第56話 麦畑・山の民・奴隷化。都市国家を囲む国々
「アキラ大変よ」
また、ロザリアの大変がきた。
俺専用のアトリエに来るときの2度に一度は「大変よ」で入ってくるな。
「ケレスポーションを使った麦畑が山の民に襲われたの」
「へっ?」
いろいろとわからない。
まずは、山の民ってなんだ?
だいたい麦畑が襲われるってどういうことだ?
「山の民は、街道の南に沿って連なる山脈に住んでいる民族よ。アワ国と名乗っているけど、ちゃんとした国になっていない野蛮人達よ」
街から遠くに見える山脈。
あそこに人が住んでいるのか。
それも野蛮人。
「山の民はときどき農村を襲って、麦とかを勝手に収穫していくのよ」
「あー、そうか。ケレスポーションを使っている村はどこも豊作になっているからな」
「何、気楽なことを言ってるのよ。農家にとっては死活問題よ」
「そうなのか?」
勝手に収穫していくと聞いたから、野菜泥棒みたいなものだと思った。
でも、全然規模が違って、馬に乗った武装した集団がいきなり現れて、麦を収穫して帰っていく。
被害にあった麦畑は裸にされて、まったく収穫ができなくなっているらしい。
「すいません。入っていい?」
「おー、いいぞ」
そうだった。
今日はメルがポーションを見せに来ると言っていた。
マナポーションの品質がいいのができたらしいからな。
「あ、ロザリアさん。お邪魔かな?」
「いいわよ。単に『大変よ』って言いにきただけだから」
「なにが大変なの?」
ロザリアが嬉しそうに「大変よ」の話を繰り返して言っている。
どうも、ロザリアは「大変よ」の話をするのが好きみたいだ。
要は噂をばらまくのが大好きってことだろう。
変な噂の元をつかまされないように気をつけないとね。
「それ、山の民じゃないと思う」
あれ?
珍しくメルが反発している。
なんか、すごく怒っている感じがする。
「山の民は、そんな全部を刈り取ることはしない」
「どういうこと?」
「確かに山の民は、食料がなくなると近くの農村を襲うけど、そのときも多くて1/3までしか奪わないの」
「どうして、そんなこと言えるの?」
メルはちょっと考えているみたいだ。
どう説明したらいいのかって考えているみたいだな。
「山の民は、相手を滅ぼそうとすることはしない。それをすると、復讐されることを知っているの」
それからメルの山の民の知識がずっと続いた。
ずいぶんと詳しいんだな。
「そうか。メルは山向こうの民族だったわね」
「うん。私は山向こうにあるナガの国の出身なの」
また、新しい国が出てきたぞ。
山の民がアワ国で、山向こうの民がナガ国。
この街の周辺しか知らないからな俺は。
「あ。もしかして、ナガの国侵攻の時?」
「うん。そのとき奴隷になったの」
そういえば、なぜ、メルが奴隷になってたのか。
そんな話をしたことがなかったな。
それからメルは奴隷になる前の話をし始めた。




