第52話 都市国家・街道・大陸。春になると戦争になるのか
今、アキラがいる都市は、その都市と周りの村や町を含めて都市国家になっている。
都市国家の名前はアテナイ。
都市の名前も同じくアテナイだ。
街道でつながる隣の街は別の都市国家になっており、街道によっていくつかの都市国家が連なっている。
この街道はフォーランド大陸の北海岸を海岸沿いに引かれている。
フォーランド大陸の北海岸の先は、ミディテレニア海と呼ばれる内海だ。
ミディテレニア海は3つの大陸、フォーランド大陸、セントラル大陸、イズモード大陸の3つの大陸に囲まれている。
ミディテレニア海は内海なので波は穏やかで海上交易の舞台になっている。
フォーランド大陸の北岸に連なる都市国家群は、セントラル大陸のミディテレニア海に面した大港都市カルタグを盟主としたカルタグ同盟を形成している。
フォーランド大陸は北岸を南に向かって下がっていくと、サヌーキン山脈が東西に走り、北岸を内陸と分けている。
フォーランド大陸の文化は、ミディテレニア海に面する北岸と内陸では全く異なっていて、北岸の都市国家群は高度な文化を持ち、発展を続けているのに比べて
サヌーキン山脈を越えた内陸では昔ながらの生活をする民族がいくつかの国々を作っている。
都市アテナイは、出来上がって50年の若い都市だ。
母都市は盟主カルタグ港都市。カルタグ港都市の増えすぎた市民を新天地に送り出すためら造られたのが都市アテナイだ。
街道で連なる都市国家の多くは同じような形で誕生していて、街道が伸びるごとに都市国家が増えていく。
今は、都市アテナイの東に2つの都市国家ができていて、街道はフォーランド大陸の東に至っている。
北岸にある都市国家群は同じ同盟に所属することから、小さな紛争は時々起きるが、戦争に発展することは同盟ができて300年ほどは起きていない。
しかし、サヌーキン山脈には、山岳民族が作るアワン国があり、さらにその南の草原にはナガン国がある。
それぞれの国は支配している領域が広く人口は都市国家の10倍以上になる。
このふたつの国、アワン国とナガン国は、カルタグ同盟に敵対している。
春になると都市の周りの村が襲われ、麦をはじめとする収穫物が奪われる。
それを防ぐために、防衛部隊を配置しているが敵は小型の馬にのりやってくるので対応が後手後手に回りがちだ。
都市国家アテナイにおいても、同じことで春の略奪をどう防ぐかが、国家の重大課題になっている。
この問題を話し合うために、アテナイの貴族院が招集された。
貴族院は、アテナイの最高権力であり、7人の貴族によって構成される。
公爵が2人いて、伯爵が3人、男爵が2人だ。
すべての貴族は盟主カルタグにより授けられ、都市国家を運営する権力を持つ。
☆ ☆ ☆
アテナイ貴族院に参加した7人の貴族の間で略奪対策の話し合いで激論が交わされていた。
「今年は内陸部は冬の間、雨が少なかったと聞いている。農作物があまり収穫できないだろうと予測されている」
「その通り。このままいくと、今年の春は大量略奪が起きると考えられている」
貴族院では、ふたりの公爵が2つの派閥を持ち、多くの場合対立している。
略奪対策においても、主戦派のバルテン公爵に対して、専守防衛派のハイゼン公爵と対立している。
「だからこそ、その前に野蛮国の奴らを叩いておく。それが略奪を減らす一番の方法だ」
「まぁ、待て。攻撃をするとなると市民を招集せねばなるまい。市民に損害が出ると税収にも響くぞ」
バルテン公爵が攻勢を主張すれば、ハイゼン公爵が反対を表明する。
現在は、まだ略奪が起きている訳でもないから、専守防衛のハイゼン公爵が優勢だ。
他の貴族は、戦争を避けたいというのが本音。
費用ばかりかかって、領土が増える訳でもない。
できれば、戦争は少ないほうがいいと思っているのだ。
「情報によると、山岳民族のアワン国が騎馬隊を猛訓練していると言うぞ」
「それは、いつものことではないですかな?」
攻勢賛成派は、バルテン公爵の腰巾着と呼ばれるロンメル男爵だけで2票、反対は5票。
投票に持ち込むと負けると分かっているから、攻勢の決議は行われず、貴族院は閉会となった。
☆ ☆ ☆
「やっぱりダメだったか」
「そのようですね」
ロンメル男爵は、軍師の小男と話している。
「まぁ、いい。平和ズレした奴らは痛い目を見ないとわからないのだ」
「そうですね。例の作戦、進めましょう」
「そうだな。そろそろ、早生種の麦なら、実り始めるだろう」
「はい。再来週には」
「では2週間後。決行しろ!」




