真実を知る魔女と橋渡しするユニコーン
外から雷と激しい雨の音がする。今日は豪雨の日だ。
「やったー!ついに!豪雨よ!しかも雷付きの特別な日!」
「何がそんなに嬉しいのですか?」
「だって、豪雨よ!?雷よ!?ふふふふ、胸が踊るわ~」
豪雨なので外に出ずにのんびりと脚を折り曲げ、寛いでいたヨハネスは首を持ち上げて聞くが、結局何が、が、わからず首を捻るがまぁ特に興味もそんなにないので寝直す。
「ふふふーん!さっそくこの装置をセットしてっと、それから次はー・・・」
アコニが装置をいそいそと用意をしていると、ふいにヨハネスが起き上がり人の姿でドアを開けた。
「何か用ですか?」
ドアを開けるなり、声を掛けてる。まさか、この森に人が入ってくることなどない。アコニは警戒しながら覗き込むと、そこにいたのは町長とその息子アンディの姿があった。
「あんたは誰だ?」
町長のかすれた声がする。
「私はヨハネスです。アコニに何の用でしょうか。」
問いにヨハネスが答えた!と思わずヨハネスの顔を見た。
いつも無表情のヨハネスだが、眉間にシワがよっていた。
「ヨハネス・・・あぁ、ヨハンの息子か。なら話が早い、魔女を連れて山を越えろ。以上だ。」
「ちょっと!何ですって!!この家を出ろと言うの!?冗談じゃないわ!嫌よ!」
「お前の意思は聞いていない。これは決定事項だ。」
山を越えろ、すなわち家を出ろという言葉に反応し、ヨハネスを押しのけ拒否の意思表示をする。
しかし有無を言わせぬ町長の態度に、アコニは酷く苛立つ。風のない室内で、アコニの髪が、スカートがわさわさと浮き上がる。
「アコニ、冷静になりましょう。」
町長とアンディがアコニの様子に一歩下がり、ヨハネスが声を掛ける。
「冷静!!どっちが!冷静な話じゃないわ!今すぐよ!出ていくのはあなたたち!!」
アコニはわさわさとしている先端から光の粒になり、姿が消えていく。
「アコニ!」
叫んだのはアンディだった。
アンディは消えていくアコニを捕まえようと部屋へ一歩踏み出したが、ヨハネスによって外に出される。
ヨハネスは、町長とアンディを両腕で抱えて外に一緒に出て扉を閉めた。
そしてユニコーンの姿に戻り、角で家を包み込むようにモヤモヤを出しした。
その様子を、ただただ見ているだけしか出来ない町長とアンディ、町長は苦虫を噛み締めたような顔をし、アンディは驚愕に立ち尽くすばかりだった。
モヤモヤが家全体を包むと、ヨハネスは二人の方を向いた。
「では改めて話を伺いましょう。」
「いや!待ってください!アコニは?大丈夫なんですか?」
「大丈夫ですよ、ただ空気と一体化してるだけですから。」
それを大丈夫と言えるのか、甚だ疑問だ。
「今は家に空気を閉じ込めたので問題ありませんが、空気が漏れてしまうとアコニがどのくらい自分の意思で回収出来るか分からないので、広がってしまうと大変かもしれませんね、特に人の息に吸い込まれてしまったときなど。」
アンディは茫然と言葉を失う。
「それで、町長、話をお願いします。」
「そうだな、まずはあの納屋の中に移動しよう。」
町長の視線の先に納屋があった。
外は豪雨、妥当な判断だ。
「いいえ、納屋に入ってしまうと家の様子が分からないので、外で話しましょう。」
「はっ!いえ、あのモヤの中ならアコニは大丈夫なのでしょう?ユニコーンは平気かもしれませんが、私達人間にはこの豪雨は辛いのです。」
「ならばこうしましょう。」
このまま外で雨に打たれる恐れを感じ、アコニは意見を言った。それに対し、ヨハネスが動き出す。
ヨハネスは外に置いてあったガーデンテーブルとイス2脚の周りに同じようにモヤを角から出し、覆った。
「さぁ、中へどうぞ」
さっさと先に入ったヨハネスに続き、戸惑いつつも二人も中に入った。
モヤモヤの中に入ると、外の豪雨に影響されず雨の一粒も音も遮断された空間があった。町長が椅子に座り、その後ろにアンディが立つ。
「アンディ、あなたも座ってください。」
ヨハネスが声を掛けた。
「いえ、私は大丈夫です。ヨハネス殿がお使いください。」
ヨハネスは面倒くさそうに息を吐き、言葉をつづけた。
「今の姿で椅子を使うのはしんどいのです。ならばこうして立っているほうが楽なんですよ。話をするまでにどのくらい時間が準備が必要ですか。それとも話は必要ありませんか。」
ヨハネスの苛立つ様子に、周章狼狽し椅子に座った。ヨハネスが家の方を向き、その両隣に町長とアンディがテーブルを挟み向かい合う形で席についている。
「さて、では本題に移ろう。私たちが今こうして来ているのは、ヨハネスも察しているようだが、その通り、国が来ている。町の魔術師が雨雲を呼び、兵士たちが足止めをしているがいつまでもつやら。もちろん、狙いは魔女だ。」
「主犯は財務大臣補佐と外務大臣補佐ですね。」
「そうだ。」
「理由は今までと同様で?」
ヨハネスが溜息を付く。
「あぁ、全くどちらも大臣、国思いの奴らだ。何故その気持ちを魔女に向けてやらないのか。」
