第34話 成長・星数・タチハダカル壁。メルとは違うんだよ、メルとは!
「大変です!」
ロザリアの「大変」に、ずいぶんと慣れたころに、この事件は起きた。
「今度はなんだ?」
「ダブルスターポーションなんですが」
ダブルスターポーションというのは、超品質のヒーリング・ポーションのことだ。
つまり、俺が作ったポーションにだけつけられた。スターマークがふたつのもの。
「ん? まだ作らないぞ、あれは。高級品は足りないくらいで丁度いいんだ」
元々、熱心に作りたいと思うポーションじゃない。
簡単に出来すぎるからな。
「そうじゃなくて。メルの作ったポーションがね。ダブルスターになったのよ」
「なんだとぉ! とうとう、あいつがやったか」
メルは第3グループのリーダーとして、今もポーションづくりをしている。
ただ、第3グループはちょっと問題があって、生産数がほかのチームより少ないのだ。
他のグルーブと同程度に生産数をあげるように指導しているが、どうしても上がらない。
その理由がメルの品質に対する異常な執念だ。
徹底的に品質アップを求めるメルに対してメンバーも協力的だ。
だから、どうしても数は少なくなる。
もっとも、第3グルーブのスターマーク率は45%になっていて、今は7つあるグルーブのトップだ。
その代わり、グループ生産数は一番低いが。
「そうか。とうとうダブルスターを作ってしまったか」
「アキラも追いつかれてショック?」
「ふふふ。こんなこともあろうかと」
「なに、それ?」
「今度な。ポーションを冒険者ギルドに納入するときにな。これも混ぜておいてくれ」
「すごく品質よさそうなポーションね」
「今度の冒険者ギルドへの納入にはメルを一緒に連れていってくれ」
☆ ☆ ☆
冒険者ギルドに、私、ロザリアとメルが来ている。
普段は私ひとりなのだけど、アキラの要望で今日はメルと一緒だ。
メルは自分が作っダブルスターポーションが認められて、
初めて冒険者ギルドへの納入に立ち会いが認められたと思っているのだろう。
顔がニタついている。
今回の納入は、ポーション100本。
増産効果があって、毎日100本納入が続いている。
安定供給は信用のために必要なことね。
冒険者ギルドでは、ビーナス商会が納入するようになってポーション需要が倍になっている。
100本納入しても、その日のうちに売切れてしまう。
「品質が安定しているから、ポーションを使うことを前提に活動を決めているんだ」
市場調査として、冒険者ギルドの居酒屋で話を聞いた時の高ランク冒険者の意見がこれ。
冒険者達は今まで、失敗して傷を負ったときだけポーションを使っていた。
傷を負う危険があるレベルまではダンジョン下層に挑戦していなかったらしい。
でも、今はポーションをいつくか用意してそれが半分になるまで下層に進んでいるらしい。
ポーション代はかかるが、それ以上に報酬や取得素材買い取りがアップするから問題なし。
ポーションの品質がアップすることで、冒険者たちの収入アップにもつながっている。
買い取り担当のギルド職員がやってきた。
「それでは、今日の100本、お願いします」
「まずはうちのグループの20本から鑑定してください」
メルが出した20本を見て、ギルド職員の目が輝いた。
「これはすごいですね。品質がそろっている。いや、一本だけ飛びぬけていいのがありますね」
「分かりますか。鑑定してください」
「もちろん。『鑑定』」
鑑定の結果は、残念ながら普通品質だったのが4本、15本が高品質。
そして。最後の一本が、超品質。
「これは、超品質です!」
「やった!」
「すごいわ、メル」
「ありがとう。ロザリアさんが応援してくれたからだわ」
実際、数が足りないのをロザリアがかばうことも多い。
品質にこだわるメルに共感も感じている。
「これからもよろしくね」
「アキラに見せたかったわ。これを作ったんだって」
「あ、アキラから託されたポーションがあるの」
「ん? なに?」
「これも、今回の納入に持っていけって」
「!」
アキラの託したポーションを見たら、メルが目を見開いた。
信じられないって顔ね。
「すごいポーションですね。初めてみました」
ギルド職員もびっくりしている。
「これ、鑑定していいですか?」
「お願いします」
鑑定の結果は、超品質のひとつ上、極品質だった。
「極品質なんてランクがあるんですね。長年鑑定をしている私でも初めてみました」
「そんなに珍しいものなんですか」
「超品質だって珍しいですよ。ビーナス商会さんは別ですが」
メルは悔しそうな顔をしながらも、眼をランランと輝かせている。
この顔はきっと、あれね。
なぜ、山に登るのかって聞かれた人が、そこに山があるからだ、と答えたって。
到底、登れそうもない山。
だけど、そこに山がある限りチャレンジしつづける。
メルはとってもいい薬師に育っていくわね。
まだ15歳だし。
「これはトリプルスターですね」
「はい。ちゃんとラベルを作ってあります」
必要だと思って作ったあったトリプルスターのラベル。
いくらの値段にするかは、ギルド側に任せることにした。




