第38話 第7層・副収入・赤ローブ。最新ダンジョン事情
「なんと!第7層が解放されたと?」
「先を越されたな」
「誰がブラックゴーレムを倒したんだ?」
「トリカラーキャッツらしいぞ」
「あー、やっぱり。ダンジョン攻略をしているパーティではあそこが一番だよな」
最近、冒険者ギルドではダンジョン情報が行き交う。
元々、この都市国家の冒険者には近くにあるダンジョンはあまり人気がなかった。
ダンジョンで手に入る素材の買い取り価格があまり良くないし、一度入ると、損害を負っても帰り道でさらに損害が発生する。
そのうえ、ダンジョンで達成できる依頼はあまりない。
せいぜい初心冒険者が低層のあたりを無理をしない範囲でレベル上げに使っている程度だった。
ところが、冒険者ギルドによる魔力草の高額買い取り依頼が出てから雰囲気が大きく変わった。
「魔力草が1束銀貨1枚だってよ」
「マジか。魔力草なら、ダンジョンのあちこちに生えているじゃないか」
「ああ。低層だってあるぞ」
それまでは、買い取りが安い魔力草目的でダンジョンに入る冒険者などいなかった。
せいぜい他の目的のついでに魔力草を採取していただけだ。
「だがよ。今は第1階層にはもう魔力草がないらしいぞ」
「そうか、それだけ高く買い取りになるのならな。でも第2層なら、あるだろうよ」
「ああ。だがな、それも随分と荒らされてしまっているみたいだ」
魔力草ラッシュに出遅れた冒険者達が悔しそうに話している。
「だがよ。今度は錬金ギルドが魔石の高額買い取りを始めたらしいぞ」
「なんと。錬金ギルドもダンジョンに目を付けたのか」
「ああ」
魔石は、ダンジョンの中で魔物を倒すと手に入るアイテム。
ダンジョンの魔物はダンジョンの高濃度の魔素を吸収し、体内で魔石を作り出す。
魔石は魔物のエネルギー貯蓄として機能している。
魔物を倒すと、その身体は数分でダンジョンに吸収されるが、魔石やほかのドロップ品だけは残る。
魔道具のエネルギー源として魔石は使われているが、この都市国家ではあまり需要がなかった。
魔道具がお金持ちにしか普及しておらず、魔石は主にほかの都市国家に売られていた。
「しかし、錬金ギルドは魔石をどうするつもりだろう」
「錬金素材として魔石は使えるみたいだ。最近、錬金ギルドは錬金術師を他の都市から呼び集めているらしいぞ」
冒険者ギルドの魔力草と錬金ギルドの魔石。
二大収入源ができたことにより、ダンジョンは冒険者にとって儲かる場所になったのだ。
もちろん、それに加えて高品質なヒーリング・ポーションが提供され始めたのが大きい。
もし、損害を負っても、ダンジョンの中で解消できるなら帰路の安全が保証される。
「ダンジョン行くなら、ダブルスターポーションが欲しいよね」
「贅沢いうな。お前なら、ふつうのビーナス印で十分だろ」
「まぁ、そうなんだけどさ。ダブルスターを当たり前に使える冒険者になりたいっていうのはあるな」
「無理無理。シングルスターくらいにしておけ」
高ランクの冒険者はリスクも大きいから高品質のポーションを好む。
その分値段も張るが、早い回復は危険が続いている状況だと、それだけの価値がある。
「しかし、第7層か。そこまでは俺たちのパーティじゃ無理だな」
「そうとも言えないぞ」
「どういうことだ?」
「もし俺たちのパーティにエリア魔法攻撃ができる奴が入ったらどうなると思う?」
「ないない。そんな魔法使いがどこにいるんだというんだよ」
「それがな。最近、増えているらしいぞ。ほら、見てみろ」
「えっ?」
大きな扉を開けて、冒険者ギルドの居酒屋に一人の男が入ってきた。
真っ赤なローブに身を包んだ男、
最近、出入りするようになったばかりで、目立つ格好をしているから噂のネタにされている。
「あいつは高レベルの火魔法の使い手だ。最近、この街に来たらしい。もし、あいつが俺たちのパーティに入ればね」
「そりゃ、第7層だっていけるな。交渉してみるか」
「ああ。だが、あちこちのバーティから声が掛かっているみたいだぞ」
「だろうな」
どこの冒険者ギルドでも攻撃魔法を使える魔法使いは人気だ。
剣士なら数がいるが魔法使いはそもそも数が少ない。
そのうえ、高レベルで攻撃魔法が使えるとなると、ごくわずかだ。
どのパーティに入るのだろうか。
冒険者ギルドでは、赤ローブの魔法使いとして有名人になっていた。
その赤ローブ魔法使いは、居酒屋で回りを見まわしたあと、
ある男が座る席に歩いていった。
その男は、冒険者には見えない普通の街民の恰好をした青年だ。
そこでどんな話がされるのか……




