第57話 山脈・狭い平野・集落。ナガの国は楽園か
「ナガの国はふたつの山脈に挟まれた細長い国なの」
アテナイ都市国家がある街道の南にあるサヌキン山脈。
さらに南にあるソード山脈。
その間の谷間に、ナガの国はある。
一番低いところにナガ川が流れていてその周りに狭い平野がある。
国と言っても、都市がある訳ではなく、集落があちこちに点在していて、集落の首長が集まった首長院があって国全体のことを決めている。
自然が豊かな場所で、狩猟、牧畜、採取、農耕とぞれぞれの集落によって産業にはさまざまなものがある。
12年前。
ナガの国と都市国家アテナイの間で戦争が起きた。
戦争の原因はなんだったのか、あいまいなまま戦争は広がっていった。
当時建国20年だったアテナイは影響範囲を広げるために、山、そして、山向こうに進軍していた。
その際に、襲撃を受けて戦争が始まった。
戦争は3年に渡り継続した。
毎年春になると、麦が収穫できて戦争の備蓄が完了する。
3度の春からの攻勢を経て、アテナイは勝利した。
今もナガの国は、賠償金を払い続けている。
不可侵の約束を続けていくために。
「私は最初の10年前に襲撃されたナガの国の集落で暮らしていたの」
「そうか」
「5歳の時に捕虜になり、お姉ちゃん以外は家族はみんな死んだわ」
「・・・」
そういえば、メルとリルはちょっと顔の感じが違う。
西洋人ぽい彫が深い人が多い中で、東洋人とのハーフみたいな感じだ。
「私とお姉ちゃんは奴隷になって10年生きてきたわ」
「大変だったわね」
ロザリアが同情している。
だけど、俺は奴隷がどんな生活をしてきたのか、想像できずにいる。
「アキラさんには感謝しているの。私とお姉ちゃんを奴隷なのに普通の薬師と同じ扱いをしてくれるから」
いや。
同じ扱いなんてしていないぞ。
お前らは奴隷だから給料は無しだ。
「普通に食事させてもらうだけで、信じられないの」
「そ、そうなのか?」
他のとこの奴隷は、奴隷部屋で寝起きして奴隷用の食事をしている。
話には聞いているが、それがどんなものなのか、分かっていないな。
「5歳のころ、薬師をしていた婆ちゃんが言ってた。山の民は喰うものがなくなると、里に来て畑を荒らすって」
「やっぱり、荒らすのか。今回と同じに」
「同じじゃないの。畑を荒らすと言っても全部を強奪したりしない。せいぜい1/3までだって」
「それでか」
「そうよ。本当に困るまで奪うってことはしないって、言ってたわ。それ、山の民じゃないわ。こっち側の誰かじゃない?」
なるほど。
都市国家の襲撃の仕方は徹底的なのだろう。
メルの住んでいた集落を襲ったときもそう。
男や老人はすべて殺して、若い女と子供は奴隷にする。
残忍な攻撃をするのが、都市国家か。
「すると、別の都市国家が襲っているというのか?」
「そうじゃないの?」
「同じ同盟だろ。都市国家同士は」
「ケレスポーションで豊作になっているのが気に入らないでしょ」
☆ ☆ ☆
「どうだ? うまくいっているか」
ロンメル男爵が参謀の小男に聞く。
「ええ。ばっちりです。山の民の兵士くずれを使っているから、山の民の仕業にしか見えません」
「よし。まだ、防衛隊の配置換えには時間がかかる。もっと、あちこち襲ってしまえ」
「了解です」
ふたりの男は、笑いあっていた。




