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第1話 魔女アコニとユニコーンのヨハネス

深い深い森の奥、そこに一人の魔女が暮らしていた。


「もう!まったく!何なのよ!あり得ないわ!!」


魔女はものすごく激怒している。


「この私の魔力を使っているっていうのに!これっぽっちしか出さないなんてどうかしているわ!」


魔女の名前はアコニ、真っ黒の髪に真っ黒の瞳、簡素な麻のワンピースに羊毛のストールを纏っている。高飛車なところが人に嫌われているが、高い魔力と効果の高い薬を作っており、薬局が渋々彼女の薬を置いていた。

そして、彼女が現在怒っている理由それは


「もー!イライラするわ!太陽の粉が全然取れてない!!これじゃあ研究用の材料が足りないじゃないのー!」


彼女が早朝に設置した装置に日中太陽の陽を集めて採取した太陽の粉が、予想より少なかったのだった。


「ふん!もういいわ!だったら別の研究に使ってやるんだから!」


結局使う当てはあり、素材は無駄には絶対にしないところも彼女の良いところではあった。


「ふんふんふーん。」


鼻歌交じりに次々に壺に素材を入れていく、傍目からみると適当に見えるが他の魔法使いがやっても同じようにはならないから、彼女の天性なのだ。壺から湯気が出てきてぐつぐつと煮えたぎっている。火は使っていない。


「ふふふん。いいじゃないの。よし!これで完成~!名付けて『腰痛くない―の!』これであのオババをギャフンと言わせてやるんだから!思い出しただけで腹が立つわ!何が「お前のところの薬は腰が痛いのすら取り除けないのか」よ!出来るわよ!」


チョロイ魔女だった。



早速出来上がった薬を瓶に詰めて、バッグに入れて町へ向かう。

箒に跨り、いや、箒じゃなくてただの板に立ち、つま先でトントンとするとフワと浮かび上がった。


「町までよろしく!」


声を掛けると町の方角に向かって勢いよく向かった。

森を抜ける途中で指を左右に指していくと、刺した方角からアコニの元に次々と植物や木の実が飛んでくる。

それを引っ掴むと無造作にバッグに詰め込んだ。


「ふふ。今日も良く取れたわ。ただ、取りつくさないようにしないとね。」



町に着くと木の板から降りる。町の住人は魔女が来るとササっと避ける。


「ふん。何よ、みんな臆病ね。」

「そうさ、みんなお前みたいに強くないからな。」


後ろから声を掛けられ振り返る。


「あら、町長の息子は臆病じゃないってこと?」

「俺は町を守る義務があるんだ。お前何しに来た。今日は薬の配達日じゃないだろう。」


町長の息子アンディが仁王立ちにアコニを睨みつける。アンディは整った顔立ちをしているが、アコニは興味がない。


「まぁね。バーちゃんの腰が痛いって言うから、出来上がったから早速持ってきてあげたのよ。感謝こそされても文句を言われる筋合いはないわね。じゃあね、あなたに用はないのよ。」


アコニはアンディの返事を待たずしてさっさと薬局へ薬を届に向かった。薬屋もアコニを見るとぎゅっと眉を顰めて、アコニから薬を受け取り、代金を渡しもう用はないとばかりに下がってしまった。


「ふん。」


アコニは薬局から出て、パン屋に向かった。

今日はムシャクシャするからやけ食いすると決めていたのだ。ただでさえ町に来るとアコニはイライラするのに、太陽の粉が思ったより手に入らなったことがやっぱり気になっていたのだ。


「今日はイヤな日ね。アンディにも会っちゃうし、そんな日はやけ食いに決まってるわ!」


そういうと歩む足を速めた。


「な、な、なんでよー!」


【 本日定休日 】


「こうなったら、何が何でもやけ食いだけはしてやるんだからぁあ!」


普段は街中で魔法は使わないアコニであるが、やけになったが最後、板を取り出し乱暴に地面に叩きつけ乗っかり、ダンダンと板を踏みつけ勢いよく飛び上がった。


「森へ!」


来るときの倍の速さで森へ向かうと、一直線で目的の場所に向かった。

この森は魔女の住む森として、町の住人は入ってこない代わりに魔女が森を管理していおり、代わりに森ではアコニが自由に採集などができ、それに伴って野生動物が町に行かないように結界を張って森の事は森で完結するようになっていた。


着いた先には湖の畔で、豊富な綺麗な水で沢山の木苺が生っていた。

アコニは指を指揮者のようにふわふわと気に向かって漂わせると、それに合わせて周辺の木に巻き付いていた蔦植物がゆらゆらと解けていき、解けた沢山の蔦を複雑に指を動かし、蔦が編まれて、最終的にカゴが編み上がった。