「そうですね、魔女は国の宝ですからね。」
町長の言葉にヨハネスが答える。魔女は国の宝と。
「そうの通りだ。その為に、魔女をこうして森に匿い我らが盾となり防御策をしいておるのに、後ろから刺されたようで気分が悪い。」
「すみません、私も先日の誕生日に魔女とこの町について聞いたばかりで伺いたいのですが、大臣たちは補佐の動向を知らないのですか?」
魔女が国の宝と、町長が肯定し、そして息子のアンディもそれを理解していた。
「知っている。そもそも補佐たちが何故動き出すのか、それは大臣たちが魔女の在り方に苦悩しているからだ。もっと魔女を活用できないか、とな。しかし、初代国王の決めたこと、国の法律で決まっている事、そして何より魔女を大切に思う気持ち、それらが大臣たちを留めている理由だ。ただまぁな、大臣たちの良心で動けないところを補佐達が動き、魔女を国で抱えようとしておるのだ。」
魔女を森に住まわせている事実は国を挙げての事項であった。
「魔女を森で匿い、国で抱えさせない理由は何ですか?」
「魔女は優しいだろう。そこに付け込む輩が出てくるからだ。ただそれもある種の魔法のようでな、魔女の生きる知恵で、排除されないよう滲み出る魔力が相手に魅力的に映るよう影響を与える。そしてそれに影響された輩が魔法欲しさに利用しだすのだ。」
「それは魔法石を使って防ぐことは出来ないのですか?」
「出回っている魔法石はそもそも魔女の魔力で出来ているからな、無意識で出ている魔力には有効に働かない。天然の魔法石は高価すぎて主要人数だけでもそろえるのが難しい。」
様々な事実を国が、そして国民全体で共有している内容だった。そしてそれを全て、ヨハネスも知っていた。
「そういう事ですよ、アコニ」
ふいにヨハネスが頭をフルフルと振ると、鬣のあたりからポロっと小さな粒が出てきた。それはあまりにも小さくて、目をよく凝らさないと見えないくらい、小さなものだった。
「それは、アコニですか?」
「アコニの欠片です。理解しましたね、アコニ。家に戻りますよ。」
ヨハネスは角の先端に光の粒をくっつけて家に戻る。アンディは外の豪雨にアコニの欠片が流されてしまう!とヨハネスを止めようと腰を浮かしたが、モヤモヤはヨハネスが外に出るのと同時にヨハネスの体に纏わりついて、豪雨の影響を受けていないようだった。
ホッと胸をなでおろす。
ヨハネスはスタスタと家の方に向かい、ドアを開けた。
その後を町長と二人で追いかける。
中には薄くなったアコニがおり、角の先端に居た欠片がふよふよと薄いアコニに飛んでいく。そして、元のアコニに戻った。
「理由は分かりましたね。アコニ、そういう事です。」
目をつぶっていたアコニが目を開けた。
「理解したわ。昨日私が急に町に行ったから、既に王宮から大臣補佐が来ていたのね。」
アコニは欠片を通して、話を聞いていた。
「そうだ。幸い町長の館に入っていたからな。騎士たちも町長のドアのところで警備しておったから、アコニが来たのも、出ていく姿も見てはおらん。」
「アコニ、その、今まで町の住人が冷たかったのは・・・」
「私を町に長居させず、私を守っていたのね。」
「・・・。私は、これしか方法はなかったのかと、今もそこは納得していない。」
「それは町の住人皆が思っておる。しかし、それが一番手っ取り早く、効果が高く、わだかまりを生まん。皆心を鬼にして当たっておるのだ。」
町長が状況を話し、アンディは理解はしているが納得をしていない。そして、その全てをアコニは理解した。
「町の住人たちは、ただの住人ではないわね?」
「あぁ、この町の住人は全て、元宮廷で使えていた者の子供たちだ。」
話はこうだ。
初代国王の妻、王妃は魔女だった。魔女はそれは美しく聡明で、王から愛され、国民から慕われていた。
ある時、魔女は自分の漏れ出す魔力の効果について気がつき、王の反対を押し切り、生まれた王子を残し、魔女とそっくりの姫を連れてこの森へ棲みかを移した。
王として毅然とした態度を示しつつ、王妃を心配し心を痛めていた王を、何とかして差し上げたいと、王と王妃、そしてその子供たちのためにと、近衛隊長、警備隊長、騎士団1団長、2団長、3団長、医師団団長、薬師長、宮廷料理長、宮廷パティシエ、直接政治を担うもの以外の長が家族と共に魔女の住む森の前に町を建設し砦の役割を、表向きは若い世代への世代交代として、移り住んだのが、事の始まりだ。
そして、町長として王の末弟が付いた。
そんな住民の集まりで細々と繁栄してきた町なので、町の住人は基本能力が高い。
警備隊長は近衛隊長の、大工も騎士団団長、レストランは宮廷料理長、宿屋はメイド長、そんな人たちが始めて継いだ子孫たちだ。その内容は一流だ。
「そう、なの。じゃあ、私は?その話の流れだと…」
町の住人たちの基本能力が高いのは何となく知っていた。しかし、魔女のルーツが信じられない。
「あぁ、その通りだ。」