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嫌われものの魔女とお節介なユニコーン

アコニは朝食に昨晩の残りの菓子を出した。


「そういえば、ユニコーンって何を食べるの?草?」

「さしあたって綺麗な水です。ですので、食事に行ってきますね。」


ヨハネスは器用にドアを開けると行ってしまった。


「・・・・嵐のようなユニコーンね」


呆れて見えなくなった先を見つめた。



結局また全部食べ切れなかったが朝食も終わり、さっそく昨晩貯めてもらった月の粉を使って虫歯用の薬を作る事にした。


「ふんふんふーん。ふふん!」


またしても雑に見える形で、窯にボンボンと素材を入れては混ぜ、入れては混ぜを繰り返す。

次第に窯に霜が張ってきた。


「あらやだ。凍ってきたわ。」


やだと言いつつ困った風もなく、窯の下にある薪に火だねをポイっと入れた。そして屈みこみ人差し指を口元に持っていき、ふーっと息を吐くとそこから小さな火がポイっと出てきて火種に乗り移った。

そして火種を通してパチパチと火が燃え広がった。


「ゆっくり、ゆっくり。そうよ、いい子ね。」


ゆっくり窯の中を混ぜ合わせ、外から温められ中の温度は上がるが凍る直前程度だ。


「最後の仕上げはこれね」


そう言って窯の中に昨日取ってきた木苺のエキスとミントの粉を入れた。


「ふふん!完成!これであのガキンチョにマズイなんて言わせないわ!」


早速出来たペーストを平たい缶に入れて封をする。月の粉が多く手に入ったので10缶出来上がった。いつもより5缶多い。


「さ、さっそく町に売りに行こうかしら。あ、ついでにクッキーも売りつけてしまおう。」



2食続けて食べてきて少し飽きてきた。クッキーはまだまだあるので1瓶売る事にした。

外に出て板を地面に置き、乗り、またつま先でトントンと叩いた。


「町へ!」


ふわっと浮き、町のほうまで行こうとした時、急に板が地面に押さえつけられた。アコニはバランスを崩し、後ろに倒れ尻餅をつきそうになった。が、倒れた時に脇に差し込まれ背中につっかえが出来て尻餅は免れた。


「・・・・びっくりしたぁ!」

「アコニ、私を置いてどこに行くつもりですか。」

「ヨハネス!危ないじゃない!薬が出来たから町に売りに行くのよ!」

「それなら、私も一緒に行きます。」


危なかった事はスリーされた。


「ユニコーンが町に現れたら、大騒動よ!ダメよ!危ないのよ!」


ユニコーンは今までアコニも見たことがなく、人々の間ではユニコーンとは酷く臆病で、どう猛なので、人前に姿を現す事はなく、現れたとしても襲われ、人々は何も考えずに会ったら逃げろと言われ、またその美しい姿から捕えようとする人もいる為、ますます臆病とどう猛に拍車がかかっていると、まさに幻の生き物だった。


「大丈夫です、人を襲いませんよ。」

「そうじゃなくって!いや、それもあるけど、捕まえられちゃうわ!」

「大丈夫です。」

「・・・・どの辺が?」


大丈夫と言ったきり、また空を見上げているので答えてくれない事を察した。


「はぁぁぁぁ。分かった、もう知らないからね。私は板に乗っていくけど、ヨハネスはどうやって行くの?」

「アコニに付いて行きます。」

「どうやって?」

「さっさと行きましょう。もうすぐで昼時ですよ。」


誰のせいだと思っているんだと少し腹立たしさを感じたが、もう知らないと、アコニはつま先でトントンと叩いた。


「町へ!」


板がふわっと浮遊し、町へと飛び出した。




「そうやって付いてくるのね。」


ヨハネスはアコニの後ろついて走ってきている。そう、走って、空を。

アコニは後ろをチラリと見て、町に着いた時の騒動をどうしようかと頭を捻った。


「幻の魔法でもかけようかしら、普通の馬に見えるように。でもヨハネスに掛かるかしら、幻の魔法は意識があるものに掛けるときは掛けられた人が掛けたものに意識しないといけないから、出来る気がしないわ。布でも被せちゃう?でもあんな大きなのが布被ってたら、それこそ怪しいわ。角も隠せないし。小さくしてバッグに入ってもらう?そもそもヨハネスがじっとしているとは思えない。」


あれこれ考えている間に付いてしまった。仕方がないので、どうにでもなれ!と町に降り立った。


あれ、騒動にならない。


町の住人はササっと避けるのはいつも通りだが、今日はジロジロ見て、それだけだ。

ユニコーンが町に入ってきたらパニックになると想像していたが、全くならず、ヨハネスを見て理解した。


ヨハネスはユニコーンであったときの身体的特徴をそのままに人型になっていた。


確かに美しいその見た目は人々の興味を引くが、人型であるため、また魔女の後ろにいる為ジロジロ見る人は居ても、話しかける人は居なかった。


「久しぶりに町に入りました。」

「え、来た事あったの?」

「えぇ、大昔ですが。」


話をしながら町を進み、薬局へ着いた。ドアを開け、店主がいる事を確認し、いつも通りにバッグから売るものを取り出した。


「はい、これ、歯の治療薬と魔女のクッキーよ。」


クッキーは薬局じゃないだろうって話だが、魔女のクッキーは薬扱いだ。

微量ながら魔力が入っていて疲れが取れるのだ。一応人気商品だ。


「ちっ、よりによって今日か・・・まぁいい。ほら、代金だ、持って今日はさっさと帰れ。今日は余計なところに行くんじゃないぞ。」

「・・・・・言われなくても!」


代金を奪うように受け取り、乱暴にドアを開けて出ていく。


悔しい!なんで魔女ってだけであそこまで言われないといけないの!


