第64話 悪気はないんだけどね
エタドラ娘は道を歩いている。
街道ではなく、街道から分かれていくつかの集落に向かう道だ。
「おい、お前。そこをどけ!」
「なんで?」
振り向いたら、鎧の男がいた。
今度は10人くらい。
「俺たちは今、行進の訓練中だ。邪魔だ」
「行進なら、道でしなくてもいいんじゃない?」
「お前、正規軍の10人隊に意見するのか?」
「なんかめんどくさい奴がまた来たな~。パ~ンチ」
先頭にいた兜に飾りがついた男。
10人隊の隊長がエタドラ娘に吹っ飛ばされた。
「隊長! なんだこいつ。全員でやってしまえ!」
鎧の男9人がエタドラ娘に向かって槍を構えた。
副隊長の号令と共に槍を突き出して突進する。
エタドラ娘が大きく息を吸い込むと。
ファイヤーブレスが炸裂した。
10人隊は隊長も含めて全滅した。
「あーあ。やっちゃった。人間って弱いんだよね。ただ、沢山いるからめんどくさいな」
仕方ないから、道を外れて草原を北に向かって歩きだした。
その先には街道があるとは知らずに。
☆ ☆ ☆
「どうしたことだ? これは」
「分かりません。たぶん魔法です。それも高レベルの」
大きな焦げ跡が残っている。
他には黒焦げになった死体が10。
それぞれが正規軍の鎧を着ているが、溶けて形がよくわからなくなっている鎧も多い。
「そんなのは見ればわかる。誰がそれをやったのかってことだ」
「山の奴らしかいませんね。正規軍の10人隊を全滅させるなんて」
その状態を見ているのは2人。
別の10人隊の隊長と副隊長だ。
予定時間になっても、行進訓練をしている10人隊が戻ってこないので、不審に思い探しに来たのだ。
「それも、そうだな。魔物が出たという話も聞かないし、きっと馬に乗った山の連中の仕業に違いない」
山の民の中には魔法を使う者もいて、馬に乗ったまま火の魔法も使えると言われている。
なかには、高レベルの魔法使いもいてもおかしくない。
「まずは、このことを伝えるのが先だな」
同僚の10人隊長を失った隊長は、急いで街に向かった。
この事実を連絡して、国としての対応をしてもらうために。
☆ ☆ ☆
「なんだと? 山の民賊はそこまで進攻してきているというのか」
ロンメル男爵が報告を受けて難しい顔になった。
今、軍団を組織している途中だ。
そのために、10人隊ごとに訓練をしている。
最終的には600人まで増える予定だが、いきなり増える訳ではない。
毎週、招集してひとつひとつ訓練を実施する。
それでやっと軍団が完成する。
その前に訓練中の10人隊が壊滅するなど、とんでもない失態だ。
「これは早々に敵を叩く算段をしておかねばなるまいな」
ケレスポーションのおかけで、今年の麦の実りは早く豊作だ。
いつもより、早くからの軍団活動が行える。
元々あった2つの100人隊はすでに山の国の近くまで移動済みだ。
新たに編成した1つ目の100人隊も移動は可能なレベルになっている。
他にも傭兵や冒険者を集めれば100人隊が4つ運用できるだろう。
「半個軍団か」
800人が軍団の定数。
だから、まだ半分しか集まっていない。
「よし。山の国攻略の計画を立てるぞ」
いよいよ、本格的に戦争が始まるのだ。
いよいよ、戦争への流れが明確になってきました。
予定では100話完結なんです。よろしくです。




