第50話 値下げ・独断・裏側。攻勢に出るタイミング
魔草はダンジョンで採取する冒険者が増えて、安定供給になった。
薬草はビーナス商会で雇った子供達と護衛の冒険者の採取チームを作った。
ヒーリング・ポーションとマナポーション。
どっちも、需要に応えるだけの生産体制が整ったぞ。
「ロザリア。値下げするぞ」
「えっ? 何を?」
「ヒーリングとマナだ。うちのメイン商品」
「ええっ、なんで? 売れているんだから値下げなんて必要ないわ」
反対されてしまった。
こっちの世界では、値下げというのは売れないときにするものだというのが常識だという。
だけど、モノ余りの日本から転生してきた俺は別の常識がある。
「甘いな。値段を下げれば、もっと売れるだろう」
「それはそうだけど、利益が減ってしまうわ」
「それはちょっと売れる数が増えた場合だろう」
「そんな。売れる数は値下げしてもそんなに増えないわ」
そこが違うんだな。
今や、ビーナス商会のポーションは、この都市国家だけで売れている訳ではない。
行商人が買って別の街でも売っている。
値段が下がれば、行商人がさらに遠くの街で売っても儲けが出るようになる。
もしかしたら、2倍くらいになるかもしれない。
「いや。ビーナス商会のポーションは高品質を維持したまま、値段を2割引きにする」
「ちょっと!」
「それが嫌なら、俺はポーションづくりを引退するぞ」
本来、ビーナス商会の会頭はロザリアだ。
決定権はロザリアにある。
だけど、俺が儲かるポーションを作り続けている限り、
ロザリア以上の決定権を持っているようなものだ。
今回の値下げは、俺の一存で決行した。
☆ ☆ ☆
「すいません。冒険者ギルドに納入するポーション、増やしてくれませんか?」
「ちょっと待てよ。それより、商業ギルドが先だろう。メンバーの行商人から足りないってクレームがすごいんだ」
「まぁまぁ。大丈夫だわ。それを見越して、在庫はたくさんありますから」
ロザリアが、嬉しそうな営業スマイルで対応している。
冒険者ギルドでポーションが売れているのは、ひとつはメンバーの増加。
この街のダンジョンが儲かると聞いた、他の街で活動していた冒険者が集まってきていた。
さらに、ずっとこの街で活動していた冒険者もランクアップして、
ポーションを活用したダンジョン攻略をするパーティが多くなった。
それだけではなく、別の街の冒険者ギルドから直接ポーションの買い付けが来るようになった。
冒険者ギルドは、商業ギルドではなく、同じ冒険者ギルドに頼んできたようだ。
ヒーリングポーションも、マナポーションも、あっという間に売上が2倍を超えるようになってしまった。
それでも足りなくて、ギルドの仕入れは毎週増え続けている。
☆ ☆ ☆
「どうだ? 儲かるようになっただろう」
「アキラ様。反対したロザリアを叱ってください」
俺はSMには興味ないぞ。
しかし、いつも強気なロザリアが下手に出ると、なんか気持ちがいいな。
「あとは、薬師の増強だな」
「今は、マナポーション大量投入でなんとか増産をしている状態よ。でも、安心して。薬師が続々とこの街に来ているの」
「どういうことだ?」
「うちの薬師の待遇が別格ってことよ」
「そうなのか?」
「薬師は元々、生活ギリギリくらいしかお金が稼げない仕事だったの。うちの薬師は下手な商人なんかより、ずっと稼いでいるわ」
うんうん。
生産職の人たちがいい生活ができるようになる。
それは大切なことだ。
やる気が出るから、品質も生産数も上がる。
そして人員も簡単に増える。
いいことだらけだ。
「楽しくなってきたぞ」
「本当に」
ロザリアは本当にビジネス大好きなんだな。
瞳がキラキラしているぞ。
もしかしたら、ビーナスポーションより、
ビジネスの成功の方が美しさをアップさせるのかもな。
ロザリアは。
☆ ☆ ☆
「どうだ? 軍隊用のポーションは集まっているか?」
「順調ですよ。行商人を使って集めていますから。ビーナス商会は気づいていないはずです」
「ビーナス商会は金でなんとかなるが、オーナーのカターニャ伯爵には気づかれないようにしろよ」
「もちろんですとも。専守防衛派のトップですから。伯爵の気づかないところで軍備増強を進めています」
「まだ、貴族院の主流派は専守防衛派だ。それを逆転するためにも、増強しないとな」
「戦争はいつ頃になると考えていますか?」
「春だな。麦がたわわに実るころ。あいつらは間違いなく奪いに来る」
「今年の春は楽しみですね」
将軍と参謀は笑いあった。