顔が熱く、視界が歪むのを感じる。さっさと今日は町を出よう。

板を地面に叩きつけ、乗るとすぐにつま先で叩き、森へと飛んで行った。


今日は森での採集はせずに真っすぐ家に帰って、布団を被った。

ぶつぶつと呟くように魔法を唱える。


丸まった布団の塊が小さくなっていく。


落ち着いたようでユニコーン姿のヨハネスが布団を咥えてゆっくりはがすと、そこには小さな真っ黒の髪の毛の赤子がいた。そしてスヤスヤと寝息を立てて寝ており、ヨハネスが鼻先でつついても起きそうになかった。

シーツを握りしめた小さな手、丸まった体。ヨハネスは人型になり、赤子を抱き上げ、一緒の布団に入った。




アコニが目を覚ますと、町で見た、見慣れぬ美しい人型のヨハネスがいた。


「・・・・ヨハネス!私に触っちゃダメっていってるでしょ!」


ぼーっとした頭も、ヨハネスに抱きかかえられるように寝ていた姿を確認し、いっきに覚醒する。


「起きましたか、もう大丈夫そうですね。」


またしてもアコニの言葉は丸っとスルーし、アコニの調子を確認する。


「・・・・びっくりさせて悪かったわ。大丈夫よ。あの姿になるとなにも考えなくてもよくなるから、酷い気分の時はたまに使うのよ。」


布団から抜け出し、コップに作った木苺のジュースを注ぐ。

既に日は傾きかけている。


「お昼食べそこなってしまったわ。仕方ないか。そうだ!今日は湖の傍で夜ご飯を食べよう!」

「いいえ、今日は洞窟の方で食べましょう。」


湖ならヨハネスも一緒に食事が出来ると思ったのに、少しだけ残念に思った。


「先に行って用意してます。これお借りしますね。」


そういうとクッションや複数枚布を咥えて行ってしまった。


「本当、嵐のようだわ・・・」



食料を持っていくと、洞窟の入口にヨハネスがいた。


「お待たせ。」

「そんなに待っていませんよ。こちらへどうぞ。」


ヨハネスに案内され、あまり来たことがないがよく知る洞窟へ入っていく。進むにつれて、周囲がキラキラと瞬き、分かれ道を何回か右へ進み、左へ進むと行き止まりになっており、色々な色で洞窟内が輝いていた。


この洞窟は魔法石の洞窟で、キラキラ光っているのが魔法石だ。赤い魔法石なら火、青い魔法石なら水、緑の魔法石なら植物といった具合に、色によって効果が変わる魔法が使えるようになる。

あまり来た事がないのは、アコニには不要だったからだ。

では何故来た事があるかというと、年に1~2回、魔力が高まる日があり、その余分な魔力をこの洞窟で発散するのだ。そうすると、ただの小さな宝石の核が魔法石となって生成される仕組みだった。


「こんなに夥しい量は圧巻ね。」


アコニはいつも発散するだけ発散し、魔法石には興味がなく帰るからだ。


そして中央には、テーブルとイスがあり、テーブルにはアコニの家からの布がかぶさり、椅子にも布がかぶさってクッションが置かれていた。


「これに使ったのね。ふふ、素敵ね。」

「どうぞ、座ってください。」


進められ座ると、布の下が石なのが分かる、テーブルにそっとてを触れるとテーブルも石だ。


「この洞窟の奥って、こんな風になっていたのね、知らなかったわ。」

「いいえ、作りましたから。」

「え!!作ったの?」

「さぁ、食べられるものを持ってきたのでしたら早速夕食にしましょう。」


やっぱりちゃんと答えない。

夕食、一応二人分と思って持ってきたが、やっぱりユニコーンは食べないのだろうか。


「二人分用意したけれど、ヨハネスは食べる?」

「えぇ、頂きましょう。」


すっと人型になり、席へついた。

アコニは自分とヨハネスの前に用意した夕飯を置く。

キノコのソテーにニンジンとアスパラの茹でたもの、大根ステーキ、カボチャのポタージュ、パン、彩りよく配置され、アコニが手を右から左へサッと動かすと全ての食材が焼き立て、作り立てのように湯気とともに香りを運んできた。


「私に気を使って、肉や卵を使いませんでしたね。」

「・・・何のことかしら。」

「でも美味しそうです。いただきます。」

「・・・・いただきます。」


美味しそうと聞き、ホッと胸をなでおろした。


「美味しいですね。素材の味を殺すことなく絶妙な匙加減で味付けがされていますね。」

「ありがとう。気を使ったかいがあるわ。」


安心したら、美味しいと言ってもらい、油断したアコニは満面の笑みを浮かべた。


「は!やだ、私ったら、気分を害したら悪いわね。嬉しかったからつい・・・。」

「?」


ヨハネスは何を謝っているのか理解できず首をかしげる。


「私が笑うと、町の人たちは言うわ。気持ち悪いから笑うなとか、気分が悪くなるとか。ただでさえ気味悪がられている私の笑った顔なんて、見るに堪えない顔なのよ。」


だいたい慣れたが、やっぱり言われたことを思い出すと悲しくなる。直接言われると腹立たしいが。


「私はユニコーンなので人間の醜美の判断は付けられないですが、あの町の人間だけを取ってみても、この国の人間だけをとってみても、美しいとされる人間とアコニはそう大差ないですよ。」

「・・・・それって、目が2つあって、鼻と口が1つあるって意味じゃないわよね。」


ヨハネスはそうとも違うともいわず、黙々と食べている。言うだけ言ってそれ以上は興味がないようだ。


「ふふ、ヨハネスといると、余計な気を使わなくていいわ。」


食べ終わるまで、二人は黙々と食事を楽しんだ。



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