第40話 売上・危険・素材。心配するのはなぜなのか?
「本当にダンジョンへ行く気?」
「ああ。ダンジョンはポーション素材の宝庫だ。自分で確認しないと気が済まない」
「ビーナス商会はね。アキラが作るポーションで回っているのよ。アキラがやられたら崩壊よ」
ビーナス商会の売り上げは、8人いる薬師達が作るポーションが中心になっている。
ただし、薬師達が大量にポーションを作れるのはアキラの作るマナポーションのおかげだ。
もし、アキラがいなくなってマナポーションが作れなくなったら、生産数は半減どころじゃない。
「ダンジョンに行っている連中からもらった素材でなんと4つも新ポーションができたんだ。絶対もっとあるはずなんだ」
「だから」
最近は、ロザリアと話すといつも、こんな感じだ。
ダンジョンが危険な場所だということは、もちろん承知だ。
しかし、そこに必要な素材があると分かっていながら、行かないということは生産職を極める俺にとってできない選択だ。
「だいたい、その3つのポーションだって、役に立つものだとは思えないわ」
新しく作れるようになった4つのポーション。
たしかに、すぐに儲かるものは少ない。
ただ、ダンジョンに行くと決めた理由のひとつも、新しい4つのポーションだ。
1つ目が、爆発ポーション。
白濁草と呼ばれるダンジョンで採取できる草で作れるレベル1のポーション。
効果は、爆発すること。
丸い玉の中に封入する形でポーションが入っていて、投げつけて割れると爆発する。
大きさは、元になる白濁草の数によって調整できる。
これがあれば、攻撃力がほぼない俺でも、多少は役立つことができるだろう。
2つ目は、ヘルメス・ポーション。
紅孔雀石と呼ばれる石で、ダンジョンの中に落ちている半輝石だ。
輝石は宝石の原石で、半輝石は宝石ほど高価ではないが磨かれて装飾等に使われる石。
紅孔雀石から作るヘルメスポーションは、レベル2だ。
アロマタイプで、この香りを嗅ぐと五感が鋭くなる効果がある。
魔物が潜んでいる場所では役に立つかもしれない。
3つ目がプロテクト・ポーション。
堅い殻を持つ木の実からできた、ポーション。
魔素の流れを生み出し防御力を向上させる。
まだ、名前も知らない、たまたま、ダンジョンの中で拾った木の実からできたものだから、詳しい原理が分かっていない。
これらのポーションの効果も、ダンジョンの中で試してみたい。
「だから、安全を確保するために、最大限の準備をしておくから」
「いくら準備したって、何が起きるのかわからないのがダンジョンよ」
「ああ。リスクがあることくらい分かっているって」
「だから…行って欲しくないのよ。怖いのよ。やめて」
今日のロザリアは、いつもより厳しいな。
いつもなら、そろそろ終わるんだが。
「商会をおかしくするようなことにはならないさ」
「そうじゃなくて。怖いの。アキラがいなくなると思うと」
あれ。
なんか、いつものロザリアと感じが違う。
いつもまとっているピンは張り詰めたような気が感じられない。
普通の女性みたいなやわらかな気だ。
「どうしたんだ? ロザリアぽくないな」
「なによ。ロザリアぽいって。私だって…」
ん……どうしたものか。
「もう、いいっ。勝手にダンジョンでも、どこでも、行けばいいわ」
あ、怒って出て行ってしまった。
機嫌が悪かったのか、今日は。
転生前はゲーム三昧で、女心には鈍感なアキラだった。




