第33話 横やり・激怒・関係者会議。折衷案から向かった先は?
「なんだと、1日35本ってどういうことだ!」
ビーナス商会事務所に駆け込んできたのは、マッチョな冒険者ギルドのギルマス。
「100本欲しいと伝えたはずだが。なんで増えずに減ってしまうだ?」
「それが…あちこちから横やりが入ってな」
今の状況を洗いざらい話てみた。
そしたら……ギルマス、激怒した。
「冗談じゃない! そんな奴らのために冒険者が求めるポーションが買えないとは!」
そうですよね。
俺も同感だ。
あんな低品質になりそうなポーションなんて使いたくないよな。
命にかかわる冒険者としては。
「では、うちのギルドとして、関係者に話をする場を作りたいがどうだ?」
「あー、お任せしたいんだが」
「任せろ!」
☆ ☆ ☆
マッチョで筋肉が多いギルマスはとにかく行動が早い男らしい。
あちこち駆けずり回って、あっという間に関係者会議が開催されることになった。
もっとも、俺はただの開発担当者。
参加はしないけどな。
ビーナス商会からは、ロザリアが会頭として参加する。
アルフォン商会からも、会頭が参加する。
バカディはただのポーション事業部長だから参加できないらしい。
俺と似た立場だな。
冒険者と商業のギルマスが2人。
それぞれの商会のオーナー貴族が2人。
全部で6人だ。
☆ ☆ ☆
「で、どうなったのか?」
「うちの全面勝利よ」
「はぁ?」
「アルフォン商会は、ポーション生産売買から手を引くわ」
「なんだって!」
話を聞くと、どうも今回の問題は、バカディの突っ走りが原因だったらしい。
バカディは自分の事業部が危機になって、規模は縮小しても継続する道を模索したのだ。
それが、アルフォン商会の会頭からオーナーへの談合依頼だったらしい。
状況を把握していない会頭とオーナーはバカディの言葉を信じて、談合を実現した。
貴族の間だけで。
だが、実際の利用者の声で動いているふたつのギルドは、猛反発。
アルフォン商会のポーションの取り扱いを一切しないと言い切った。
その結果、流通経路を失ったアルフォン商会は自分の店での販売しかなくなってしまった。
それでは、1日5本がやっと。
事業部を維持することができないと判明した。
「それでね。バカディが呼ばれたの。楽しかったわ。アキラにもあいつの顔を見せたかったわ」
それは楽しそうだ。
自分の味方だと思っていた上司とオーナーから責められる。
ギルマス達は当然だという顔。
うちの関係者はざまーみろ、だもんな。
「それで、アルフォン商会はポーション販売から手を引くことになったの」
「おい、待てよ。いきなりうちだけになったら、ポーション供給が足りなくなるだろ」
「そう。だけど、アルフォン商会に属していた薬師や各種施設がビーナス傘下になったのよ」
「おおーー」
「増産は簡単にできるわ」
☆ ☆ ☆
ロザリアが言っていた簡単に増産できるというのは嘘だった。
アルフォン商会のやり方に慣れた薬師がやたらと抵抗する。
「そんなやり方では品質はアップしない!」
俺は薬師や関係者を怒鳴り散らして、だんだんと品質尊重の精神が伝わりだして、増産がなされていった。
元々、アルフォン商会が作っていたような低品質になりそうなポーションは一掃した。
まだ、普通品質のポーションが多いのは仕方ないけど、高品質のポーションができるようになってきた。
ビーナスブランドにおいては、高品質なポーションにはスターマークを付けて、表示するようになった。
冒険者ギルドでも商業ギルドでも、スター付きポーションは人気で、値段が3割も高いにも関わず真っ先に売れてしまう。
単価が上がるから、利益も多くなって、薬師や手伝いの人たちの待遇改善につながっている。
大変な状況だけど、増産と品質アップの流れはだんだんと形になってきた。




