第8話 少女・おやつバー・ホテル。街は金があると快適らしい
その街は小高い丘の上にあった。
直径500mくらいの円状に広がった街。
街道はその丘の上の街につながっている。
この街は、都市国家になっていて、街と周りの町や村で国になっている。
同じような都市国家があちこちにあり、同盟関係にある。
街は壁で囲われている訳ではなく、木の柵で囲われている程度。
これなら、夜に乗り越えて侵入することもできそうだ。
もっとも、街に入るのは簡単で身分証明がなくても大丈夫らしい。
馬車に乗ったまま、街に入っていって東の入り口に近くにある広場に止まった。
「ついたぞ」
御者が教えてくれる。
さぁ、活動開始だ。
☆ ☆ ☆
「さて、どこから行こうか」
と言っても、何もしらないからな。
宿はどのあたりにあるんだろうか。
誰か聞ける人はいないかと思って見渡してみると、公園の端っこに子供が座っているのが見える。
10歳くらいかな。うん、あの子に聞いてみるか。
「よおっ」
「?」
子供は顔を上げた。
みすぼらしい恰好をしていたからわからなかったけど、かわいい女の子だな。
顔が小さくて目がくりっとしている。
髪がぼさぼさで、あちこち汚れているけど、ちゃんとお風呂にいれてあげれば、アイドルになれそうなくらいかわいいぞ。
「えっと。この街の宿がどこらへんにあるか知らないか?」
女の子は、無言で手を出してきた。
ん? なんだ?
「宿の場所を知りたいんだが」
やっぱり手を伸ばしたまま、くりっとした目で俺の顔を見つめている。
ははーん。お金を要求しているのか。
だけど、小さいの子にお金を上げるのはどうかな。
あ、そうだ。
馬車の中で食べようと思って買ったおやつがまだ残っていた。
クルミとドライフルーツを固めたバー。
途中の宿場町の露店で売っていたもの。
甘くておいしいから、多めに買っておいたのだ。
おやつバーを女の子の手に載せてあげた。
「!」
がつがつと食べ始めた。
あっという間に食べてしまった。
「おいしい~」
蕩けるような顔だ。
子供が好きそうなものだからな。
「食べたなら、宿のあるところへ案内しろよ」
「はいっ」
すたすたと走っていく。
おい、待てよ。こっちはいい歳なんだから、走れやしないんだ。
と思ったら、余裕で走れた。
そうだった。
18歳の身体になっていたんだ。
それもちゃんと鍛えている身体らしく、軽く走れる。
「こっちだよ」
「ああ」
一緒に走っていく。
すると、ぼろほろな宿屋に着いた。
このあたりは、貧乏人が住んでいるような場所だ。
たぶん、この子の家もこのあたりなんだろう。
さすがに、この宿屋は避けたいな。
金もあることだし。
「もっといい宿屋はないのか?」
「あるよ。こっち」
また走っていくから、ついて行った。
貧乏地区から住宅地区になっていく。
このあたりは庶民が住んでいる場所みたいだ。
でも、ここにはいくつか店はあるけど、宿屋らしいところはない。
しばらく走っていると、商業地区になったようだ。
お店がたくさん並んでいる。
その中に宿屋らしいのがいくつかある。
「どこが一番高い宿屋なのかな」
「こっち」
連れていかれたのは、2階建ての建物。
大きな玄関があり、銀髪のドアボーイが立っている。
確かによさそうな宿屋だ。
「ありがとな」
「あれ、もっと頂戴」
あ、さっきのおやつバーだな。
ふたつ渡してあげた。
「ありがとうっ」
へこってお辞儀すると、走って去っていった。
良く走る子だな。
「プラチナ・ホテルにようこそ」
玄関に向かうと銀髪のドアボーイが声をかけてくる。
なかなかイケメンのドアボーイだな。
「こちらへどうぞ」
ロビーに案内してくれる。
ロビーには、ふくよかな受付嬢がいて、にっこり笑ってくれる。
「お泊りでしょうか?」
「一泊いくらかな」
「スタンダードの部屋で銀貨8枚です」
やはり、そこそこ高いな。
宿場町の宿は大銅貨4枚だったから、20倍だな。
「じゃあ。その部屋を2泊で」
「かしこまりました」
ドアボーイが鍵を受け取って案内してくれるらしい。
ロビーには花が活けてあったり、絵が飾ってあったり。
いい感じのところだ。
部屋もいい感じで、8帖くらいの広さがあり、ベッドはふたつある。
ちゃんと綿入りのマットレスになっていて、クッションもいいから寝やすい感じだ。
「何か、御用はありますでしょうか?」
「今はない」
「それでは、何かございましたら、ロビーの受付嬢にお申し付けください」
「分かった」
ドアボーイは部屋を出て行った。
「さすがは高い宿だけあるな。何もかも快適だ」
ポーションを売りに行くことを考えていたけど、旅の疲れもあって、寝てしまった。
贅沢は敵じゃなくて味方ですね。
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