第39話 魔法使い・魔素・交渉。ダンジョン探索のパーティ結成か
冒険者ギルドの居酒屋で俺は人を待っていた。
俺の前に赤ローブの男が立った。
「あなたがアキラさんですか?」
「ああ。アキラだ。ミックさん?」
「ええ。ミックです。よろしくお願いします」
「よろしくっ」
周りの冒険者たちは、ちょっと変わったふたりの組み合わせに興味津々だ。
俺は冒険者達に知られる存在ではない。
もちろん、俺が統括するポーションアトリエ製のポーションは誰でも知っている。
だけど、それを作っている男がこんなひょろっとした男だとは思っていない。
「ここだと、周りの眼がうるさいな」
「そうですね。出ましょう」
ミックとふたりで冒険者ギルドの居酒屋を出て行った。
そして向かった先は、街の一番の高級なバー。
そのバーは、個室がある。
☆ ☆ ☆
「今、C級冒険者達に声をかけてパーティを結成する準備をしている」
「そうみたいですね。剣士のラウルさんから聞いています」
「前衛の剣士は見つかったんだが、後衛の魔法使いがまだなんだ」
「それで私ですか。うーん」
この魔法使いさえパーティに入ってもらえたら、俺もダンジョンに入ることができる。
なぜ、ポーション師の俺がダンジョンに入ろうなど思ったのか。
それは、ある冒険者のもっていた実にあった。
クルミみたいな形の実だが、その実はダンジョン中の草になっていたという。
その実は、光ったのだ。
ポーションの素材になるということだ。
「もしかしたら、ダンジョンの中はポーション素材で溢れているんじゃないか」
元々、ダンジョンの中は魔素で溢れている。
商売繁盛効果がある「マキュリ・ポーション」の素材は野バラだったが、
普通のバラより魔素パワーが強かった。
どうも、魔素と俺が作るポーションには関係があると見た。
だから、俺がダンジョンに入れば、新しいポーション素材が見つかるんじゃないか。
そう思ったら、ダンジョンに行ってみたくて仕方なくなってしまった。
ただ、俺は戦闘に役立つスキルも、身体能力もない。
せいぜい、マルスポーションで強化するくらいだ。
同じマルスポーションを使っても、元々鍛えている男と、インドア派の俺では全く身体能力は違う。
俺が魔物と戦うというのは、死にに行くようなものだろう。
「それなら、強い人とパーティを組んだらいいの」
なんとなく、近くにいた薬師見習いをしているルティに話したら、そんなことを言う。
ルティは、孤児で孤児仲間の多くは15歳になると冒険者を始める。
なんの教育もうけていない孤児にとって一番稼げる職業なのだ。
だから、冒険者の世界が身近にあるらしい。
「わたしの知っている人は、そんなに強い人いないの。
でも、アキラさんのポーションがあれば強い人でも仲間になってくれると思うの」
そうか。
俺のポーションコレクションなら、きっと高ランク冒険者も欲しがるだろう。
俺が作ったポーションのうち、出来が良いものとか、試作品とかは正式に出荷していないものがある。
ダブルスター級の総合回復ポーションやマナポーション。
このあたりなら、交渉材料に使えるかもしれない。
そんなことを考えて、冒険者ギルドの居酒屋に足を運ぶようになっていた。
そして、前衛のファイター2人はすでに見つかっている。
巨大な両手剣を使うラウル。
盾と鋼鉄ソードのサイモン。
皆、Cランクの冒険者だ。
もうひとり、攻撃魔法を使える奴が欲しい。
それで、候補にあがったのが、ミックだった。
「もし、この話を受けたら専属となるんでしょうか」
「いや。そんなことはない。多くて週に1日。それ以外は他のパーティに所属してもらってもいい」
「4人パーティということは、報酬も1/4だと思っていいですね」
「いえ、違う」
「えっ、そうなんですか? どういう配分になります?」
「俺は配分はいらない。その代わりダンジョンの中で採取したものは俺の物だ」
「はぁ。それだけでいいんですか?」
わざわざパーティ構成の手間をかけているのに、
リーダーが自分の取り分を放棄する。
普通ならありえない。
「もっとも、俺は見ての通り、冒険者としては素人だ。報酬をもらえるほどの仕事はできない」
「はぁ」
「その代わり、特別なポーションをダンジョンに入る前に支給する」
「はぁ」
「ミックは、これだな」
3本のダブルスター品質のマナポーションを取り出す。
「うわ、なんですか、これ。すっごく品質が良さそうなマナポーションですね」
「今のところ、最高品質のマナポーションだ。俺の自信作だ」
「あ、アキラさんは薬師なんですか」
「そうだ。俺の目的はポーションに使える素材の採取にある」




