第48話 剣強化・都市伝説・試し斬り。ダンジョン攻略の準備だ
「そんなポーションは聞いたことないぞ」
「だから、俺のオリジナルなんだって」
ダンジョン第2層の攻略を戦闘リーダーのラウルと話していたら、剣の鍛えなおしの話になった。
ラウルが持つ、大剣がずいぶんと劣化してしまっているらしい。
この世界の剣というのは、斬るというより、ぶった切るという感じ。
甲羅や堅い革を持つ魔物も多い。
使っているうちに刃がつぶれてきてしまう。
だから、定期的に鍛えなおしが必要となる。
一度、赤くなるほど熱してハンマーで叩く。
それを何度もやって刃を鋭くしていく。
それが鍛えなおしだ。
「それなら、良いポーションがあるぞ」
出来立てポーションの効果を知りたくて、ヴァルカンポーションの話をしてみた。
その結果、そんなポーションあるかっ、って感じになってしまった。
「まぁ、今回は無料で使わせてやるから安心しろ」
「安心とかそういう問題じゃなくてな。もし、俺の大剣がおかしなことになったら、買いなおしてくれよな」
ラウルの大剣は1本で金貨8枚もする高級品。
鍛えなおしでも金貨1枚かかる。
「まぁ、結果が悪かったら新しいのを買ってやろう」
「約束だからな」
いままでの経験で、そんなことが起きないことは知っている。
そこは安心だ。
ただ、どのくらい効果があるものなのか。
だいたい鍛えなおしで効果を発揮するものなのか。
分からないことだらけだ。
「おーい。おっちゃん、来たぞ」
街からちょっと離れたところに、その鍛冶屋はあった。
剣を作れるような本格的な鍛冶屋は、街中にはない。
音がうるさくて迷惑だからだ。
「おー、鍛えなおしか?」
背が低くて腕の筋肉がやたら盛り上がっている鍛冶親父。
茶色い髪は長髪だ。
綺麗なチョコレート色に焼けている。
「ああ。それとひとつお願いがあってな」
ラウルがポーション使用を依頼している。
鍛冶親父はいつもは気さくな男だが、鍛冶のことで下手なことを言うと怒り出す。
そうなると手に負えないから、ラウルが了解をもらうことになっている。
「なんだ? もしかして、ヴァルカン・ポーションか?」
「あ、それだ。知っているのか?」
正しいポーションの名前を言われて、思わず俺が応えてしまった。
「ははは。まさか、ヴァルカン・ポーションだって? ははは」
なんかウケているぞ。
「鍛冶の世界では都市伝説になっているポーションでな。仕上げの最終段階に使うとクオリティが一気に上がると言われてな」
「都市伝説かよ!」
「そのポーション、どこで手に入れたんだ? 怪しげな道具だろう」
「いや、俺が作った」
「ははは。それはいい。天才ポーション師ってことか」
都市伝説では、天才ポーション師がヴァルカンポーションを作ったとなっているらしい。
もしかして、先輩がいたのかもな。
「まぁいい。本物がどうか、試してやる」
鍛冶親父は冗談に乗った気で使ってみるらしい。
すぐに鍛えなおしは始まった。
真っ赤に燃えている炉に、大剣を入れてしばらく待つ。
刃の部分が真っ赤になっていく。
「しかし、熱いな」
「そういうな。鍛冶屋にとってはいつものことだがな」
大きな金床を用意して、そのうえに赤くなった大剣を置く。
鍛冶親父は右手に金槌を持って、思いっきり叩く。
盛大に火花が散る。
「うわっ、あち」
「危ないから、離れていろ」
「先に言えよな」
すこし離れてみているラウルが笑っている。
分かっていやがったな、こいつ。
金槌で叩いて大剣の刃をシャープにしていく。
また炉にくべて赤くして叩く。
何度も繰り返して、最後は小さめの金槌で打つ。
仕上げ作業なのだろう。
「これで普通は終わりだ。この後は研ぎ作業になる」
「ポーションはいつ使うんだ?」
「もう一度火入れして、ポーションを掛けるか」
「そうしてみてくれ」
細かい使い方は分からないから、鍛冶親父に任せよう。
真っ赤になった大剣の刃の部分にポーションを掛ける。
じゅわーーという音と共に蒸発する。
大剣が光出したぞ。
真っ赤ではなく、青白い光だ。
「おおーー。都市伝説のままだ。もしかして本物か」
鍛冶親父が驚いている。
もちろん、俺もだが。
しばらく待つと光が消える。
「どうだ?」
「すげえぞ、これ。どうなっているんだ?」
鍛冶親父が信じられないという顔になった。
ラウルも同じ顔だ。
「まるで一流の研ぎ師に研いでもらった後のようじゃないか」
「ほんとうだな。曇りひとつない」
「切れ味、よさそうだな。さすが俺のポーション」
ちょっとドヤ顔をしてみた。
ふたりとも大剣から目を離せないでいるから、気が付いてもらえないのが寂しい。
「おい、親父。試し斬りをしたい。用意してくれるか」
「もちろんだ。これなら、藁じゃダメだな。木? いや陶器でもいけるんじゃないか」
「さすがに陶器はまずいだろう。刃こぼれするぞ」
「いや。ワシのみるところ、こいつなら大丈夫だ。いけるぞ」
陶器の試し斬り。いいな。
もしかしたら鉄でも斬れるかもしれないな。
「ほら、用意したぞ」
試し斬りは人形かと思ったら、かわいらしい陶器のアヒルだった。
太い木の棒の先につけられている。
「よし。いくぞ」
俺と鍛冶親父が見守る中、大剣を上段に構えたラウル。
そのまま斜めに振り下ろす。
ざっ、という音がして、陶器のアヒルは斜めに真っ二つになった。
「ば、ばかな」
「反動が全くないぞ、この大剣は!」
ラウルの大剣はとんでもない性能にアップしたみたいだ。
同時に俺のヴァルカンポーションもとんでもない評価をもらうことになった。




