。優しくて、強くて、いつも笑顔で、大好きだった。
病にかかり、どの治療も薬も効かず、アコニの献身的な介護も虚しくみるみる衰弱していき、やがて息を引き取ったのだった。
アコニは泣いて泣いて、1年立ち直れず、町から毎日町長の妻がやってきて世話をしていった。
アコニは母と共に逝こうとしたが、町長の妻がそれを許さず、どうにか今のように一人で生きていけるまで回復したのだった。
「町長は、父を、知っているの?」
アコニには、父親の記憶がなかった。いや、正確には、古い記憶に父らしき人物がいたという存在確認はあるが、顔やどんな性格だったなど、全く覚えていなかった。
「うむ、ダズルだな。ユニコーンだ。」
「え!?」
ユニコーンと聞いて、思わずヨハネスを見た。
「私じゃないですよ。ダズル様です。」
「・・・様?」
ヨハネスは、話に興味がないのか、人形になりロッキングチェアに揺られて外を眺めていた。
「ダズルとは、ユニコーンの長のような方と聞いています。まぁ、そもそもユニコーンは家族単位で行動するので長と言っても何となく取りまとめているような感じだったようですが。」
アンディが補足をした。アコニは自分のことなのに、アンディのほうが知っていてちょっとムッとした。
「そう!別に興味はそんなにないけどね!!」
「それなら、洞窟にでも行きましょうか。」
ヨハネスが徐に立ち上がりユニコーンの姿に戻っていた。
「奴等が来たか・・・」
「この雨ですし、私が迷いの魔法を仕掛けておいたので、ここまで辿り着けないとは思いますが念のために行きますよ。」
「・・・は?え?迷いの魔法?」
アコニは気がつかなかったようだ。
「アコニは空を飛んで移動しますからね。」
「あ!ちょっと!待って!!」
ヨハネスは、外に出てしまった。その後をアコニが追いかけ、二人は空を飛んでいってしまった。
「・・・父上、迷いの魔法がかかっているのをご存じでしたか?」
「・・・いいや。」
「・・・私達、森から出られるのでしょうか?」
「・・・」
残った二人も、アコニの家を後にした。
「くしゅん!!はぁ~少し濡れたから、洞窟内は寒いわね!」
腕をさすりながら、洞窟を進んでいく。そして、先日食事をした場所に付いた。
「あ!クッションとラグを置いたままだったんだわ!ラッキー!!」
ラグにくるまりクッションを背に座った。
そして、指だけを隙間からだし、スイーと空をなぞった。
すると、赤い魔法石だけが、コロコロと落ちてきた。落ちてきた赤い魔法石を足元とテーブルの上に乗せ、魔力を少し流す。すると魔法石から小さな炎が出て辺りを照らし、暖めた。
「ふぅ。ところでヨハネス・・・あなたは全てを知っていたのね。」
ヨハネスは自分の居場所にもラグをひいてその上に膝をついて寝ている。
「全ては知りませんよ。知っていることだけです。」
こちらを見ずに語る。
「そうですね、先ほど少し誤解がありそうでしたのでお伝えしますが、ダズル様は私の父の遠い親戚です。ですので、私とアコニも遠い親戚にあたります。といっても、ほぼ他人ですがね。」
「そう、なの。それじゃあ、ヨハネスはなんで、私の家に急に来たの?」
前にもそんな話をしたと思うが、答えてもらっていなかった。
「私はヨハンの息子です。」
「ええ、聞いたわ。」
「ヨハンは言いました、アシュリーに「あなたの孫まで守る」と。」
「アシュリー・・・お母様・・・。お母様に、ヨハネスのお父様が、孫まで守ると、約束したのね。だから、ヨハネスは、お父様のした約束を守るために、大臣補佐が来る直前に、うちに、子供の私を守るために、来たのね・・・。」
ヨハネスは答えない。
「そう、そうよね、じゃなきゃ、わざわざ何もない私のところまで来ないわよね。」
アコニは炎を見つめた。
「大臣補佐が帰ったら、ヨハネスも帰るの?」
ヨハネスは答えない。
「そう、わかったわ。」
アコニは炎を見つめ、そのまま朝を迎えた。
「さて、ここに私はいつまで居ればいいのかしら?」
顎をツンと上げ、ヨハネスに話しかけた。
ヨハネスは伏せたまま微動だにしない。その様子を見て、アコニは立ち上がった。そして、洞窟の出口に向かう。
アコニは洞窟の入口に立つと、目を瞑り、家の方、そして町の方に仕掛けておいたライトに見せかけた周辺探索用の魔石に意識を持っていく。
この魔石は月の粉と太陽の粉、その他の素材を混ぜて固めて作ったオリジナルの魔石で、太陽と月の光を溜め込み、周辺が暗くなると辺りを明るく照らす、普段はそこで生活する人の為にライトとして使われており、家の入口と町の街灯に使っている。
しかし、家の周辺には冬眠する前の熊が出る事があるので用心に使っており、町では新しくアコニが作った商品の評判を確認する為に使っている。
家の方には誰もいない。入り口にある足跡を確認しても、アコニやヨハネス、町長とアンディ以外の足跡は無いようだった。
町には町長の家の庭に座り込んでいる騎士が多数いた。恐らく森に入ったものの、一晩捜索したがたどり着けなかったのだろう。
2階の窓に町長の姿が見えた。相手の姿は見えないが、何やら町長が怒っているように話している。
町長も無事に帰れたようで安心した。
この様子に一先ず家に帰るとする。
板を出し地面に置き乗る。爪先をトントンと鳴らし「家へ」行き先を告げるが浮かない。
「はぁ、何か用かしら、ヨハネス?」
ヨハネスの前足が板に乗っている為、動かなかった。
「アコニは何か誤解しているようなのでお伝えしようと思います。私がアコニの元に来たのは、今回の事や父の言葉があったからではないですよ。もともと私は誰かと関わる事自体興味がありません。しかし、アコニのところには実はずっといたのですよ。アコニが魔女だったから見ていました。よく分からない装置を作っては粉を集めて、薬を作り、その様子をずっと見ていました。前日に太陽の粉を集めていましたが、集まっていませんでしたよね。そして次の日に月の粉を集めようとして、月の粉もあれでは集まらないなと思って、あの時月の粉を集めたら何の薬を作るのか興味があったのです。だから出たのですよ。」
「・・・・え?ずっといたの?」
アコニの様子を見て、ヨハネスはまた興味がなくなったように、前足をどかし、空を見上げた。
「今日は太陽の粉がたくさん採れそうだ。」
アコニも空を見上げると、雲は一部残っていたが、嵐が持って行ったようで晴れ渡り、虹がかかっていた。
「・・・確かに、晴れているわね。でもあの日も晴れていたわ!何が違うのよ!教えなさい!!」
ヨハネスは足を進め、空を歩き出した。
「あ!ちょっと待って!私も帰るわ!」
ヨハネスがさっさと行ってしまい、そのあとを追いかけるようにアコニも家へ帰った。