第2話 集落・ごちそう・婆さま。荒野の集落は優しかった
今日の3話目。
荒野もこのあたりになると少し様子が変わる。
草がずいぶんと生えている。
集落は茨のような棘つきの木で囲われていて、中にはヤギのような家畜がたくさんいる。
牧畜が主体の集落のようだ。
集落には枯草で作った円錐形のテントが全部で8つある。
その中でひとつだけ、大きく、中心に星形の飾りがついている。
もう、あたりはすっかりと日が暮れて、夜になっている。
このまま、野宿はしたくないな。
どんな野獣がいるかもわからないんだからな。
なんとか、この集落に泊めて欲しいものだ。
「こんばんは」
大きな声でテントに向かって声をかける。
茨の柵は越えずに外からだ。
下手に集落に侵入して敵だと思われたくないしな。
だけど返事はない。
聞こえないのか…もう一度言ってみよう。
「こんばんは!」
しばらくして、声が返ってきた。
「なんだ、お前?」
一番大きなテントから、顔を出している男がいる。
40歳くらいか。
服装は今の俺と似た感じだ。
よかった。
頭に牛の角でも乗せた野蛮人ぽいのが出てきたらどうしようとも思っていたからな。
「はい。旅人でして。道に迷って困っています」
「はぁ? なんで、こんなとこに迷ってくるんだ?」
「そんなことを言われても……」
ブラック女神のせいだ、と言いたいけど、
話がややこしくなりそうだから言わずにおこう。
「まぁ、いい。どうせ、ここじゃ、大した物はないから盗賊も来ないからな」
「そんな盗賊なんて……」
うーん、ずいぶんと自分ながら弱々しい声だな。
間違いなくなめられてしまうな。
「よし、今、門を開けるから入れ!」
「ありがとうございます」
助かった。
これで異世界生活がスタートできるかも。
「できたら、今晩泊めてもらえれば…」
「そらそうだろ。こんな夜に追い出すこと、できるはずがないだろ」
「ありがとうございます!」
門を開けながら、男は自己紹介した。
「ワシはこの集落の長で、ゴンスだ」
「アキラです。よろしく」
ふう。いい感じの人で良かった。
だけど、ボッタクリじゃないと決まった訳じゃない。
知らないとこに行ったら最初に料金の話をしろ。
前に海外旅行したとき注意を受けたっけ。
海外じゃなくて異世界だけど、注意されたことは実践しておこう。
「それで一泊させていただくのに、いかほど支払ったら……」
「何を言っているんだ? 金なんか取るかよ。砂漠の客は歓迎するのが、この地の習慣さ」
「本当ですかっ」
びっくりした。
知らない異世界で歓迎してもらえるとは。
すごくうれしくなる。
「そろそろ夕食の時間だ。食べるだろ」
「はい!」
☆ ☆ ☆
ふう。
腹いっぱいだ。
一番大きなテントには、10人ほどが集まって食事をした。
この集落には45人が住んでいるらしい。
ヤギは全部で250匹もいるという。
放牧が中心で、他には狩りをする人もいる。
この集落に旅人が来ることは何年に一度しかないということで歓迎してもらった。
大きな鍋でいろいろと煮込んだ鍋料理をふるまってもらった。
具材は、にんじん、玉ねぎ、ヤギ肉、チーズ。
ヤギの乳で煮込んでいるから、白い鍋だ。
とろとろになるまで煮込まれていて、うまい。
「遠慮なく、食べろ」と勧められたから、何杯もお替りしてしまった。
夕食が終わると寝る時間らしく、周りの男たちは寝ている。
まだ、たぶん8時くらいだろう。
寝付けない。
転生前なら、ゲームタイムだからな。
ここから深夜2時までは、邪魔されないゴールデンタイムだ。
寝られないから、ポーションづくりでもしておこう。
音はそんなにしないから迷惑じゃないからな。
みんないびきをかくくらい寝入っているし。
ここに来るまでに採ってきた草。
それを使ってポーションを作ってみよう。
・
・
・
できた。
全部で10本。
微回復ポーションだ。
ちょっと疲れたから、寝られそう。
むにゃ、むにゃ。
☆ ☆ ☆
「おはよう!」
「はい?」
おばさんが覗いている! 誰だ?
