第61話 帳簿・ノルマ・戦争準備。ポーション作りだけの生活が始まる
「ほら、素材をもってきたわ」
大き目の離れ部屋では、俺ひとりでポーションづくりをしている。
ロザリアに聞いたところではビーナス商会の帳簿を押さえられて、俺のポーション生産可能数が知られてしまっているということ。
「しょうがないな」
まずは俺が作っているのは、マナポーションだ。
それも、最上級のだ。
アトリエにいる薬師達でもマナポーションは作れるようになっているが、だいたいが普通品質のもの。
せいぜい、メルとリルがシングルスターが付く高品質のが作れるくらいだ。
「アキラならもっといいのが作れるとバレているわ」
たしかにな。
冒険者ギルドに一度出荷したことがあるな。
ダブルスターの超品質のものをな。
衛兵が持ってきた魔力草の束。
それをバラシて箱に入れる。
ポーション作成のときは、魔力草4本を右手に取ってマナポーションを作る。
うん、ダブルスター級のマナポーション。
これくらいは余裕で作れる。
そういえば、最近、本気でポーションを作りまくったことはなかったな。
だけど、最初から作ると魔力を使うな。
やっぱり、瓶はちゃんと利用しよう。
瓶と魔力草と純水。
薬師が普通にマナポーションを作るときには使う素材は用意されている。
それから俺はダブルスター級のマナポーションを作りまくった。
「なかなか、真面目にやっているようだな」
「誰だ、お前は」
衛兵と共に入ってきた男。
私は貴族です、という服装をしているな。
センスはないと思うが。
「俺はロンメル男爵だ」
やっぱり、貴族か。
貴族の中では最下級だな。
「今、俺は軍団の司令官に任命された」
「それはおめでとう」
「ああ。お前も協力して欲しい」
「やってるよ」
すでにダブルスター級のマナポーションを7本作った。
「これがお前の作ったマナポーションか。輝きが違うな」
「全部ダブルスター級だ。俺が作ればそのくらいになる」
「本当にすごいんだな。俺の軍団のためにたくさん作ってくれよ」
軍団というのは、この都市国家の一番大きな規模の隊。
100人隊が8つ集まって1つの軍団になる。
軍隊に所属できる15歳から55歳の男子がこの都市国家には1000人ほどいる。
軍団を作るには、そのほとんどを招集しなければいけない。
「今はまだ、準備段階だからな。集団訓練をしているところだ」
ロンメル男爵によると、市民からは600人招集して、残りは傭兵と冒険者を使うらしい。
「そのためにも、お前のポーションは重要だ」
それは本当に思っているようだ。
だいたい、今回の攻勢も俺のポーションありきな状態だ。
「あと、ヴァルカンポーションもよろしくな。あれはいい」
武器の質は当然、軍隊の質にもつながる。
ヴァルカンポーションを使って、高性能な武器を作りまくるつもりだな。
「そうだな。ヴァルカンポーションは毎日3本作れ。それでも10人隊長に行き渡るくらいだけどな」
あれは、作るのが大変なレベル2ポーションだ。
マナポーションを消費して作るしかないな。
「この戦争が終われば、お前のとこのオーナーは第1等武勲章を授与される予定だ。せいぜいがんばるんだな」
勲章か。
そんなもの、もらってうれしいものなのか。
「お前にも第3等くらいの勲章からもらえるかもしれないぞ」
アキラは知らなかった。
アキラにとって勲章というのは、あまり実感があるものではない。
しかし、この世界の貴族は名誉というのが行動原理だったりする。
一番わかりやすい名誉が勲章。
その勲章のためなら戦争だってなんだってするのが貴族だ。
「素材は足りているか? 必要ならいくらでも用意するぞ」
「まだまだ足りない。もっと、もってきてくれ」
「わかった。ロザリアと相談して持ってきてやる」
素材で困ることはなさそうだ。
とにかく、ガンガンとポーションをつくりまくってやろう。
もしかしたらスキルのレベルがあがるかもしれないからな。
「そうだ。もう少ししたら、お前の奴隷がふたり、ここに来るぞ」
「そうか」
「あいつらは、お前が拉致されたとポーションづくりを拒否しているからな。お前の命令しか聞かないと言っている」
「それはそうだ。俺の奴隷なんだからな」
そうか。
メルとリルも、ここに来るのか。
本気で高品質なポーションを作りまくってやるぞ。




