第53話 樹海・種子弾・素材。第3層はただの森林ではない
「この階層になると、俺たちも本気にならないとな」
ラウル、サイモン、ミックといつものパーティでダンジョンに潜っている。
今は第3層。
この階層は樹海となっている。
うっそうとした森林が延々と続くのだ。
もっとも、森林と言っても、ダンジョンの中だから太陽が届く訳ではない。
ダンジョンの中の魔素をエネルギー源とした樹木がうっそうと茂っている。
ただの樹木でないのは、前に立ちはだかる樹木を見ればわかる。
動く樹、大樹獣だ。
見た目は大きな木の幹を切ったものに見える。
そこから横に何本も枝が生えている。
根っこは、土の下に伸びているのではなく、地表に広がっている。
根っこを複雑に動かして、こっちに近づいてくる。
ラウルとサイモンが前に出た。
ふたりとも、俺が作ったヴァルカン・ポーションで強化した剣を持つ。
さらに、俺製のスタミナポーションで24時間戦える状態だ。
ザクッ。
ラウルの大剣が大樹獣を袈裟斬りにしようとするが、枝に邪魔されてそれた。
ザザッ。
サイモンの長剣も同じように枝に邪魔をされる。
その間に、後ろから種子弾が飛んできた。
花砲台と呼ばれる大量の花を咲かせた魔植物が花の中心から種子を飛ばしてくる。
「ちっ、痛ぇな!」
「むかつきますね。あの花」
大きなダメージではないが、ふたりは体力を削られていく。
「ファイヤーストーム」
火属性が得意な女魔法使いミックは、この階層では主役になる。
魔植物のほとんどは、火が弱点だ。
大樹獣と花砲台を同時に倒した。
「しかし、この階層でこんなに長くいられるのは、アキラのおかげだな」
「ああ。ミックの魔法が遠慮なく使えるのがすごいです」
今回のダンジョン第3層の攻略で一番重視したのが、マナポーションだ。
小さな瓶に入ったダブルスター級マナポーションでファイヤーストームが3回使える魔力が溜まる。
それを20本もってきている。
事実上、無制限に使えるレベルだ。
「いや、ミックが火魔法を使ってくれるからだぞ」
「それもあるがな」
「こんなに魔法をガンガン使ったの、初めて。気持ちいいっ」
この樹海ですでに新しいポーション素材を見つけた。
大樹獣を火魔法で倒すとドロップするアイテム、樹化石。
一発の火魔法で倒さないとドロップしないところを見ると、あまり出回っていないアイテムだ。
それがたくさん欲しくて、大樹獣が良く現れる場所をぐるぐると回っている。
今は、全部で12個の樹化石をゲットした。
そろそろいいかな。
戻るとするか。
「おーい。そろそろ帰るか」
「待ってくれ。あいつが来たぞ」
岩樹獣が3匹現れた。
大樹獣と似た魔植物だが、樹皮が岩石化していて火魔法の効きが悪い。
そのうえ、樹化石をドロップしないから、ミックの出番はない。
「サイモン、行くぞ」
「もちろんです、ラウル」
やっと出番になった剣士二人は岩樹獣に向かっていった。
☆ ☆ ☆
ダンジョンから帰って、俺専用のアトリエにいる。
ダンジョン第3層でゲットしたのは、12個の樹化石。
どんなポーションになるのか。
楽しみだ。
ポーションスクリーンで確認すると、2レベルポーションらしい。
2レベルポーションは、神様の名前が付いたポーションだ。
樹化石ひとつで出来るのが、ケレスポーション。
ケレスは豊穣の女神で、農業神だ。
ケレスポーションの効果は、水に1000倍に薄めたケレスポーションを混ぜて、それを畑に撒く。
すると、豊作が約束されるらしい。
要は肥料ということか?
実際に試してみないとわからないポーションだな。
対象になる畑は、1haというから3000坪くらいか。
この国の農地なら平均的な農家が耕している畑が1本のケレスポーションで豊作化する。
なかなか、便利なポーションだな。




