第49話 包囲・試し斬り・新素材。ダンジョン第2層はひとりで無双
「なぁ、お前達。あっちを手伝わなくていいのか?」
「いいの、いいの。ラウル一人でやらせておけば」
「そうですね。私達は必要ないですね」
剣士のサイモンと、女魔法使いのミック。
ふたりは、ダンジョン第2層でなぜか俺と一緒に採取をしている。
ひとりラウルだけが離れたところで、7匹の魔狼に囲まれている。
「しかし、一人で7匹はまずいんじゃないか」
「大丈夫だって言うから大丈夫なんでしょ。あれでやられたとしたら自業自得よ」
「そうですね。自分の力を過信したらダメなんですよ。ダンジョンでは」
サイモンとミックが冷たく言うには理由がある。
ヴァルカンポーションで鍛えた大剣の威力がすごく、第1層では敵無しだった。
そのうえ、スタミナポーションの実験をするためにラウルに飲ませたら、さらに無敵モードになってしまった。
まぁ、24時間戦えるポーションだからな。
「つまらん。第2層は俺だけでいい」
そう宣言して、手出しするなと言われていた。
「ほら、そこ。魔草があるぞ」
「あ、本当。しかし、魔草採取なんて久しぶりね」
「私もそうですよ。ダンジョンの中では戦うのが目的でしたから」
「すまんな。手伝わせて」
「いいのよ。どうせ戦いはあいつ一人でいいらしいから」
すでに魔狼は2匹倒れて、残り5匹になっている。
このダンジョンの第2層は広い空洞になっていて、湿地のように小さな水たまりがたくさんある。
ただし、下が泥でなく硬い岩だから歩くのは楽だ。
第一層より、より強く魔素が光っているから、月明りに照らされているくらいには明るい。
「しかし、このあたりにはたくさん魔草があるな。本気で採取したら、一時間何束も採取できるな」
「そうね。私達くらいのランクの冒険者でも、最近はダンジョンに魔草採取に来ているパーティもいるわ」
「アキラさんの商会が高く魔草を買い上げてくれるからですね」
魔草はマナポーションの素材だから、高く買い取りをしてより多くの冒険者に集めてもらっている。
最近は、新しい薬師奴隷、リルによってマナポーション生産も始まった。
メルをはじめ、若い薬師にマナポーションの作り方を指導している。
もちろん、俺もある程度は作るが、マナポーション生産の主力はビーナス・アトリエに移りつつある。
「おっ、ちょっとあっちに行っていいか」
「ええ。一緒にいくわ」
「私はもうちょっとここで魔草を採取してから行きます」
あったぞ、何かが。
今までに見たことがないような輝き方をしている。
今の俺が作れるポーションの素材になるものがある場所は輝いてみえる。
それも素材によって違いがあるから、まったく新しい素材がある場所は輝きを見ればわかる。
ダンジョンの第2層にも新ポーション用の素材があるらしい。
「なんだ、これ」
水たまりの中で、コマみたいな物がクルクルと回っている。
手を伸ばして、採ってみる。
『くるくる石』
なんか、そんな名前の石みたい。
新ポーションの素材なのは間違いないな。
「面白いものですね」
「本当、そんなのダンジョンの中にあったのね。知らなかったわ」
意外と知られていないらしい。
まぁ、水たまりひとつひとつ見て歩いたりしないか、普通は。
うん、新素材もゲットしたし、魔草は嫌というほど採取できたし。
そろそろ帰るとするか。
「おーい。まだか?」
「おう、もうちょっとだ」
最後の魔狼を正面斬りで真っ二つにしたラウルが応える。
これでラウルの第2層の戦果は。
ゴブリン 12匹
魔狼 7匹
火熊 2匹
三角猪 3匹
試し斬りとしては十分だろう。
さて、帰るとするか。
☆ ☆ ☆
「それは良い話だな」
「はい。そんなに簡単に良い剣が作れるとなると、我が戦力は相当上がるな」
「はい。どのくらい、そのポーションを作れるのは不明ですが」
「カターニャ伯爵の傘下の男だな。ちょっとそこが面倒なことだな」
「はい。ですから、冒険者のふりをしてポーションを作らせようかと」
「なんなら、うちの商会を使うか? 武器の取引ならシェアNo.1だからな」
「はい。うまく絡めて、戦争の色を出さないように、あのポーション量産をやらせましょう」
いかにも武将という風貌の男と、ずる賢い作戦を立てるのが得意に見える軍師の恰好の男がうなずきあった。