「もう日は昇っているわよ。起きなさい」
「はい、あ。おはよう」
そうだ、砂漠の集落に泊めてもらったんだ。
この人は、昨晩は会っていないな。
「えっと。ゴンスさんは?」
「旦那は、もう放牧に行ったわよ。あんたは起きないから置いていってさ」
なんと、寝坊してしまったらしい。
もっとも、朝日の感じからすると7時くらいだ。
集落の人たちが早起きすぎるんだ。
「それであんたはどうするの?」
「どうしようかな」
「町に行くんじゃないの?」
「そうだった、町だ」
昨日の食事のときに、この近辺の話を聞いたんだっけ。
この集落に来た道を戻っていくと、4時間くらいで街道に出る。
街道には10キロ毎に宿場町があるという。
まずは、その宿場町に行こうという話をしたんだっけ。
「それじゃ、ゴンスさん達にもよろしくと」
「わかったわ。気を付けてね」
ゴンスさんの奥さんに見送られて集落を出た。
おっと、いけない。戻んなきゃ。
「何? 忘れ物?」
「お礼の品を渡そうと思って」
「何かしら?」
腰の袋から小瓶を5本ほど手渡す。
昨日の夜に作ったポーションだ。
「あら、何、これ?」
「ちょっとだけ回復するポーションなんだ」
「ポーション? こんな高価なもの、もらえないわ」
「回復と言ってもちょっとだけですから」
「それでも高いものなんでしょう?」
「どうなんでしょう」
どうも、ポーションは高いものというイメージがあるらしい。
町ではどうなのかは不明だけど、少なくても集落ではそうらしい。
「体調崩している人とかいたら、飲ませて欲しい」
「それなら、婆さまに飲ませていいかしら」
「おお。それはいい」
婆さまが寝ているテントに連れていかれる。
最近、調子が悪くて寝込んでいるという。
もっとも、高齢だから月の半分くらいは調子が悪くて寝込んでいるらしいが。
「ほら、婆さま。ポーションをいただいたわ。きっとよく効くわよ」
あ、そんなに期待してもらっても…。
まだ、効くかどうかわからないんだけど。
「ポーション? そんな贅沢なものはいらん!」
「そんなこといわずに。昨日泊めてもらったお礼だし」
「そうよ、婆さま。旅人さんの気持ちなのよ」
「ん? そうか……なら、いただくとしようか」
よかった。飲んでくれるらしいぞ。
婆さまは、上半身だけ起こしてもらって、一気に『ポーション微回復』を飲んだ。
あ、婆さまの身体が少しだけぼーっと光ったぞ。
「おや。これは効くな」
「さすがポーションやね。即効性がすごいわ」
「そうなのか?」
昨日、自分で飲んでみたときは、「効いたのか?」程度だったんだけどな。
婆さまにはよく効いたらしい。
「うん。起き上がれるくらいにはなった。ありがとな」
「すごいわ。こんなに効くポーション。5本も、もらって」
「ほう。そんなにか。なら、何かお礼しないとな」
うわ、一泊のお礼のために渡したのに、さらにお礼とは。
そういうのをしていると、キリがなくなりそうだな。
「これをもっていきなさい」
「へ?」
ただの石ころじゃないか。
真っ白いピンポン玉くらいの石。
ちょっと拍子抜けしたな。
もうちょっといい物がもらえると期待した俺が悪いんだけど。
「今は、これが何に使えるか、分からないと思うがな」
「ええ。全くと言っていいくらいわからないな」
「ちゃんとわかる時が来る。その時まで手放すではないぞ」
ありがたくもらうことにした。
それがとんでもないタイミングで役立つ時が来るとは、この時は予感すらなかった。
おおっ、ブクマが5人になってるっ。評価5:5を入れてくれた人も。ありがとうっ。
まだまだ始まったばかりなのに感謝です。