そしてそれを足元に置くと、次に狙いを定めるのは木苺だ。

また同じように指をふわふわ漂わせると木苺が自分から木からもげ、アコニの元へと飛んできた。

両手の指を合わせると木苺は一纏めになり、手の動きに合わせてカゴに入った。


「ふっふっふっ。これでいいわ。」


カゴを手に持つとまた木の板の上に乗り、爪先でトントンと板を鳴らし、板と共に浮かび上がる。


「家へ」


一言声を掛け、家の方角に飛んでいった。


家に着くとさっさと入り、あとは一気に取りかかった。

指揮者の様に腕全体を動かし、指は細かく、また体は踊っているかのように、全身で作っていく。

袋に入った粉がボールに入り、別のボールに卵を割り入れ泡立て器でかき混ぜられ、窯に火が入り、器にバターが塗られる、それら全てが勝手に、同時進行で行われていた。


そして全ての焼き菓子が焼き上がり、冷菓は保冷庫から取り出され、庭にあるテーブルへ運んだ。


「どうよ!私がやろうと思えば、ちょちょいよ!」


テーブルに並べられた、全てが木苺のタルト、パイ、クッキー、シュークリーム、クラフティ、ムース、ゼリー、ジュースなどなどズラリと並べられた。


「それじゃーいっただっきまーす!」


いつの間にか輝く星空のもと、夜ご飯の菓子を食べる。


「んまーい!さっすが私!宮廷パティシエも夢じゃない!」


パクパクとどんどん色んな種類に手をつける。

しかし、半分も食べきれないうちにギブアップとなってしまう。


「うう、お腹がはちきれるぅ~…」


一人で食べきれる量じゃないので当然だ。


「仕方ない。残りは明日の朝ごはんね。」


座ったまま人差し指をスイっと家の方に示すと、全ての菓子が目的の場所へと飛んでいった。クッキーは空き瓶へ、ゼリーなどは保冷庫へ。


「はぁー、今日は月の粉集めの装置でも設置しようかしら。」


椅子の背もたれに体を預け、クッションの柔らかさを楽しみながら目を閉じ、また指を動かし始めると、家から装置が出てきた。

ガーデンテーブルに置かれた装置を複雑にセットする。


「こんなもんかしらね、ちゃんと採集するのよ!」


アコニはツンと装置をつついた。

装置を設置し終わると魔力をタンクに流し込み、レバーを回す。見た目に変化はないが、ガラス容器の中に薄っすらと銀色に光る粉が溜まっていく。


「まずは順調ね。」


溜まっていくのを確認し、家へ戻ろうとしたとき、木の陰から何かがこちらの様子を伺っている。


「もう、誰よ?こんな時間に。クマゴロウ?ピョンキチ?」


クマゴロウもピョンキチも野生のクマとウサギの事だ。なかなか出てこないので、アコニのほうから行くことにした。


「誰?こんな時間に!クマゴロウでもピョンキチでも、毛皮と肉にしちゃうわよ!」


バッと勢いよく覗くとそこには銀色のたてがみに尻尾、純白の胴の毛、星屑を集めたようなキラキラ輝く瞳、額には鋭い1本の角が伸びていた。


「・・・・・・ユニコーン!」

「私はユニコーンのヨハネスです。」


この森に長い事住んでいたが、ユニコーンに会ったのは初めてだった。あまりにも綺麗なその姿に思わず手を出してしまったが寸でのところで留まった。


「はっ!危ない、触ってしまうところだったわ!」


アコニはサッと手を引っ込めて後ろでギュっと握りしめた。


「大丈夫ですよ。お気になさらず。触られたくない場合は近づきませんから。」

「でも、私が触ってしまったら穢れてしまうわ。私、魔女だもの。」


モジモジと下を見て話す。町の住人から嫌というほど、魔女は穢れだ、余計なものに触るな、早く森へ帰れと言われてきた。

しかしヨハネスは顔を近づけるとアコニの額にキスをした。


「なっ!だ、駄目じゃない!今言ったでしょう!私は魔女だから、穢れちゃう!せっかく綺麗なのに!!」


後ずさりをしながら真っ赤になって叫ぶ。


「ほら、大丈夫ですよ。」


ヨハネスがズイズイと近づいてくる。


「わ、分かったから!分かったからこれ以上近づかないで!!」

「分かっていただけて良かったです。あちらは月の粉を集めているんですか?」

「へ?あ、あぁ、そうよ。月の粉を集めているの、今度研究に使おうと思って。もし研究が成功したら、虫歯治療に使えるわ!虫歯が痛いって泣いていたあのガキンチョを、もう泣かせないんだから!」


ふふん!と胸を張って答える。


「それでしたら…」


ヨハネスが装置に歩みを進めた。そして角の先端で装置をつつくと粉が勢いよく溜まっていき、みるみるガラス瓶いっぱいになった。


「これで研究が出来ますね。」

「え、えぇ、そうね。ありがとう。」


ガラス瓶を抱え唖然とヨハネスを見る。


「と、ところで、ヨハネスはウチに何か御用かしら?薬が必要なの?」


突然の訪問を思い出し、あたふたと要件を聞いた。


「いいえ、薬は必要ありません。」

「じゃあ採集してほしい何か素材とか?」

「いいえ、欲しい素材もありません。」

「じゃあ何に困っているの?」

「いいえ、困ったことはありません。」


欲しいものはないし、困ってもいないとなると、アコニのほうが困ってしまう。今までアコニに用事がある人は、薬だったり、森でしか取れない素材だったり、知恵を貸してほしかったりと、困った時しか話しかけられたことがない。


「そうしたら、なんの御用かしら?」

「用事もありません。」


ますます困ってしまう。


「えぇっと、どうして急に私の家に来たのかしら?」

「アコニの傍に居たほうがいいと思ったからです。」

「それは何故?」


ヨハネスは夜空を見上げて答えてくれなかった。


「・・・・まぁ、いいわ。傍にいたいのなら居てもいいけれど、私には触らないでね。」


夜空を見上げるばかりでそれにも答えない。


「はぁ、じゃあ家に入るわよ。」

「お邪魔します。」


盛大な溜息を吐き、ヨハネスと一緒に家に入っていった。





朝、アコニが息苦しくて目が覚めるとヨハネスの頭が腹部に乗っていた。


「うぅ、お、重い~・・・のいて~・・・」

「・・・ん。おはようございます。アコニ。」



何食わぬ顔をして起き上がったヨハネス。


「ヨハネス、何で私の上で寝てるのよ、重いじゃない!」


伸びをしてスタスタと行ってしまった。


「何なのよー!」



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